追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
43 / 77

第43話 大空のデート

しおりを挟む

 イリス姫の安全確保。
 勇者パーティの聖女エリスが、姫に危害を加えようと企んでいる。
 ……まったく。呆れるほど簡単に納得できてしまう。

「詳しく教えてくれ。キリオ文官」
「自分の場合は書記官ですね、陛下」

 ちょっとめんどくせえな。

「じゃあ書記官殿」
「姫様の伴侶となられるのですから、どうぞ、キリオと呼び捨てにしていただいて構いません」
「めんどくせえな!」
「いけません陛下。姫様の御前でそのように強い言葉を発しては、あの淑やかで穏やかなご性格上、ひどく狼狽えてしまいます。夫婦になるのですから」
「……お前さ。もしかして王族の婚姻手続きを勝手に進めようとか考えてないよな?」
「不可能を可能にするのが日々の努力です」

 俺は姉騎士を見た。
 凜々しい表情のままじっと弟の隣に立っている。うなずくでも、否定するでも、弟をたしなめるでもなく、ただじっと立っている。
 ……話、聞いてない目だな、これ。

『やはり稀有な人材ですね。姫が典型的な姫なので、周囲が少々暴走気味の方がバランスが取れるのかもしれません』

 女神アルマディアがしみじみと言う。
 これはイリス姫を労うべきだなと俺は強く思った。

 ――気を取り直し、今度こそ詳細を聞く。

 キリオの話によると、聖女エリスは当初から姫を快く思っていなかったらしい。これは俺も知ってる。時々、愚痴ってたからな。聖女のくせに不敬な。

「様子が変わってきたのは十日ほど前です。賢者アリア様が、突然賢者の位を返上するとおっしゃり、王都から姿を消されました。以後、相対的に聖女様の存在感が増し、それに伴ってイリス姫様への当たりも強くなってきたのです」
「いよいよ邪魔者を排除したいと思い始めたんだな……」
「聖女様の内心はわかりません。我々下々の者には、あまり感情を動かさない方ですので。ただ、最近の姫様は見違えるほどたくましくなられた。以前ならば聖女様の強い言葉に萎縮していたであろうところ、堂々と相対できるようになられていました」

 それが面白くなかったんだろうな。
 自分が下に見た女が面と向かって刃向かってくるの、一番毛嫌いしそうだもんな、あいつ。

「自分や姉も、聖女様が取り巻き達と何か密談している様子を目撃しています。国王陛下に陳情したところ、今回の『視察』が実現したというわけです」
「王様に陳情? お前たちが? ずいぶん大胆なことをするな」
「陛下も我々と同じく、ですので」

 横でうんうんとうなずく姉騎士スティア。
 ルマトゥーラ王国……実は上も下もそこそこ緩い……?

「国王陛下は内心後悔なさっているのです。イリス姫様がずっと苦しみながらも耐えていた状況から救えなかったと。だから今は、できるだけ好きなことをさせたいとお考えのようです。王城抜けだしを喜んでもいました」
「やっぱ緩いな王国……」
「ですので」

 キリオが眼鏡のブリッジに指をかけ、ずいっと迫ってきた。ついでに姉騎士も迫ってきた。

「姫様の安全確保と精神の健やかな安寧あんねいのため、ぜひご協力を!」
「……具体的には?」
「「逢い引きデートです!」」

 ぴったりハモりやがったよ、この双子。



 ――それから数十分後。

「あわわ……! た、高いです……!」
「しっかりつかまってるんだぞ、イリス姫」

 俺は姫様を連れ、大空を飛んでいた。
 魔法――ではない。
 三対の翼を持つ神鳥にふたりで乗せてもらったのだ。

 神鳥にはそういう特殊能力が備わっているのか、上空をかなりの速度で飛んでいるのに、風圧も冷気もほとんど感じない。快適そのものだ。

 ちなみに、神鳥に追随してもう一羽、大きな鳥が飛んでいる。背中にはリーニャが乗っていた。
 俺が頼んで付いてきてもらったのだ。護衛兼である。例によって「主様。鳥、食べていい?」と聞いてきたので強めの口調でたしなめておいた。
 今現在。心なしか、耳が下がってしょぼんとしているように見えた。

