31 / 77
第31話 〈side:勇者〉大賢者の復讐
しおりを挟む
――最近、面白くない。ものすごく、面白くない。
大賢者アリア・アートといえば、皆が言うことを聞いてくれた。私は心置きなく研究に没頭できたのだ。
勇者パーティの一員として、あれこれ大変な目に遭ってきたのだから、それは当然の見返りだと思う。
……思っていた。
だけど、ここ最近はぜんっぜん、上手くいかない。
私がどんな研究をしていても、周りは褒めてくれない。
それどころか、なにか恐ろしい魔物でも見るような視線を向けてくる。
原因は――まあ、なんとなく察しはつく。
二週間前くらいにカリファ聖森林で行った魔法実験。
私が――些細な――ヘマをしたことを、研究所の人たちが気づいたのだ。
実際にどんな魔法を開発したかはわかってないようだけど、実験のために研究所の品をいくつか拝借したのがまずかったらしい。
どうも、エリスの奴が聖女の力を使って浄化したものだとか、元はとんでもなく恐ろしい品物だったとか。
私はただ、実験に適したモノだったから使っただけ。魔法研究者として当然の動機。私は大賢者なんだもの。
それに、アンタたちは知らないだろうけど、聖女としてのエリスの力なんてたかが知れてる。あの子の性格に比べたら私なんて可愛いものだよ。
――まあ、そんなこんなで、私はひとり王城を歩いていた。研究所に居づらくなったのだ。決して、私は勇者が言うようなぼっちじゃない。
「勇者パーティ、か」
スカル、エリス、そして私。かつては無敵を誇った私たち勇者パーティは、今、バラバラだった。
私はまだマシだが、残りのふたりの機嫌が最悪レベルに悪い。いっつもイライラしている。
これも原因は想像つく。イリス姫様だ。
勇者は姫様に袖にされて――それどころか、最近は明確な敵意を向けられ――、聖女は、目下最大のライバルとみなすイリス姫様がどんどん生き生きしていくのが気に入らないのだ。
やべーよ、あいつら。
特に今やべーのが、あの性悪聖女――。
「――って言ってるそばから」
私は見てしまった。
開きっぱなしの応接間、中で話をしていた王城の高官たちに、エリスが何事か訴えていた。
エリスの周囲には、彼女の取り巻き連中もいた。
おおかた、イリス姫の悪口を吹き込もうと大事な会議の最中に乗り込んだのだろう。本当にここ数日、見境がない。
やべー目してるわ、でも私には関係ないし――と半笑いでその場を通り過ぎた。
……はず、だったのに。
「もう一度言ってみなさいよ、この性悪聖女!」
「ええ何度でも言って差し上げますわ、この無能賢者!」
いつの間にか、高官たちの前で言い争いをするハメになってしまった。
ああもう、イライラするイライラするっ。頭が働かないっ!
口論のきっかけ? あー、なに。なんかエリスが私の不祥事をでっち上げて、イリス姫こき下ろしに使ったのよ。よくわかんない。
だけど、張りぼての肩書きを与えられたかわいそうな子――っていう言葉は聞き捨てならなかった。
誰が、かわいそうな子だって……?
こうなると売り言葉に買い言葉だ。最近のお互いの不機嫌さもあって、もう止まらない。
――後になって考えれば。
私は大賢者で、あいつは聖女だ。
少なくともそう呼ばれるだけの力があったことを、もうちょっと想像すべきだったかもしれない。
完全に切れたエリスはあろうことか、私に得意魔法をぶつけてきたのだ。黙らせるために。
普段、エリスが隠していて、そして最も得意とする魔法のジャンル。
それは呪詛。呪い系統の魔法だ。
どの口で聖女名乗っているのか。魔女のほうがよっぽど似合ってるじゃん!
そう叫んだのがマズかった。
エリスは防御魔法を貫通し、私を呪いにかける。
しかも、これっ……意識をかき乱す系の呪いじゃん……! 私に涎をまき散らす無様な姿をさらせって……?
冗談じゃ、ないっ!
遮二無二に大賢者の魔力で呪いに抗う私。普段とは違う精神状態で魔法を使ったエリス。
お互いの負の面が増幅され、私は、自分の魔力を制御できなくなった。
そして。
応接間に、魔力の爆発が巻き起こった。
よりによって、王国の高官たちを巻き添えにして。
――その後の私。
自室兼研究室にひとり戻って、立ち尽くす。
私は今日、ここを追い出される。
思い出すだけで死ねる。あの魔力暴発後のこと。
幸い死者は出なかったが、中にはしばらく起き上がれないほどの大怪我を負った人もいた。国政と滞らせる大惨事だ。
当然、責任を問われる。
ああ、あのときの様子……っ!
これまでの行いを鑑みてなのか、勇者パーティ全体で連帯責任を追及された。
そのときの、そのときのアイツ……勇者スカル!
アイツ……私を「もう要らない。だから関係ない」って言いやがった……!
エリスもそれに乗って、私ひとりを悪者に。悪者に……っ。
そして今。
追放だ。私だけが!
