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第23話 平和的魔法レッスン
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それから俺たちは、大神木へ向けて探索を再開した。
目の前の大きな河は、リーニャが荷物ごと俺を背負って飛び越えた。笑ってしまうほどの脚力だ。
何が嬉しいのか、俺を背負ったまま走り出そうとするので、慌てて止める。
「主様、主様。また乗りたくなったら言って。リーニャ、おっきくなる」
「はいはい」
再び鬱蒼とした森林地帯に入る。
ここまで来ると、未開の大地だ。人間が楽に通れる道などあるはずもない。足下が見えにくい上、起伏も激しく、体力を激しく持っていかれる。
こまめに休憩をはさんだ。
「なあ、アルマディアよ」
大きな岩の上に腰掛け、水筒を口に傾けてから、俺は言った。
「この状況じゃあ、魔法の訓練なんて難しいぞ。進むだけで精一杯だ」
『確かに理解できます。ですが、ここは焦らずいきましょう』
「やれやれ」
――アルマディアの提案。それは、【楽園創造者】のジョブと同じように、魔法も繰り返し使うことでレベルアップしていこう、というものだった。
女神いわく、魔法の習熟度も俺のレベルとGP向上に寄与するらしい。
だが、一口に魔法といっても種類は様々だ。アルマディアを助けるまでは俺自身、魔法とは縁遠かったし、イメージをしづらい。
一番身近な魔法使いは、勇者パーティの賢者アリアだったが、あいつはいわゆる『ぶっ放し脳』だったため、規模がデカすぎて参考にならない。
頼るとすれば、俺の転生前のゲーム知識だが……果たしてそれで上手くいくのかどうか。実際、さっきは『ドォォォンッ!』で終わっちまったし。
誰か教師役でもいればいいが。
今、この場で魔法知識があるのはアルマディアしかいない。
俺は念のため、彼女にたずねた。
「アルマディアは魔法が苦手って言ってたが、本当にまったくダメなのか? なにかひとつくらい、確実に使える魔法は持ってないのか?」
『ありますよ』
「いやあるんかい」
『四属性分あります』
「お前は本当にお前だな。早く言ってくれよマジで」
俺は呆れた。こいつ俺をからかうことがマイブームになっているんじゃあるまいな、とさえ思った。
ただ、続けて話を聞くと、どうやらからかっているわけじゃないらしいとわかってくる。
アルマディアが言う四属性――火・水・風・土のことだが、彼女は人間の魔法使いのように、それらを攻撃魔法として扱っているわけではない。
アルマディアは【楽園創造者】の力を持つ女神。だから魔法も、それに付随する効果を持つ。
『すなわち、活性化系魔法です。ラクター様たちの表現では、補助魔法に分類されますね。火をより強く、水をより美しく、風をより爽やかに、そして大地をより豊かに――私の唯一の得意魔法です』
「……ああ、なるほど。平和だ」
『ありがとうございます。ゆえに、先ほどは『四属性分』とお伝えしました。四属性を自由自在に操るという意味ではなく、四属性それぞれを活性化できるという意味です。特に固有の名前もありません』
つまりは、ゲームや小説みたいに『なんちゃって魔法使いがソロ討伐』は無理だし、ましてや賢者アリアのようなぶっ放し脳も無理というわけだ。
……ちなみに、さっきはなんで全部『ドォォォンッ!』化したのか聞いてみたところ、単に神力をぶつけただけという。それ魔法と言えるのか?
「まあ、でも……なにもしないよりマシだ。アルマディア、俺にお前の活性化系魔法を教えてくれ」
『わかりました。では、少し失礼します』
俺の身体の中から、女神の気配が湧き上がってくる。見えない手で後ろから抱きしめられたような、奇妙な感覚だ。
俺と波長を合わせ、アルマディアの魔法発動を疑似体験させるという。
『ここは森林地帯で少々蒸し暑いので、風に魔法をかけて爽やかにしましょう』
「チュートリアルにあるまじき平穏ぶりだな」
『楽園とはそういうものです』
目を閉じる。
肌に感じる少し生暖かい空気。女神の指示に従い、その流れに意識を向けながら、神力を浸透させていく。
発動イメージは、植物の芽吹き、だそうだ。
ここでもイメージ重視か……ま、小難しい詠唱が不要なのは助かる。
『コツは『ぎゅーっ、パッ 』です。さあラクター様、ご一緒に』
「詠唱が不要で助かるとは言ったが、詠唱をお遊戯化しろとは言ってねえぞ」
『? ラクター様の記憶を拝見すると、ぴったりのシーンがあるのですが。それを再現すれば楽ですよ?』
「とりあえず俺の尊厳が保たれる方向でよろしくお願いします」
ちょっとよくわかりません、とひでぇ返事をしやがった。この女神。
気を取り直す。
アルマディアが魔法を発動させる。神力が広がり、周囲の空気がスッと軽くなった。
なるほど、確かに『楽園創造』とよく似ている。
対象を認識し、神力を通し、それをパッと芽吹かせるように活性化――むむう……。
「こうか?」
メゴォアアアッ!!
名状しがたい爆音が響き、俺はヒュッと息を呑んだ。
――数メートル先の地面が円形にぼっこりへこんでいた。
アレ? 確かあそこ、そこそこでっかい岩があったような?
尻尾をパタパタ振って興奮気味のリーニャが、事実を客観残酷的に告げる。
「主様すごーい! 空気だけで岩を踏み潰したよ!」
「……」
『なるほど。風を爽やかにするのではなく、明確な質量を持たせた圧殺武器として活性化させたのですね。さすがラクター様、転生者としての知識を融合させると、このようなことも可能になると。勉強になります』
アルマディアが大真面目に言った。
『これは私にはできません。ラクター様、殺れますね』
「……もうちょっと女神として言うべきことない?」
『あ、今の魔法使用でレベルアップできそうです。GPも増えました。よかったですね』
「活性化系魔法は平和だったのでは……?」
『何事も遣い手次第ということですね』
その一言は俺の胸にぐさりと刺さった。
目の前の大きな河は、リーニャが荷物ごと俺を背負って飛び越えた。笑ってしまうほどの脚力だ。
何が嬉しいのか、俺を背負ったまま走り出そうとするので、慌てて止める。
「主様、主様。また乗りたくなったら言って。リーニャ、おっきくなる」
「はいはい」
再び鬱蒼とした森林地帯に入る。
ここまで来ると、未開の大地だ。人間が楽に通れる道などあるはずもない。足下が見えにくい上、起伏も激しく、体力を激しく持っていかれる。
こまめに休憩をはさんだ。
「なあ、アルマディアよ」
大きな岩の上に腰掛け、水筒を口に傾けてから、俺は言った。
「この状況じゃあ、魔法の訓練なんて難しいぞ。進むだけで精一杯だ」
『確かに理解できます。ですが、ここは焦らずいきましょう』
「やれやれ」
――アルマディアの提案。それは、【楽園創造者】のジョブと同じように、魔法も繰り返し使うことでレベルアップしていこう、というものだった。
女神いわく、魔法の習熟度も俺のレベルとGP向上に寄与するらしい。
だが、一口に魔法といっても種類は様々だ。アルマディアを助けるまでは俺自身、魔法とは縁遠かったし、イメージをしづらい。
一番身近な魔法使いは、勇者パーティの賢者アリアだったが、あいつはいわゆる『ぶっ放し脳』だったため、規模がデカすぎて参考にならない。
頼るとすれば、俺の転生前のゲーム知識だが……果たしてそれで上手くいくのかどうか。実際、さっきは『ドォォォンッ!』で終わっちまったし。
誰か教師役でもいればいいが。
今、この場で魔法知識があるのはアルマディアしかいない。
俺は念のため、彼女にたずねた。
「アルマディアは魔法が苦手って言ってたが、本当にまったくダメなのか? なにかひとつくらい、確実に使える魔法は持ってないのか?」
『ありますよ』
「いやあるんかい」
『四属性分あります』
「お前は本当にお前だな。早く言ってくれよマジで」
俺は呆れた。こいつ俺をからかうことがマイブームになっているんじゃあるまいな、とさえ思った。
ただ、続けて話を聞くと、どうやらからかっているわけじゃないらしいとわかってくる。
アルマディアが言う四属性――火・水・風・土のことだが、彼女は人間の魔法使いのように、それらを攻撃魔法として扱っているわけではない。
アルマディアは【楽園創造者】の力を持つ女神。だから魔法も、それに付随する効果を持つ。
『すなわち、活性化系魔法です。ラクター様たちの表現では、補助魔法に分類されますね。火をより強く、水をより美しく、風をより爽やかに、そして大地をより豊かに――私の唯一の得意魔法です』
「……ああ、なるほど。平和だ」
『ありがとうございます。ゆえに、先ほどは『四属性分』とお伝えしました。四属性を自由自在に操るという意味ではなく、四属性それぞれを活性化できるという意味です。特に固有の名前もありません』
つまりは、ゲームや小説みたいに『なんちゃって魔法使いがソロ討伐』は無理だし、ましてや賢者アリアのようなぶっ放し脳も無理というわけだ。
……ちなみに、さっきはなんで全部『ドォォォンッ!』化したのか聞いてみたところ、単に神力をぶつけただけという。それ魔法と言えるのか?
「まあ、でも……なにもしないよりマシだ。アルマディア、俺にお前の活性化系魔法を教えてくれ」
『わかりました。では、少し失礼します』
俺の身体の中から、女神の気配が湧き上がってくる。見えない手で後ろから抱きしめられたような、奇妙な感覚だ。
俺と波長を合わせ、アルマディアの魔法発動を疑似体験させるという。
『ここは森林地帯で少々蒸し暑いので、風に魔法をかけて爽やかにしましょう』
「チュートリアルにあるまじき平穏ぶりだな」
『楽園とはそういうものです』
目を閉じる。
肌に感じる少し生暖かい空気。女神の指示に従い、その流れに意識を向けながら、神力を浸透させていく。
発動イメージは、植物の芽吹き、だそうだ。
ここでもイメージ重視か……ま、小難しい詠唱が不要なのは助かる。
『コツは『ぎゅーっ、パッ 』です。さあラクター様、ご一緒に』
「詠唱が不要で助かるとは言ったが、詠唱をお遊戯化しろとは言ってねえぞ」
『? ラクター様の記憶を拝見すると、ぴったりのシーンがあるのですが。それを再現すれば楽ですよ?』
「とりあえず俺の尊厳が保たれる方向でよろしくお願いします」
ちょっとよくわかりません、とひでぇ返事をしやがった。この女神。
気を取り直す。
アルマディアが魔法を発動させる。神力が広がり、周囲の空気がスッと軽くなった。
なるほど、確かに『楽園創造』とよく似ている。
対象を認識し、神力を通し、それをパッと芽吹かせるように活性化――むむう……。
「こうか?」
メゴォアアアッ!!
名状しがたい爆音が響き、俺はヒュッと息を呑んだ。
――数メートル先の地面が円形にぼっこりへこんでいた。
アレ? 確かあそこ、そこそこでっかい岩があったような?
尻尾をパタパタ振って興奮気味のリーニャが、事実を客観残酷的に告げる。
「主様すごーい! 空気だけで岩を踏み潰したよ!」
「……」
『なるほど。風を爽やかにするのではなく、明確な質量を持たせた圧殺武器として活性化させたのですね。さすがラクター様、転生者としての知識を融合させると、このようなことも可能になると。勉強になります』
アルマディアが大真面目に言った。
『これは私にはできません。ラクター様、殺れますね』
「……もうちょっと女神として言うべきことない?」
『あ、今の魔法使用でレベルアップできそうです。GPも増えました。よかったですね』
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