追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
51 / 77

第51話 対 聖女エリス・ティタース ②

しおりを挟む

 エリスの手に白と黒の輝きが集まる。
 くそったれ聖女は、黒の大瓶の栓を抜き放った。
 大瓶の口から、粘ついた何かが吹き出してくる。
 周囲に、鼻をつんざく異臭が広がった。同時に、焼けた石に水を振りかけたような蒸発音が聞こえてくる。

 ……いや、これは。溶けているんだ、地面の草地が。

 瓶から飛び出した何かは、まるで巨大なスライムのように半固形のまま積み上がっている。だが次第に、別の形に変化していった。

 灰色に赤や黄土色が混ざった体表。
 四つ足。
 鋭い牙を持つ顎。

「あ……あ……」

 すぐ後ろで、膝をつく音。リーニャだった。
 神獣少女は愕然とした表情で、つぶやく。

「みんな……」

 ――俺たちの眼前に現れた召喚獣。
 それはまさしく、神獣オルランシアを模した姿をしていたのだ。

 だが、あまりにも。あまりにもむごい。
 かつてリーニャが巨大化した姿を見ていなければ、俺も『これ』がオルランシアの似姿とは気づかなかったかもしれない。

 かろうじて全体は獣の形を保っている。
 しかし、全身のあちこちは爛れ、崩れ、さらに身体のあり得ない場所から別の足や顔の一部が生えている。成れ果てドラゴンを彷彿とさせる、不格好な木偶でくの惨状。

「まあまあ、なんて醜いこと」

 エリスの声が聞こえた。
 こちらの動揺に気づいて、再び気を良くしたのだろう。先ほど垣間見せた本性は、もう微笑みで塗り固められている。

「言っておきますが、皆さん。この召喚獣もどきは、そこにいるアリア・アートが創り上げたことをお忘れなく。わたくしはただ、これを再び動けるようにしただけですわ」
「貴様……!」
「怒るなら、そこの小娘に怒りなさいな。尊い生命を冒涜ぼうとくした愚かな愚かな人間は、わたくしではなくアリアの方で――」

 聖女の口上が途切れる。
 歯をむき出しにしたリーニャが、一気に飛びかかったのだ。
 速い! リーニャせ――と制止する間もない。

 パッと閃光が散った。
 リーニャの爪が届く前に、不可視の結界によって阻まれる。

 俺は唇を噛んだ。そうだよ、こいつは自分大好きな聖女。
 
 聖女の力による結界魔法、その強さは、俺も何度か目にしてきた。リーニャの一撃を防ぐほどの強度があっても、不思議じゃない。

「牙を向けるのはわたくしではないと言いましたのに。しつけのなってない子ね」

 リーニャが距離を取る。
 両手を地面に突き、四つん這いになる。同時に強い魔力、そして神力が彼女の身体からあふれ出した。銀色の毛が全身を覆い、どんどん巨大化する。

 銀の大狼。本物の神獣、オルランシア。
 成れ果てドラゴンを屠った強力無比な力が、今再び現出した。

 そこへ。
 味方であるアリアから、焦りの声が飛んだ。

「駄目、リーニャ! 下がって!」

 神獣リーニャの足がぴくりと止まる。
 聖女エリスがわらった。

「躾をしてあげましょう。わたくしの手で」

 掲げたエリスの手から、黒い魔力がほとばしる。
 アンにまとわりついていたモノと同種の力。魂を失っていたアンの瞳が、俺の脳裏に蘇る。
 リーニャはその場から動かない。
 魔力の危険と、エリスに対する憎悪。その二つがせめぎ合っているんだ。

 俺は【楽園創造者】の力を呼び起こす。リーニャを護る、その楽園を――。

『ラクター様、イメージの創造が間に合いません!』

 女神の警告。
 それでも、俺は神力を練る。奴の、くそったれ聖女の好きにさせてたまるか。

 そのとき――。
 リーニャと聖女の間に、誰かが飛び込んだ。

「アリア!?」
「ぐっ!?」

 黒い魔力をまともに浴びて、アリアが膝を突く。
 我に返った神獣リーニャが、アリアをくわえて俺たちの元まで一足飛びに後退する。俺は元賢者の身体を受け止めた。

「アリア! おい、しっかりしろ!」
「……だいじょうぶ」

 自らの言葉を証明するように、アリアは俺の手をはねのけ、自分の足で立つ。
 脂汗がひどい。黒い魔力はアリアの全身を這い回っている。

「私はもう、あの聖女から呪いを受けてる人間だからね……耐性バッチリなんだから……。リーニャが操られたら、それこそシャレにならないでしょ……」

 アリアはリーニャを見上げた。

「あんたこそ、大丈夫なの?」
「にゃ……」
「そ。よかった。……ごめんね、リーニャ」

 元賢者の視線が、成れ果て召喚獣に向けられる。

「あれを創ったのは間違いなく私。だから、私がなんとかする」

 アリアの中で、魔力が凝縮されていくのを感じた。
 だが――弱々しい。
 かつて俺と対峙したときと比べて、なんて小さな力か。聖女エリスのどす黒い魔力の方が、圧倒的な存在感を放っている。まるで、弱者のあがきを嘲笑うかのように。

 成れ果て召喚獣が、動いた。
 知性の感じられない動きで、のっそりと突進してくる。

 神獣リーニャが応じた。俺たちの前に出て、突進を身体で受け止める。触れた部分が音を立てる。だが神獣リーニャはひるまず、そのまま四肢に力を込めて押し返した。
 その隙に、俺は【楽園創造者】の力で結界を張る。

「ちっくしょう……」

 リーニャの大きな身体、【楽園創造者】の結界に護られた中で、アリアがつぶやいた。血反吐を吐きそうなほど、悔しそうな声だった。

「ここでぜんぶ出さないで、いつ出すんだよ。アリア・アート……あんた、生まれ変わるって決めたでしょ。歯ぁ食いしばって、ここまで来たんでしょ。もっと力出せよ、私……!」
「アリアさん……」

 イリス姫、そしてアンが心配そうに元賢者を見る。

 ――アルマディア。

『お心のままに。ラクター様』

 俺は再び、【楽園創造者】の能力を解放した。
 アリアの足下に、神力の輝きが宿る。


 ――『楽園創造』。


 神力によって切り取られた空間が、アリアに往年の魔力を呼び起こさせる。
 かつて大賢者として思うままに魔法を振るってきた彼女。
 そして、一度はそれを棄てた彼女。

 賢者の魔力が、アリアにとって楽園になるかどうかは、彼女自身が決める。
 今のこいつなら、決められるはずだ。

 アリアは俺を見た。
 驚いた表情が、すぐに不敵な笑みに変わる。

「でっかい借り、またできちゃったね。あんた、凄くなりすぎだよ、ラクター」

 ――途端にあふれ出す、力強い魔力。
 俺の神力と、アリア全盛期の魔力、そして聖女エリスの呪詛。
 その三つが大賢者の身体を包み込む。

 アリアは、

 高らかに詠唱を紡ぐ。そして告げる。

「これが、私の新しい魔法」

 高まる力を感じ、リーニャが道を空ける。
 賢者の魔力が火炎を呼ぶ。極大火炎魔法ヘルファイア――。

 いや、違う。

 アリアの魔力だけじゃない。
 彼女をむしばんでいたはずの黒い呪詛、それを火炎魔法に織り込んでいる――!

「行くよ――黒呪・極大火炎魔法シュバルツ・ヘルファイア!!」

 唸りをあげる炎。黒の帯で彩られた極大魔法は、蛇のように成れ果て召喚獣を締め上げた。
 身体を焼く――だけでない。黒の魔力が成れ果て召喚獣に干渉し、急速に崩壊させていく。

……さしずめ『黒魔法』といったところですか。まさに、大賢者の面目躍如ですね』

 女神アルマディアが告げる。

『そしてこの魔法、聖女にも効いている』
「ああ、そうみたいだな」

 ――聖地から消滅した成れ果て召喚獣。
 先ほどまでそいつがいた場所の、向こう側。
 デバフの余波を受けたエリスの結界が、穴だらけになっていた。

「こ……の……!!」

 くそったれ聖女の外面そとづらが、再び剥げ落ちた。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...