いつも被っているとんがり帽子を握りしめる。皺が永久に残るかというぐらい、強く、強く。
「ふっ……ふふふ……」
笑いが出た。ぜんぜん面白くないのに、腹の底は煮えたぎっているのに、笑いが出た。
「あー、そう。そっちがその気なら、もう知らないもんね」
私は思い出していた。
二週間程前、カリファ聖森林で密かに開発した大魔法のこと。
あれを、もともとどういう意図で創りだしたかを。
「もう隠すのはやめた。王城ごと、私の大魔法で吹っ飛ばしてやる……!」
大賢者アリア・アートといえば、皆が言うことを聞いてくれた。私は心置きなく研究に没頭できたのだ。
勇者パーティの一員として、あれこれ大変な目に遭ってきたのだから、それは当然の見返りだと思う。
……思っていた。
だけど、ここ最近はぜんっぜん、上手くいかない。
私がどんな研究をしていても、周りは褒めてくれない。
それどころか、なにか恐ろしい魔物でも見るような視線を向けてくる。
原因は――まあ、なんとなく察しはつく。
二週間前くらいにカリファ聖森林で行った魔法実験。
私が――些細な――ヘマをしたことを、研究所の人たちが気づいたのだ。
実際にどんな魔法を開発したかはわかってないようだけど、実験のために研究所の品をいくつか拝借したのがまずかったらしい。
どうも、エリスの奴が聖女の力を使って浄化したものだとか、元はとんでもなく恐ろしい品物だったとか。
私はただ、実験に適したモノだったから使っただけ。魔法研究者として当然の動機。私は大賢者なんだもの。
それに、アンタたちは知らないだろうけど、聖女としてのエリスの力なんてたかが知れてる。あの子の性格に比べたら私なんて可愛いものだよ。
――まあ、そんなこんなで、私はひとり王城を歩いていた。研究所に居づらくなったのだ。決して、私は勇者が言うようなぼっちじゃない。
「勇者パーティ、か」
スカル、エリス、そして私。かつては無敵を誇った私たち勇者パーティは、今、バラバラだった。
私はまだマシだが、残りのふたりの機嫌が最悪レベルに悪い。いっつもイライラしている。
これも原因は想像つく。イリス姫様だ。
勇者は姫様に袖にされて――それどころか、最近は明確な敵意を向けられ――、聖女は、目下最大のライバルとみなすイリス姫様がどんどん生き生きしていくのが気に入らないのだ。
やべーよ、あいつら。
特に今やべーのが、あの性悪聖女――。
「――って言ってるそばから」
私は見てしまった。
開きっぱなしの応接間、中で話をしていた王城の高官たちに、エリスが何事か訴えていた。
エリスの周囲には、彼女の取り巻き連中もいた。
おおかた、イリス姫の悪口を吹き込もうと大事な会議の最中に乗り込んだのだろう。本当にここ数日、見境がない。
やべー目してるわ、でも私には関係ないし――と半笑いでその場を通り過ぎた。
……はず、だったのに。
「もう一度言ってみなさいよ、この性悪聖女!」
「ええ何度でも言って差し上げますわ、この無能賢者!」
いつの間にか、高官たちの前で言い争いをするハメになってしまった。
ああもう、イライラするイライラするっ。頭が働かないっ!
口論のきっかけ? あー、なに。なんかエリスが私の不祥事をでっち上げて、イリス姫こき下ろしに使ったのよ。よくわかんない。
だけど、張りぼての肩書きを与えられたかわいそうな子――っていう言葉は聞き捨てならなかった。
誰が、かわいそうな子だって……?
こうなると売り言葉に買い言葉だ。最近のお互いの不機嫌さもあって、もう止まらない。
――後になって考えれば。
私は大賢者で、あいつは聖女だ。
少なくともそう呼ばれるだけの力があったことを、もうちょっと想像すべきだったかもしれない。
完全に切れたエリスはあろうことか、私に得意魔法をぶつけてきたのだ。黙らせるために。
普段、エリスが隠していて、そして最も得意とする魔法のジャンル。
それは呪詛。呪い系統の魔法だ。
どの口で聖女名乗っているのか。魔女のほうがよっぽど似合ってるじゃん!
そう叫んだのがマズかった。
エリスは防御魔法を貫通し、私を呪いにかける。
しかも、これっ……意識をかき乱す系の呪いじゃん……! 私に涎をまき散らす無様な姿をさらせって……?
冗談じゃ、ないっ!
遮二無二に大賢者の魔力で呪いに抗う私。普段とは違う精神状態で魔法を使ったエリス。
お互いの負の面が増幅され、私は、自分の魔力を制御できなくなった。
そして。
応接間に、魔力の爆発が巻き起こった。
よりによって、王国の高官たちを巻き添えにして。
――その後の私。
自室兼研究室にひとり戻って、立ち尽くす。
私は今日、ここを追い出される。
思い出すだけで死ねる。あの魔力暴発後のこと。
幸い死者は出なかったが、中にはしばらく起き上がれないほどの大怪我を負った人もいた。国政と滞らせる大惨事だ。
当然、責任を問われる。
ああ、あのときの様子……っ!
これまでの行いを鑑みてなのか、勇者パーティ全体で連帯責任を追及された。
そのときの、そのときのアイツ……勇者スカル!
アイツ……私を「もう要らない。だから関係ない」って言いやがった……!
エリスもそれに乗って、私ひとりを悪者に。悪者に……っ。
そして今。
追放だ。私だけが!
いつも被っているとんがり帽子を握りしめる。皺が永久に残るかというぐらい、強く、強く。
「ふっ……ふふふ……」
笑いが出た。ぜんぜん面白くないのに、腹の底は煮えたぎっているのに、笑いが出た。
「あー、そう。そっちがその気なら、もう知らないもんね」
私は思い出していた。
二週間程前、カリファ聖森林で密かに開発した大魔法のこと。
あれを、もともとどういう意図で創りだしたかを。
「もう隠すのはやめた。王城ごと、私の大魔法で吹っ飛ばしてやる……!」
3
お気に入りに追加
2,055
あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる