79 / 92
10章 僕はもふもふ家族院の院長先生!!
第79話 見る影なく
しおりを挟む少年院長と保護者フェンリルは二階へと上がる。
まずユウキは、アオイの部屋を訪ねることにした。家事を引き受ける彼女は、家族の中で一番の早起きだ。
アオイの部屋にはヒナタもいる。
もふもふ家族院では相部屋が多く、アオイとヒナタも同室なのだ。
ヒナタが、ひとりでは寂しいからという理由もある。ミオはああいう性格だから誰かと同室なんて受け入れづらいだろうし、サキはサキで、研究熱心かつ散らかし放題な部屋なため、誰かが一緒に過ごすことそのものが難しい。
どちらかというと朝は弱い方のヒナタが、半分寝ぼけながらも朝食のテーブルに着けるのは、アオイの力が大きいのだ。
アオイに事情を聞けば、他の子も状況がわかるかもしれない。
そう思ったユウキだったが、二階の廊下に立った瞬間、考えを改めた。
廊下はシンと静まりかえっている。重苦しい、と言っていい。
朝から誰も通っていないはずなのに、どこか生温かい空気を感じた。
チロロは子どもたちの匂いを感じると言った。どこかに出かけたわけではない。皆、部屋の中にはいるはず。
この段階で、ユウキはただごとじゃないと思うようになっていた。表情を引き締める。
ユウキは小声で、転生者たちに声をかけた。
「もしかしたら、皆の力を借りるかも」
――任せよ。
――遠慮なく頼りなさい。
力強く応えてくれる転生者の魂たち。それらに勇気づけられ、ユウキはアオイたちの部屋へ向かった。
扉の前に立ち、小さく深呼吸。控えめに、ノックをした。
反応がない。
今度は音が響くよう、もう少し強めに扉を叩いた。
だがそれでも、反応がない。
チロロと顔を見合わせる。
ユウキが声かけとともに扉を開けようとしたとき、部屋の中から足音がした。扉に近づき、やがてゆっくりと扉が開く。
ユウキは、反応があったことにまず安堵した。
しかし、現れた姿を見た瞬間、絶句してしまう。
「……あ。おはよう、ユウキ……」
出てきたのは早起きのアオイではなく、ヒナタの方だった。
寝間着姿で、いつもはツインテールにしている赤い髪は寝癖が付くままになっている。それだけならまだ、寝起きにお邪魔したとユウキも考えることができた。
「ヒナタ……その」
言葉が続かない。
ヒナタは、彼女の代名詞である活発さが完全に消えていた。表情も胡乱で、笑おうとして失敗しているように見えた。開きかけの扉に寄りかかり、立っているのがやっとの様子である。
初めて見るような憔悴ぶりだった。
ショックを受けたのはチロロも同様だったようで、声をかけるのも忘れて立ち尽くしている。どうやらヒナタは意識もぼんやりしているらしく、チロロの存在に気づいていなかった。
ユウキは、彼女の肩越しに室内の様子を見た。右側にシーツのめくれたベッド。ヒナタのものだろう。そしてその反対側、入り口から向かって左側にアオイのベッドが見えた。
もふもふ家族院ののんびりお母さんは、ベッドに横になったまま動かない。眠っているのか、こちらを顧みる余裕もないのか。
愕然。同時に、強く胸を締め付けられるユウキ。
彼の表情に気づいたヒナタが、少しだけ声を大きくして言った。
「大丈夫だよぉ……ちょっと、寝坊しちゃっただけ、だから……ほら、元気げんき――」
扉から手を離して、その場で踊ろうとするヒナタ。
空元気だった。
そして、それはすぐにボロが出る。
「……あ、れ?」
一回転もできずにバランスを崩し、倒れそうになる。慌ててヒナタを抱き留めたユウキは、またも目を大きく見開いた。
……熱い。
服越しでもヒナタの身体が高熱を出しているのがわかった。
ユウキの腕の中で、ヒナタが苦笑する。
「あはは……しっぱいしちゃった……。でも、ちょっと休めばだいじょうぶ、だから」
「ヒナタ。もうしゃべらなくていいよ」
口を開くのもつらそうな様子に、思わずユウキはそう言った。
発熱、それも高熱を出したときのしんどさはユウキも覚えがある。ベッドから部屋の扉までのわずかな距離だって、動くのは苦痛だったはずだ。
その証拠に、ユウキに抱き留められてからのヒナタはぐったりしていた。精も根も尽き果てた感じだ。
――もしかしたら体調を崩しているのかもしれない、と予想はしていた。
だが、まさかここまでひどい状態だとは思わなかった。
ユウキはヒナタをベッドに運ぶ。ベッドもシーツも、熱を持っていた。だが思ったよりも湿っていない。それほど汗をかいていないのだ。
つまり、身体に熱がこもったまま、それを下げることができずにいる。
ユウキは眉間に深い皺を刻んだ。じわじわと焦りが出てくる。
そのとき。
「これは」
ユウキはヒナタの身体に起きた別の異変に気づいた。
彼女の首筋や額。
そこに小さく発疹が出ていたのだ。
0
お気に入りに追加
250
あなたにおすすめの小説
異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。
彩世幻夜
恋愛
エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。
壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。
もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。
これはそんな平穏(……?)な日常の物語。
2021/02/27 完結
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件
シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。
旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる