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第21話 イリス姫から愛?の手紙
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白い鳥ヴォカロを介して、俺とイリス姫はこの数日間、何度も連絡を取り合っていた。
というか、姫から結構な頻度で連絡が来る。
さすがにもう慣れたが、一国の姫君と文通するのは気恥ずかしい。
ヴォカロの足には、小さな筒が結びつけられている。手紙はその中へ納められていた。連絡用と、返信用の二枚。
手紙を取り出すと、ヴォカロは俺の頭の上にちょこんと乗っかる。俺が返事を書くまで待っているのだ。賢い子だ。だが、そこら中にある樹の枝にとまって休むという選択肢はなかったのだろうか。
「……」
――リーニャの熱い視線を感じる。ターゲットは頭の上。
「……おいリーニャ」
「な?」
「食っちゃダメだぞ。食ったら放り出すからな」
「な!?」
半分冗談のつもりで言った。
リーニャはヨロヨロとハンモックのところまで行くと、尻尾を抱えて毛玉のように丸まった。プルプル震えている。『リーニャ手を出さない』と全身で訴えていた。
あいつ、半分くらいマジで食うつもりだったのでは?
そうなったら姫が悲しむ。で、俺が国から命を狙われそうだ。ぜひそのまま大人しくしてもらいたい。
――気を取り直し、手紙を読む。
さすがに姫が用意した紙。魔法の植物図鑑のように、一枚の紙に多くの情報を書き込める。
最近は、文面が生き生きしているように感じられた。楽しそうに日々のことを書き綴っている。
姫という立場も大変なんだろうな。普段、こういう雑談をできる相手が少ないのかもしれない。
……よく考えたら、一国の姫なのに簡単に城や街を抜け出せたのは、もちろんパテルルの力が大きいのだろうが、彼女を本当の意味で気にかける人間が少ないのかもしれない。
空気の存在になるのは、ほんとキツいからな……。ちゃんと話を聞いていこう。
《スクードに戻られることがあれば、ぜひ声をかけてください》
《侍女の方たちが、大通りに美味しいケーキ屋さんができたと話していました。ラクターさんはいかがですか?》
《ラクターさんに教えてもらった暗号技術、自分でもちょっとずつ勉強しています。でもまだわからないことが多くて……。よろしければ、直接教えてもらいたいです》
「おー。おにいちゃん、あいされてるぅ」
突然後ろから声をかけられ、驚いた。
いつの間にか起きていたアンが、背中に寄りかかってきた。手紙をのぞき込みながら嬉しそうに笑っている。
文字しっかり読めるのね。さすがレオンさんの娘。教育がしっかりしている。
「らぶらぶぷらすらぶ、だね! けっこんはいつするの?」
欲を言えば、この耳年増なところを少々矯正してもらいたい。
『この調子なら、王都に戻ったらすぐにでもゴールインできそうですね』
アルマディア。お前もか。
「結婚式にはぜひ呼んでくださいね。ラクター君」
あんたもかよレオンさん!
――こんな風にやれやれと気楽な気持ちでいられたのは、手紙の中盤あたりまでだった。
イリス姫の書きぶりは、後半になるとがらりと変わった。
話題が、勇者パーティのことになったからだ。
「……いやあ。マジか」
思わずつぶやく。
姫の手紙によると、最近の勇者パーティ――スカルだけでなく、聖女エリスや賢者アリアも、その行動が目に余るようになってきたらしい。
以前にも増して、他人の言うことに耳を貸さなくなってきたとか。
それに伴い、勇者パーティ内でもいさかいが頻発するようになったという。
思い出す。確かにあいつら、それぞれが個人主義なところがあった。街にいるときも、依頼をこなしているときも、戦闘中でさえ、意見が対立するところを見てきた。
曲がりなりにも彼らがまとまるのは、俺に対するパワハラ、陰湿なイジメのときぐらいだったか。そういえば。
ってことはなんだ。俺が奴らのサンドバッグになってたから上手くいってたって? それがなくなったからボロが出始めたと。
知るかそんなの。
――とはいえ、勇者パーティがガタガタになって被害を被るのは周りの人間だ。
奴らはどうしようもない連中だが、持っている力だけはホンモノ。
癇癪起こして暴れられたら、酒場の酔っ払いレベルでは済まない。
手紙で姫は『彼らが怖い』とこぼしているが、一方で、城内での狼藉には毅然と声を出すようになったことが書かれていた。
心優しいが、とても臆病――そんな印象だったのに、ずいぶんたくましくなったようだ。
《ラクターさんに会いたいです》
ここのところ、文面の後半に頻繁に出てくる言葉。
イリス姫は精神的に成長し、自分にできることをしようと一生懸命になっている。
そんな彼女を、勇者たちは不安にさせる。
「これはいつか、きっちり話をつけないといけないかもな」
俺は小さくつぶやいた。
するとアルマディアが声をかけてくる。真面目な口調で。
『ラクター様は確実に強くなられています。ですが今は焦らず。近い将来、彼らが逆立ちしても敵わない存在に、あなた様はなれます。必ず、なれます』
「女神様のお墨付きか。それは心強いね」
手紙の返事をしたためながら、俺は答えた。
書き終えた手紙を託し、ヴォカロを空に放つ。
さて。拠点の創造でGPをえらく消費したからな。今日はこのまま休んで、明日、出発を――。
『ラクター様。いまいち私の言葉を信じていらっしゃらないようですので、明日の探索で証拠をお見せしましょう。あなた様が強くなったという証拠を』
「……は?」
『神がヒトの魔法を使えばどうなるか、です』
というか、姫から結構な頻度で連絡が来る。
さすがにもう慣れたが、一国の姫君と文通するのは気恥ずかしい。
ヴォカロの足には、小さな筒が結びつけられている。手紙はその中へ納められていた。連絡用と、返信用の二枚。
手紙を取り出すと、ヴォカロは俺の頭の上にちょこんと乗っかる。俺が返事を書くまで待っているのだ。賢い子だ。だが、そこら中にある樹の枝にとまって休むという選択肢はなかったのだろうか。
「……」
――リーニャの熱い視線を感じる。ターゲットは頭の上。
「……おいリーニャ」
「な?」
「食っちゃダメだぞ。食ったら放り出すからな」
「な!?」
半分冗談のつもりで言った。
リーニャはヨロヨロとハンモックのところまで行くと、尻尾を抱えて毛玉のように丸まった。プルプル震えている。『リーニャ手を出さない』と全身で訴えていた。
あいつ、半分くらいマジで食うつもりだったのでは?