「ラクターさん! 王都が見えます。ほら、あれ!」

 イリス姫が興奮したように指差す。森の向こうに、大きな街スクードと立派な王城が確かに見える。陽光を受けて、城は美しく輝いていた。

 どうやら、空の旅も慣れたようだ。【ビーストテイマー】の能力を持つ彼女。鳥に乗って空を飛ぶことに喜びこそすれ、抵抗はなさそうだ。
 連れてきてよかった。
 苦労しているであろう姫を労うと決めたからな。

 ――一時間ほど前。

 双子姉弟に引っ張り出されるようにしてやってきたイリス姫に、俺は「ふたりで空の旅をしないか」と持ちかけた。
 双子が「逢い引きですよ逢い引き」とはやし立てたので姫は大混乱していた。俺が否定しなかったのでさらにパニックになり、最後はパテルルに追い立てられるように神鳥の背に乗った。

 姫が前。俺が後ろだ。
 自然と、イリス姫を後ろから抱きかかえるような姿勢になる。

 ……神鳥の特殊能力とはいえ、多少の風は吹いてくれたほうがよかったかもしれん。
 姫の髪の匂いがふわりと漂い、落ち着かない。

 飛び立った直後は、緊張しているのかガッチガチに固まっていた姫様。
 不敬とは思いつつ、何度か頭を撫でてやった。
 すると途端に早口でいろいろまくしたて始めたので、俺は可笑《おか》しくなって、「ほら落ち着けって。俺はどこにも行きゃしないし、ちゃんと話も聞いてるから」と少々乱暴に頭をぐしゃぐしゃとやった。
 ま、それからだな。リラックスして空の旅を楽しんでもらえたのは。

 遠慮も消えたのか、彼女の背中と俺の胸はぴったり密着している。
 まあいいか、と俺は思った。

 ――俺たちが向かうのは大神木。その天辺だ。
 結界を抜け、大神木の偉容を目の当たりにしたときは、さすがの姫も言葉を失って見入っていた。
 神鳥はさらに高度を上げ、枝葉を越え、大神木の天頂部にたどり着く。

 大きな葉っぱの上に神鳥が降り立つと、俺は先に降りて足場を確認した。それから姫に手を差し伸べる。

「すごい……」

 姫は辺りを見回しながらつぶやいた。

「まるで世界全体を見ているよう」
「ああ。俺もここまで上がったのは初めてだ。すごいよ」

 しばらくふたり寄り添い、世界を見下ろす。
 ふと、姫の手が俺の腕に触れた。

「今、この森すべてがラクターさんによって治められているんですよね」
「治めてる実感は皆無だがな」
「自信、持ってください。私にはわかるんです。森の動物たち、そして私たちを運んでくださった神の鳥。皆が、あなたのことを認め、慕っています」

 イリス姫は「やっぱり、――」とつぶやいた。最後の方は聞こえなかった。彼女の横顔を見ると、赤くなっていた。

 直後、すぐ足下で、がさんっ――と葉っぱの散る音がした。

「リーニャ聞こえた。イリス、見る目ある」

 下から駆け上ってきたリーニャが、天辺に飛び出しながら言った。
 首を傾げる俺に、慌て出すイリス姫。

「なにを聞いたんだ? リーニャ」
「イリス言った。やっぱり主様が勇者様だって」
「リリリ、リーニャちゃん!」

 リーニャの口を塞ごうとする姫。だが、オルランシア族の敏捷性には敵わない。そのままその場にへたりこんで、姫はうーうー唸りだしてしまった。
 まあ、何というか……光栄、と思うことにしよう。

「主様」

 唸る姫を放置し、リーニャが側にやってくる。
 耳打ちしてきた。

「言われたとおりしっかり探した。……居る」
「本当か」

 ――空の旅にリーニャを連れてきた理由。目的地に大神木を選んだもう一つの理由。
 それは、この森で最も高い場所にある大神木の天辺から、侵入者の気配を探すためだ。
 リーニャの鋭敏な感覚は、その役割に相応しい。
 その彼女が、侵入者の気配を捉えたという。

「けど、知らない匂いじゃない。前に見たことある」
「なんだって?」
「この気配。匂い。少し様子が違うけど……主様がぶっ飛ばした、あの帽子女で間違いない。近くまで、来てる」


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...