僕はもふもふ家族院の院長先生!!

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
63 / 92
8章 星望むミオと眠れない夜

第63話 眠らない院長先生

しおりを挟む

「もう二度と眠れない……? 僕が?」
「あくまで可能性だけど」

 まだ初日だしとミオはフォローする。彼女の手が、ユウキの胸元から離れる。
 少年院長は、ミオの手が触れていた箇所に自らも手を当てた。
 目をつむる。
 すると、心の中で声が聞こえた。


 ――ごめんなさい。私たちのせいね。
 ――君の助けになりたいがゆえに、君に枷をかけることになってしまった。申し訳ない。


 善き転生者たちの、済まなそうな声。
 ユウキは悟った。ミオの懸念は、的を射ているのだと。
 大きく、深呼吸をする。

 もう二度と眠れない。人と違う生き方を強いられる。

「ユウキ……」

 ミオが心配そうに声をかけてくる。
 月明かりの下で、眉を下げた彼女の表情を見る。気遣う彼女の目元には、睡眠不足を示すクマがある。
 ユウキは胸元から手を離した。自然と笑みが浮かんだ。

「ありがとう、ミオ。心配してくれて」
「……別に。家族院の中で、あなたが唯一、同じ境遇にいると思ったから。まあ、その、先輩として気遣いはしておくべきだわ」
「ミオらしいね」

 小さく笑声も漏れた。
 ユウキが予想以上に平然としていることが気になったのだろう。ミオが怪訝そうにたずねる。

「あなた、ショックじゃないの? 自分が他の人と違うかもしれないのよ。眠れないなんて、この先どんな影響があるか」
「あ、うん。それなんだけど」

 頭をかく。

「実はさ、あんまり気にならないんだ。僕」
「は!?」
「この世界に来たときから思ってたことだから。生きてるだけで儲けもの――ってね。だからショックと言うほどショックじゃないというか」

 だからミオも気にしないで、とユウキは笑う。
 ぽかんと口を開けていたミオは、やがて肩を落として深々と息を吐いた。首を横に振る。

「本当、呆れた……どういう精神構造しているのかしら」
「そ、そこまでのことかな。今がじゅうぶんすぎるほど幸せだから、まあ、いっかなって」
「はぁー……心配して損した」
「ごめん。それよりさ」

 ユウキはミオの手を握った。突然のことで、眼鏡少女が目を丸くする。

「ミオが背負っていること、僕にも背負わせてくれないかな」
「な、なにを」
「僕にとっては、ミオの方が心配なんだ。皆のために、自分だけが寝不足に耐えて……ミオが責任感強いのはわかってるけどさ、それはあまりにも哀しいよ」
「ど、同情はいらないから」
「同情じゃない。僕は院長として、できることをやりたいんだ。これも、この世界に来たときに決めたことだよ」

 ユウキは言葉に力を込める。

「誰かの役に立ちたい――そう決めたんだ、僕。だから、ミオが辛さ、僕にも背負わせてほしい。今度から、天使様のお手紙を書き写すの、僕も手伝うよ。交代でやればミオの負担も減るだろうし。なんだったら僕が代わりにやってもいい」

 ミオから手を離し、自分の胸をドンと叩く。

「なんたって僕は『眠らない院長先生』だからね。転生者さんたちのお墨付きさ。今だってピンピンしてるから、きっとこれからも大丈夫!」
「眠らない院長先生って……なによそれ」
「今考えた。いいでしょ?」
「……ぷっ。ふふふ」

 口元に手を当て、堪えきれない様子でミオが吹き出す。
 ひとしきり笑った後、ミオは再び、いつもの怜悧な表情を取り戻した。

「わかったわ。そこまで言うなら、手伝ってもらう。実を言うと、眠れないのは結構つらかったの。きっと、あなたと比べて耐性が弱いからね」
「これからはゆっくり休んでよ、ミオ」
「そういうわけにはいかないわ。私にだってプライドはある。責任もある。天使様から託された役割のすべてを放棄するつもりはない」

 きっぱりと言う。

「あなただって、院長先生の仕事はサボっていいなんて言われて、『はいそうですか』とはならないでしょう?」
「まあ、そうだね」
「私は私の責任を果たす。あなたはあなたの責任を果たす。それで家族院の皆を支える。それでいきましょう」
「わかった」
「よろしい。じゃあ、はい」

 ミオが手を差し出す。「さっきは不意打ちだったから」と彼女は小声でつぶやいた。
 改めて、握手を交わす。

「ユウキ。あなたを正式にもふもふ家族院の院長として認めてあげる」
「ありがとう。全力を尽くすよ」

 こういうやり取り、すごくミオらしいなとユウキは思った。
 微笑ましく思っていると、なぜかミオがもじもじし始めた。首を傾げる。
 しばらくして、彼女はたどたどしく言った。

「まあ、その……今日は初日だし、もうしばらくは、許可してあげる」
「ん?」
「天体観測。眠気が来るまでの間、その……もうしばらく一緒に見ててもいいわよ」
「ふふっ。ありがとう。じゃあ、喜んでご一緒させてもらうね」
「ええ」

 柔らかな微笑みを、ミオは向けてくれた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

三度の飯より犬好きな伯爵令嬢は田舎でもふもふスローライフがしたい

平山和人
恋愛
伯爵令嬢クロエ・フォン・コーネリアは、その優雅な所作と知性で社交界の憧れの的だった。しかし、彼女には誰にも言えない秘密があった――それは、筋金入りの犬好きであること。 格式あるコーネリア家では、動物を屋敷の中に入れることすら許されていなかった。特に、母である公爵夫人は「貴族たるもの、動物にうつつを抜かすなどもってのほか」と厳格な姿勢を貫いていた。しかし、クロエの心は犬への愛でいっぱいだった。 クロエはコーネリア家を出て、田舎で犬たちに囲まれて暮らすことを決意する。そのために必要なのはお金と人脈。クロエは持ち前の知性と行動力を駆使し、新しい生活への第一歩を踏み出したのだった!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...