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第31話 〈side:勇者〉大賢者の復讐
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――最近、面白くない。ものすごく、面白くない。
大賢者アリア・アートといえば、皆が言うことを聞いてくれた。私は心置きなく研究に没頭できたのだ。
勇者パーティの一員として、あれこれ大変な目に遭ってきたのだから、それは当然の見返りだと思う。
……思っていた。
だけど、ここ最近はぜんっぜん、上手くいかない。
私がどんな研究をしていても、周りは褒めてくれない。
それどころか、なにか恐ろしい魔物でも見るような視線を向けてくる。
原因は――まあ、なんとなく察しはつく。
二週間前くらいにカリファ聖森林で行った魔法実験。
私が――些細な――ヘマをしたことを、研究所の人たちが気づいたのだ。
実際にどんな魔法を開発したかはわかってないようだけど、実験のために研究所の品をいくつか拝借したのがまずかったらしい。
どうも、エリスの奴が聖女の力を使って浄化したものだとか、元はとんでもなく恐ろしい品物だったとか。
私はただ、実験に適したモノだったから使っただけ。魔法研究者として当然の動機。私は大賢者なんだもの。
それに、アンタたちは知らないだろうけど、聖女としてのエリスの力なんてたかが知れてる。あの子の性格に比べたら私なんて可愛いものだよ。
――まあ、そんなこんなで、私はひとり王城を歩いていた。研究所に居づらくなったのだ。決して、私は勇者が言うようなぼっちじゃない。
「勇者パーティ、か」
スカル、エリス、そして私。かつては無敵を誇った私たち勇者パーティは、今、バラバラだった。
私はまだマシだが、残りのふたりの機嫌が最悪レベルに悪い。いっつもイライラしている。
これも原因は想像つく。イリス姫様だ。
勇者は姫様に袖にされて――それどころか、最近は明確な敵意を向けられ――、聖女は、目下最大のライバルとみなすイリス姫様がどんどん生き生きしていくのが気に入らないのだ。
やべーよ、あいつら。
特に今やべーのが、あの性悪聖女――。
「――って言ってるそばから」
私は見てしまった。
開きっぱなしの応接間、中で話をしていた王城の高官たちに、エリスが何事か訴えていた。
エリスの周囲には、彼女の取り巻き連中もいた。
おおかた、イリス姫の悪口を吹き込もうと大事な会議の最中に乗り込んだのだろう。本当にここ数日、見境がない。
やべー目してるわ、でも私には関係ないし――と半笑いでその場を通り過ぎた。
……はず、だったのに。
「もう一度言ってみなさいよ、この性悪聖女!」
「ええ何度でも言って差し上げますわ、この無能賢者!」
いつの間にか、高官たちの前で言い争いをするハメになってしまった。
ああもう、イライラするイライラするっ。頭が働かないっ!
口論のきっかけ? あー、なに。なんかエリスが私の不祥事をでっち上げて、イリス姫こき下ろしに使ったのよ。よくわかんない。
だけど、張りぼての肩書きを与えられたかわいそうな子――っていう言葉は聞き捨てならなかった。
誰が、かわいそうな子だって……?
こうなると売り言葉に買い言葉だ。最近のお互いの不機嫌さもあって、もう止まらない。
――後になって考えれば。
私は大賢者で、あいつは聖女だ。
少なくともそう呼ばれるだけの力があったことを、もうちょっと想像すべきだったかもしれない。
完全に切れたエリスはあろうことか、私に得意魔法をぶつけてきたのだ。黙らせるために。
普段、エリスが隠していて、そして最も得意とする魔法のジャンル。
それは呪詛。呪い系統の魔法だ。
どの口で聖女名乗っているのか。魔女のほうがよっぽど似合ってるじゃん!
そう叫んだのがマズかった。
エリスは防御魔法を貫通し、私を呪いにかける。
しかも、これっ……意識をかき乱す系の呪いじゃん……! 私に涎をまき散らす無様な姿をさらせって……?
冗談じゃ、ないっ!
遮二無二に大賢者の魔力で呪いに抗う私。普段とは違う精神状態で魔法を使ったエリス。
お互いの負の面が増幅され、私は、自分の魔力を制御できなくなった。
そして。
応接間に、魔力の爆発が巻き起こった。
よりによって、王国の高官たちを巻き添えにして。
――その後の私。
自室兼研究室にひとり戻って、立ち尽くす。
私は今日、ここを追い出される。
思い出すだけで死ねる。あの魔力暴発後のこと。
幸い死者は出なかったが、中にはしばらく起き上がれないほどの大怪我を負った人もいた。国政と滞らせる大惨事だ。
当然、責任を問われる。
ああ、あのときの様子……っ!
これまでの行いを鑑みてなのか、勇者パーティ全体で連帯責任を追及された。
そのときの、そのときのアイツ……勇者スカル!
アイツ……私を「もう要らない。だから関係ない」って言いやがった……!
エリスもそれに乗って、私ひとりを悪者に。悪者に……っ。
そして今。
追放だ。私だけが!
いつも被っているとんがり帽子を握りしめる。皺が永久に残るかというぐらい、強く、強く。
「ふっ……ふふふ……」
笑いが出た。ぜんぜん面白くないのに、腹の底は煮えたぎっているのに、笑いが出た。
「あー、そう。そっちがその気なら、もう知らないもんね」
私は思い出していた。
二週間程前、カリファ聖森林で密かに開発した大魔法のこと。
あれを、もともとどういう意図で創りだしたかを。
「もう隠すのはやめた。王城ごと、私の大魔法で吹っ飛ばしてやる……!」
大賢者アリア・アートといえば、皆が言うことを聞いてくれた。私は心置きなく研究に没頭できたのだ。
勇者パーティの一員として、あれこれ大変な目に遭ってきたのだから、それは当然の見返りだと思う。
……思っていた。
だけど、ここ最近はぜんっぜん、上手くいかない。
私がどんな研究をしていても、周りは褒めてくれない。
それどころか、なにか恐ろしい魔物でも見るような視線を向けてくる。
原因は――まあ、なんとなく察しはつく。
二週間前くらいにカリファ聖森林で行った魔法実験。
私が――些細な――ヘマをしたことを、研究所の人たちが気づいたのだ。
実際にどんな魔法を開発したかはわかってないようだけど、実験のために研究所の品をいくつか拝借したのがまずかったらしい。
どうも、エリスの奴が聖女の力を使って浄化したものだとか、元はとんでもなく恐ろしい品物だったとか。
私はただ、実験に適したモノだったから使っただけ。魔法研究者として当然の動機。私は大賢者なんだもの。
それに、アンタたちは知らないだろうけど、聖女としてのエリスの力なんてたかが知れてる。あの子の性格に比べたら私なんて可愛いものだよ。
――まあ、そんなこんなで、私はひとり王城を歩いていた。研究所に居づらくなったのだ。決して、私は勇者が言うようなぼっちじゃない。
「勇者パーティ、か」
スカル、エリス、そして私。かつては無敵を誇った私たち勇者パーティは、今、バラバラだった。
私はまだマシだが、残りのふたりの機嫌が最悪レベルに悪い。いっつもイライラしている。
これも原因は想像つく。イリス姫様だ。
勇者は姫様に袖にされて――それどころか、最近は明確な敵意を向けられ――、聖女は、目下最大のライバルとみなすイリス姫様がどんどん生き生きしていくのが気に入らないのだ。
やべーよ、あいつら。
特に今やべーのが、あの性悪聖女――。
「――って言ってるそばから」
私は見てしまった。
開きっぱなしの応接間、中で話をしていた王城の高官たちに、エリスが何事か訴えていた。
エリスの周囲には、彼女の取り巻き連中もいた。
おおかた、イリス姫の悪口を吹き込もうと大事な会議の最中に乗り込んだのだろう。本当にここ数日、見境がない。
やべー目してるわ、でも私には関係ないし――と半笑いでその場を通り過ぎた。
……はず、だったのに。
「もう一度言ってみなさいよ、この性悪聖女!」
「ええ何度でも言って差し上げますわ、この無能賢者!」
いつの間にか、高官たちの前で言い争いをするハメになってしまった。
ああもう、イライラするイライラするっ。頭が働かないっ!
口論のきっかけ? あー、なに。なんかエリスが私の不祥事をでっち上げて、イリス姫こき下ろしに使ったのよ。よくわかんない。
だけど、張りぼての肩書きを与えられたかわいそうな子――っていう言葉は聞き捨てならなかった。
誰が、かわいそうな子だって……?
こうなると売り言葉に買い言葉だ。最近のお互いの不機嫌さもあって、もう止まらない。
――後になって考えれば。
私は大賢者で、あいつは聖女だ。
少なくともそう呼ばれるだけの力があったことを、もうちょっと想像すべきだったかもしれない。
完全に切れたエリスはあろうことか、私に得意魔法をぶつけてきたのだ。黙らせるために。
普段、エリスが隠していて、そして最も得意とする魔法のジャンル。
それは呪詛。呪い系統の魔法だ。
どの口で聖女名乗っているのか。魔女のほうがよっぽど似合ってるじゃん!
そう叫んだのがマズかった。
エリスは防御魔法を貫通し、私を呪いにかける。
しかも、これっ……意識をかき乱す系の呪いじゃん……! 私に涎をまき散らす無様な姿をさらせって……?
冗談じゃ、ないっ!
遮二無二に大賢者の魔力で呪いに抗う私。普段とは違う精神状態で魔法を使ったエリス。
お互いの負の面が増幅され、私は、自分の魔力を制御できなくなった。
そして。
応接間に、魔力の爆発が巻き起こった。
よりによって、王国の高官たちを巻き添えにして。
――その後の私。
自室兼研究室にひとり戻って、立ち尽くす。
私は今日、ここを追い出される。
思い出すだけで死ねる。あの魔力暴発後のこと。
幸い死者は出なかったが、中にはしばらく起き上がれないほどの大怪我を負った人もいた。国政と滞らせる大惨事だ。
当然、責任を問われる。
ああ、あのときの様子……っ!
これまでの行いを鑑みてなのか、勇者パーティ全体で連帯責任を追及された。
そのときの、そのときのアイツ……勇者スカル!
アイツ……私を「もう要らない。だから関係ない」って言いやがった……!
エリスもそれに乗って、私ひとりを悪者に。悪者に……っ。
そして今。
追放だ。私だけが!
いつも被っているとんがり帽子を握りしめる。皺が永久に残るかというぐらい、強く、強く。
「ふっ……ふふふ……」
笑いが出た。ぜんぜん面白くないのに、腹の底は煮えたぎっているのに、笑いが出た。
「あー、そう。そっちがその気なら、もう知らないもんね」
私は思い出していた。
二週間程前、カリファ聖森林で密かに開発した大魔法のこと。
あれを、もともとどういう意図で創りだしたかを。
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