追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
41 / 77

第41話 姫様のお顔

しおりを挟む

 ――イリス姫の手紙を受け取ってから、数日後。

「……なあ、アルマディア。本当に俺は行かなくてよかったのか?」
『よいのです。何度も申し上げたではないですか』
「確かにそうだが。お前ならわかるだろ。正直、落ち着かないんだよ。俺」
『こればかりは、諦めていただくほかありません』

 アルマディアはにべもない。

『天界でも、人間界でも、保つべきというものがあります』
「……今更って気がするけどなあ」
『もう。ただ待っているだけでよいのですから、もう少し鷹揚おうように構えてくださいませ』

 俺はため息をついた。

 今、俺たちがいるのは拠点である王樹の中。
『大神木の新花』のレガリアをバックにした、豪奢な椅子の上である。
 アルマディア曰く――ここはカリファ聖王国のだ。

 体育館ほどの広さがある空間には、俺たちの他に様々な動物たちが待機している。翼三対の、あの神鳥も一緒だ。
 何も知らない人間からすれば、この俺は数多の珍しい動物たちを従えた王様――と見えなくもないだろう。

 落ち着かない。
 さっきから俺がアルマディア相手にグズグズ言ってたのも、君主然としてふんぞり返るのは性に合わないと思ったからだ。
 ましてや、これから迎え入れるのがとくればなおのこと。
 どんな顔して会えばいいんだ、まったく。こんなことなら、やっぱりリーニャと一緒に森の入り口まで迎えにいけばよかったぜ。

 命令し、命令される関係にうんざりしたから、勇者パーティと縁を切ってこの森に来たっていうのに……。これじゃ勇者スカルと大差ないんじゃねえか?

『これも経験です。カリファ聖王国に生きる者たちの意志と信頼は、あなた様にとっても必ずプラスになりますよ。……さあ、おいでになりました』

 落ち着き払った女神の言葉に、俺は気持ちを切り替えた。

 ――数日前にイリス姫が言っていた『近いうちに俺の元を訪れたい』という話。
 姫様は、こちらに手紙を出したときにはすでに準備を進めていたようだ。
 しかも今回はお忍びではなく、ルマトゥーラ王国王女イリス・シス・ルマトゥーラとして正式な『視察』とのこと。
 それを知ったアルマディアが『では、こちらも相応しい待遇でお迎えしなければ』と言い出した。

 で。
 俺は女神の指示で王樹の玉座に座り、カリファ聖王国の王として他国の姫君をお迎えするという形を取ることになったのだ。

 ――巨大葉っぱエレベーターが、王樹の空間まで到達する。

 案内役として姫様を迎えに行っていたリーニャが、先頭で歩いてくる。
 続いて、彼女の眷属たるオオカミや、見るも厳つい熊などの動物たち。露払いゴツすぎ。
 さらにその後ろには、数人の騎士や文官らしき人影があった。微妙に狼狽うろたえている。俺は顔を覆いたくなるのをこらえた。

 リーニャたちが道を空ける。
 正面に、パテルルの上に横座りしたイリス姫様がいた。

 ……思わず、瞬きしてしまった。

『ほう。これは』

 アルマディアがつぶやく。この声音、感心しているのだ。
 俺も、同感だった。

 最後に顔を合わせたのは、もう三週間以上前。
 かつて、穏やかだが臆病さも色濃くにじんでいた表情は、いまや凜々しく引き締まっている。
 伸ばした背筋、身につけている衣服。外見そのものは前回と同じだけど、彼女から感じる気品というか、貴人の圧みたいな凄みが段違いだった。
 なんだろうな。自信を持ってる。そんな感じ。

 俺は内心――嬉しくなっていた。
 男子三日会わざれば刮目かつもくしてみよ、ってことわざがある。男女の違いはあるけど、イリス姫にも当てはまるな。これは。

 俺は気持ちを引き締め、玉座を立ち上がる。姫様の元まで歩くと、敬意を込めて握手する。

「ようこそ。カリファ聖王国へ。イリス姫」
「このたびは私の無理を聞いていただき、感謝いたします。ラクター・パディントン陛下」

 握手の後、淑やかに一礼するイリス姫。俺は苦笑した。

「よしてくれ。柄じゃないのは姫様も知ってるだろ。いつも通りで頼むよ。……あー」

 周りに控えた騎士、文官たちを見る。

「まあ、姫の連れに怒られない程度に」
「ふふっ」

 イリス姫は愉快そうに笑った。なぜかその瞬間、姫様のお連れたちの緊張もフッと解けたように感じた。

「大丈夫ですよ、。今日同行しているのは、私が信頼を置く者たちです。彼らにも、ラクターさんのことを知ってもらいたくて」
「成長したなあ」

 無意識のうちに口をついて出た。
 イリス姫の目尻が下がる。

「私が成長できたのなら、それはラクターさんのおかげです」

 純粋な信頼の瞳が、俺を見上げてくる。
 それを真正面から受け止めるのも、悪くない気持ちだった。

 しばらくして、イリス姫が周囲に目を向ける。

「お手紙でうかがってはいましたが、本当に立派な建物ですね。王城にも引けを取りません。それに、こんなにたくさん可愛い子たちが」
「【ビーストテイマー】としては、こっちの方が居心地いいかな?」
「はい! あ、いえその。ごほん」

 勢いよくうなずいてから、赤面して空咳をする姫。
 誤魔化すように視線を巡らせた彼女は、ふと、ある一点でピシリと固まった。
 俺は首を傾げ、姫様の視線を追う。

「あら~?」

 玉座の近くに控えていた大精霊ルウが、いつもの表情で顔を傾ける。
 視線を姫に戻す。
 心なしか、姫の瞳から光が消えていた。

「ラクターさん……あの女性は……」
「彼女はルウ。大神木に宿る大精霊だ。手紙にも書いてたはずだが」
「そう、ですか。あの方が」

 イリス姫様。自らの胸に片手を当て、天を仰ぐ。

「…………残酷、です」

 なにが、とは敢えて聞かないことにした。

 やがて文官から何事か耳打ちされた姫様は、ひどくゆっくりとした仕草でうなずいた。パテルルに結びつけてあった荷物から、文官が何かを取り出す。

「ラクターさん。聖なる森の主となられたこと、お慶び申し上げます。遅くなって申し訳ありませんが、これは私からのお祝いの気持ちです」

 イリス姫が告げた。なぜか胸元を隠しながら。
 文官がうやうやしく捧げ持った包みを受け取り、中を開く。
 そこには、豪奢な刺繍の刻まれた礼服一式があった。
 堅苦しそうだなあ、と思っていると、周囲から期待の目線がいくつも刺さってきた。

 ……あー。うん? 今、着ろと言ってる? 君ら。

 固まる俺の目の前で、地面からスルスルと蔦が壁状に生える。ちょうどフィッティングルーム試着室のような形だ。
 大精霊ルウがにこにこ笑っているのが見えた。ちくしょう。

 なかばヤケクソになって着替える。大変ありがたいことに、女神アルマディアは礼服の着装に詳しかった。生き生き説明してくれましたちくしょうめ。

 ――フィッティングルーム、開放。

 深緑を基調とした上等な仕立ての服が、びっくりするぐらいジャストフィットしていた。肩にはなんか装飾が付いてるし、腕やら足のラインには金色の刺繍が施してある。
 場違い感で死にそう。

 俺は鼻から大きく息を吸い、口から盛大に吐いた。口元がひくついているのを自覚しながら、いちおう人として、礼を言う。

「ありがとう、イリス姫。大切に使わせてもらうよ。はは……」
「……」
「姫?」
「……」
「おーい」
「……」

 しばしの沈黙。
 精神的成長を見せたイリス・シス・ルマトゥーラ姫は、言った。

「えへへえ!」
「姫。顔、顔」

 数十分前の気品、どこいった。
 

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...