上 下
72 / 92
9章 聖域外からのピクニック

第72話 冒険者たちの理由

しおりを挟む

「ちょ、ちょっとミオ」

 ヒナタが困惑したように眼鏡少女へ声をかける。だがミオは、まっすぐに冒険者たちを見据えるままだった。なおも詰め寄る。

「書物で見た記憶があります。特級は、通常の冒険者が引き受けないような、あるいは引き受けられないような依頼をこなす――と。見たところ、ほぼ完全装備。どんな状況にも対応できる万全さで、この聖域に、なにをしに来たのですか?」

 敵意剥き出しとも言える少女の台詞に、冒険者たちは互いに顔を見合わせた。
 ミオが眼鏡のブリッジに手をやる。

「まさか――誰も入れなかったのをいいことに、聖域を独り占めにして荒そうとしたのでは」
「ミオ」

 ユウキが間に入る。

「そこまででいいよ。ありがとう」
「あなたがいっこうに確かめようとしないから、私が代わりに聞いたのよ」
「わかってる。だから、ありがとう」

 微笑むと、ミオは肩をすくめて引き下がった。
 ユウキはヴァスリオたちに向き直る。

「そろそろ、聞いてもいいですか? 皆さんがここに来た理由」
「ああ。もちろんだよ」

 冒険者リーダー、『勇者』ヴァスリオは穏やかにうなずいた。
 すると、赤いとんがり帽子の『賢者』クラウディアが眉をつり上げた。

「ちょっと。『あのこと』を言いふらすつもり!?」
「もちろん。ここまでしてもらって誤魔化すのは、この子たちに対して不誠実だよ。、クラウ」
「ううー……」

 ヴァスリオの言葉に唸る賢者。
 ユウキは首を傾げた。諦めよう――って、どういうこと?

 勇者は咳払いした。

「僕たちがここに来た理由を端的に言うとね、
「……え?」
「探し物に夢中になりすぎて、気づいたら聖なる結界を見つけて、『きっとこの中から見つかるに違いない』って話になって、妹のパティ――パトリシアに神の奇跡を借りてもらって、中に入って、そして引き続き探して歩いていたらここまでたどり着いた、というわけさ」

 あっけらかんと言う勇者。するとクラウディアが顔を赤くして噛みついた。

「私のせいじゃないわよっ!?」
「うーん。でも『ぜったいこの中にある!』って興味津々だったのはクラウだからなあ」
「それを言ったら、聖域に釘付けだったのはパティもじゃない」
「ふぇ!? ごごご、ごめんなさい。あの、やっぱりきちんと儀式をして神様にお伺いを立てた方がよかった、のかな?」
「うーん。どうかなあ」
「ちょっと。私の話、ちゃんと聞いてる?」
「あ、あのねクラウちゃん。そのやり取りだと、いつものパターンでクラウちゃんが疲れるだけだと思う。お兄ちゃん、ほんわかモードに入ってるから」
「ほんわかモードってなによ!? ああもう、ベリウス先生からもなんか言ってやってください!」
「がっはっはっは! 元気そうで結構結構。無礼講はこうでなくては!」
「あーん、もおーっ!」

 癇癪を起こす賢者。それを微笑ましく見る勇者たち。
 ユウキを除くもふもふ家族院の皆は、彼らの様子をぽかんとして見つめていた。
 少年院長だけが、穏やかに言う。

「仲がいいんですね」
「ああ。自慢の仲間、いや――家族だね」

 勇者が応える。
 お互い、ほんわかした笑みを向け合った。

 ユウキの横ではミオが、ヴァスリオの横ではクラウディアが、それぞれ額を押さえながら「似た者同士……」とつぶやいていた。

 ユウキはちらりと後ろを見遣る。
 他の人間には見えていないようだが、天使マリアが木陰からこちらを伺っていた。
 なぜかハンカチを口にくわえ、とても悔しそうな顔をしている。なぜそんな感情に至ったのかユウキにはよくわからなかったが、とりあえず天使様は敵意を向けていないとわかり、胸をなで下ろす。

「ユウキ院長?」
「いえ、なんでもないです。それと、僕のことはユウキで大丈夫です」
「そうか。なら僕のこともヴァスリオと呼んでくれ」
「あはは……さすがに年上の人を呼び捨てには、なかなか」

 苦笑する。
 それから、少し目を細めてたずねた。

「探し物は見つかりましたか。ヴァスリオさん」
「おかげさまでね」

 うなずく勇者。
 すかさずミオが問い詰める。

「なんなんです? その探し物って」
「……薬草よ」

 不承不承、といった様子でクラウディアが答えた。

「聖域近くの集落で、風土病が発生したのよ。大半の人間は軽症で済む病気なんだけど、ごく稀にひどく重症化するケースがあってね。悪いことに、世話になってた宿屋の人が具合を悪くしちゃって。だから風土病に効く薬草を探してたってワケ」
「重症患者がいるのに、あるかどうかもわからない薬草を探し回るなんて、暢気が過ぎるのでは?」
「パティの聖魔法を舐めないことね、眼鏡の子。それに、あんたじゃないけど私も相応の文献を読み込んできたつもり。この聖なる空間、植生環境なら、必ず見つかると確信していたわ」

 ミオとクラウディアが睨み合う。
 眼鏡少女が言った。

「……あとでその書物を読ませてもらっても?」
「あんな重い物、常に持ち運べるわけないでしょ。口頭で教えてあげるわよ」
「……ふん」
「……はっ」

 同時に視線を外すふたり。
 隣のヒナタが、つんつんとユウキをつついた。

「これケンカ? それとも仲良し?」
「仲良しなんじゃないかな? 気が合うんだよ、きっと」

 ユウキは答えた。目の前で勇者が「うんうん」とうなずいていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸
ファンタジー
 幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。  色々と特殊な家柄の皐月の実家を継ぐ為に、修二は努力を積み重ねる。  結婚して一人娘も生まれ、順風満帆かと思えた修二の人生に試練が訪れる。  家族の乗る車で帰宅途中、突然の地震から地割れに呑み込まれる。  呑み込まれた先は、ゲームの様な剣と魔法の存在する世界。  その世界で、強過ぎる義父と動じない義母、マイペースな妻の皐月と天真爛漫の娘の佐那。  ファンタジー世界でも婿養子は懸命に頑張る。  修二は、異世界版、大草原の小さな家を目指す。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...