そうなったら姫が悲しむ。で、俺が国から命を狙われそうだ。ぜひそのまま大人しくしてもらいたい。
――気を取り直し、手紙を読む。
さすがに姫が用意した紙。魔法の植物図鑑のように、一枚の紙に多くの情報を書き込める。
最近は、文面が生き生きしているように感じられた。楽しそうに日々のことを書き綴っている。
姫という立場も大変なんだろうな。普段、こういう雑談をできる相手が少ないのかもしれない。
……よく考えたら、一国の姫なのに簡単に城や街を抜け出せたのは、もちろんパテルルの力が大きいのだろうが、彼女を本当の意味で気にかける人間が少ないのかもしれない。
空気の存在になるのは、ほんとキツいからな……。ちゃんと話を聞いていこう。
《スクードに戻られることがあれば、ぜひ声をかけてください》
《侍女の方たちが、大通りに美味しいケーキ屋さんができたと話していました。ラクターさんはいかがですか?》
《ラクターさんに教えてもらった暗号技術、自分でもちょっとずつ勉強しています。でもまだわからないことが多くて……。よろしければ、直接教えてもらいたいです》
「おー。おにいちゃん、あいされてるぅ」
突然後ろから声をかけられ、驚いた。
いつの間にか起きていたアンが、背中に寄りかかってきた。手紙をのぞき込みながら嬉しそうに笑っている。
文字しっかり読めるのね。さすがレオンさんの娘。教育がしっかりしている。
「らぶらぶぷらすらぶ、だね! けっこんはいつするの?」
欲を言えば、この耳年増なところを少々矯正してもらいたい。
『この調子なら、王都に戻ったらすぐにでもゴールインできそうですね』
アルマディア。お前もか。
「結婚式にはぜひ呼んでくださいね。ラクター君」
あんたもかよレオンさん!
――こんな風にやれやれと気楽な気持ちでいられたのは、手紙の中盤あたりまでだった。
イリス姫の書きぶりは、後半になるとがらりと変わった。
話題が、勇者パーティのことになったからだ。
「……いやあ。マジか」
思わずつぶやく。
姫の手紙によると、最近の勇者パーティ――スカルだけでなく、聖女エリスや賢者アリアも、その行動が目に余るようになってきたらしい。
以前にも増して、他人の言うことに耳を貸さなくなってきたとか。
それに伴い、勇者パーティ内でもいさかいが頻発するようになったという。
思い出す。確かにあいつら、それぞれが個人主義なところがあった。街にいるときも、依頼をこなしているときも、戦闘中でさえ、意見が対立するところを見てきた。
曲がりなりにも彼らがまとまるのは、俺に対するパワハラ、陰湿なイジメのときぐらいだったか。そういえば。
ってことはなんだ。俺が奴らのサンドバッグになってたから上手くいってたって? それがなくなったからボロが出始めたと。
知るかそんなの。
――とはいえ、勇者パーティがガタガタになって被害を被るのは周りの人間だ。
奴らはどうしようもない連中だが、持っている力だけはホンモノ。
癇癪起こして暴れられたら、酒場の酔っ払いレベルでは済まない。
手紙で姫は『彼らが怖い』とこぼしているが、一方で、城内での狼藉には毅然と声を出すようになったことが書かれていた。
心優しいが、とても臆病――そんな印象だったのに、ずいぶんたくましくなったようだ。
《ラクターさんに会いたいです》
ここのところ、文面の後半に頻繁に出てくる言葉。
イリス姫は精神的に成長し、自分にできることをしようと一生懸命になっている。
そんな彼女を、勇者たちは不安にさせる。
「これはいつか、きっちり話をつけないといけないかもな」
俺は小さくつぶやいた。
するとアルマディアが声をかけてくる。真面目な口調で。
『ラクター様は確実に強くなられています。ですが今は焦らず。近い将来、彼らが逆立ちしても敵わない存在に、あなた様はなれます。必ず、なれます』
「女神様のお墨付きか。それは心強いね」
手紙の返事をしたためながら、俺は答えた。
書き終えた手紙を託し、ヴォカロを空に放つ。
さて。拠点の創造でGPをえらく消費したからな。今日はこのまま休んで、明日、出発を――。
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