追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
45 / 77

第45話 『元』大賢者アリア

しおりを挟む

「やり直すための『墓参り』……か」
「うん。ごめんね。また騒がせちゃった」
「まったく、そんなボロボロになるまで気張りやがって。無茶するのは相変わらずなんだな」

 俺は苦笑しながら言う。

 ――昔のアリアなら、そんなことは絶対しなかった。
 ミスは隠して他責思考。いかに自分が叱責やプレッシャーから逃れるかを考える。それが俺の知る、アリア・アートだ。

 やり直したい。そのために立ち直った。
 アリアの意志は本物なのだと、俺は思った。だからこそ、口から出た『立ち直っても』の一言には、特別に感慨深いものがあった。

 そんな俺の口ぶりになにかを感じたのか、アリアは照れたようにまた、頬をかいた。

 空になったカップを隣のローテーブルに置くと、アリアはベッドから起き上がる。慌ててイリス姫が寝かせようとするが、元賢者はやんわりと断った。

「もう大丈夫。一眠りしたらだいぶ回復したから」
「ですが……」
「ホントに大丈夫だってば。……まあ、強いて言うなら」

 アリアは自らの格好を見る。
 汚れた服の代わりに、今は純白のワンピースを着ている。仕立ての良さそうな、上品な逸品だ。
 すそ丈はぴったり。身長には合っている。

 ただし。

「これ、姫様の服だよね……? があって大丈夫じゃないんだけどなあ?」

 立ち上がったせいで、その『一部』の差が如実にわかるようになっている。あ、心なしかアリアの顔に生気が蘇ったな。笑いながら怒ってやがる。

 俺は女騎士スティアを振り返った。
 凜々しい側近は、鼻息荒く断言した。

「さすが姫様」
「おいアリア。コイツが犯人だ」

 容赦なく指摘すると、元賢者は指を鳴らしながら俺の隣に並んできた。

「ふつー、さ。主君の衣服を行き倒れ相手に持ち出したりしないよね……? ワザと? ねえワザと?」
「よくお似合いです」
「ねえコイツぶん殴っていい!?」

 アリアが涙目で訴えてくる。
 まさか勇者パーティのひとりに同情する日が来るとは思わなかった。まあ、アリアはもう『元』勇者パーティだが。

 とりあえずこれ以上アリアが爆発しないように、スティアには退室させた。ついでに別の服を見繕ってくるよう指示する。不安なので別の人間も一緒に付けた。

 気を取り直して、アリアを見る。別の気になったことを、尋ねた。

「なあ、アリア。お前、まだ力は戻っていないのか?」
「……どうしてそう思うのよ」
「あれだけイラっとしたなら、魔法の一発や二発かましてたんじゃないかって思ってな」

 誤解なら悪かった、と付け加える。
 アリアはしばらくうつむいてから、答えた。

「そうよ。まだ本調子じゃない。というか、そもそもの力がごっそり抜け落ちちゃった感じね。たぶんだけど、前の十分の一以下。もしかしたら百分の一かも」
 魔法の詠唱文も、ほとんど頭から消えちゃった――と彼女は笑う。イリス姫が「そんな……」とつぶやき、青ざめていた。
 これは俺がアリアを打ち倒した反動か。それとも、彼女を蝕む聖女の呪いか。

 アリアが顔を上げた。

「ま、こういう状況になって初めてわかったことがあるわ。ラクター、あんたってすごかったのね」
「ん?」
「自分ひとりでサバイバルするのがこんなに大変とは思わなかった。そっち方面ってあんたの役割だったじゃない。私たち、あんたに頼りっぱなしだったってワケね」

 元大賢者が俺と正対した。

「今更だけど、お礼を言いたい。ありがとう、ラクター。それから、今まで本当にごめん」
「アリア……」

 人は、変わるときは変わるもんだな――と思った。

 ――それから俺たちは、滞在施設内の食堂に集まった。あらかじめ、姫の同行者たちが食事を作ってくれていたのだ。
 アリアの服装は、結局、騎士用のつなぎで落ち着いた。体格的にだぼついているが、イリス姫のワンピースよりか百倍ダメージは少ないらしい。
 固形物もしっかり食べているところを見ると、アリアは順調に回復しているようだ。ルウや医官には感謝しないといけない。

「それにしても、不思議なモンね。こんな森の中に、いったいどうやって建てたのかしら。こんな立派な施設」

 もぐもぐとハンバーグを頬張りながらアリアが首を傾げる。
 隣に座ったイリス姫がすぐに答える。

「これはラクターさんのお力なんですよ!」
「え? マジで?」
「はい! こう、『建物できろー』みたいな感じで、パパッと!」

 姫、得意げである。
 元賢者はじっとりとした視線を俺に向けてきた。

「あんた、姫様になんかしたんじゃないでしょうね」
「なんでだよ」
「あの聡明なイリス・シス・ルマトゥーラの語彙力が死んでるじゃない」
「……」
「否定しなさいよ」

 アリアが言う。何気に落ち込んでいるイリス姫の背中を、よしよしと撫でていた。
 俺は言った。

「アリア。元気が戻ったようで嬉しいぞ」
「うっさいわ」

 ぴしゃりと反撃された。

『おお。ラクター様に心を開きつつ、ここまで強く言えるとは。これはこれで貴重な人材です』

 なにやら女神が感心していたので、俺は確固たる意志を持って無視した。

 ――食事が一段落付く。

「さて、それじゃあラクター。私、なにをすればいい?」
「なに、とは?」
「行き倒れたところを助けてもらった上に、食事と衣服まで恵んでもらったのよ。さすがになにもしないわけにいかないじゃない。なにか、できることある?」
「気にするなよ」

 汚れた皿をアリアと一緒に運びながら答える。

「俺はスカルに追放されたときから決めてるんだ。一生懸命頑張る奴をリスペクトしようって。アリア、お前は歯を食いしばってここまで来たじゃねえか。やり直すために。俺にとっちゃ、それだけでも十分、お前を尊敬する理由になる」
「ラクター……」

 アリアはうつむいた。
 それからしばらく彼女は無言だった。考え事をしているようだった。
 やがて、意を決したように口を開く。

「ラクター。迷惑ついでに、お願いしたいことがある」
「なんだ?」
「この森を探索する許可がほしい」

 俺は怪訝に思い、眉をひそめる。
 アリアの表情は真剣だった。まるで、これから魔王でも討伐しに向かうかのように。

「私には、まだやり残したことがある。カリファ大森林に遺棄された、私の実験の成れ果て……今はまだ眠っているはずの召喚獣を処理してくる。もう二度と、この平穏な森に被害が及ばないように。これは、私がやらなきゃならない後始末なんだ」



しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...