上 下
50 / 92
7章 謳う魔法使いソラ

第50話 魔法の使い方

しおりを挟む

「魔法を教えてって……ボクが、ユウキに?」
「そう」

 うなずくと、ソラは怪訝そうに首を傾げた。

「けど、ユウキはもう魔法を使えるよね? むしろボクより強い力を持っているように思うんだけど……」
「僕が元いた世界は、魔法がまったく存在しなかったんだ。あ、いや、もしかしたら使える人もいたかもしれないけど……少なくとも、僕はまったく使えなかった。こっちの世界に来てからだよ。それに、僕の魔法は僕だけのものじゃない」

 だから、と言葉を継ぐ。

「魔法についてはソラの方が先輩だから、ソラに教わりたいんだ。魔法とどう向き合っていけばいいかってこと。自信を持てるようになったソラに、さ」

 ソラはしばらく黙って考えていた。

 ――最初に出会ったころの銀髪少年なら、回答を拒否していたかもしれない。遠慮して、自信なさげで。
 だが、ユウキたちの言葉で自信を持てるようになった彼は、魔法について前向きに受け止められるようになっていた。

「うん。いいよ、ボクで伝えられることなら。ユウキには、励ましてもらったもんね。お礼、しなきゃ」
「ありがとう!」

 ユウキはソラの手を握る。
『あまり遅くなるなよ』と言いつつ、チロロがその場にどすんと横座りする。ふたりが満足するまで付き合ってくれるつもりなのだ。
 ユウキとソラは、隣り合わせに座った。チロロのもふもふな毛並みに背中を預ける。

「まず、さ。魔法ってどんなことができるか、教えてもらえる?」

 ユウキは切り出した。ソラは口元に手を当て考える。

「うーん……その辺りは、たぶんサキの方が詳しいと思うけど……。実際に魔法を使ってみて思うのは、『なんでもできそうだけど、なんでもできるわけじゃない』ってことかなあ」
「どういうこと?」
「ごめんね。説明するのが下手くそで……えっと」

 ソラはつたないながらも説明を試みる。歌詞を即興で考える文才を持っているだけあって、彼の言葉は詩的で、ちょっと抽象が過ぎた。
 それでもユウキが読み取った限り、魔法の肝は『イメージ』で、そこに魔力をうまく乗せることが大事らしい。
 イメージと魔力を合わせる作業が難しく、発動のし易さには個人の資質や得意不得意が大きく影響する――らしい。

「ボクは癒やしの魔法や歌に魔力を込めること以外は、怖くてできないから……他の魔法について試したことはないんだ。でも、イメージと魔力がぴったり一致したら、どんな魔法でも使えるんじゃないかって気はする」
「おお……!」
「だからサキは、いろんな魔法を研究したがってるんだ。無限の可能性があるって、わかってるからだと思う……」
「なるほど。ちなみにサキはどんな魔法が使えるの?」
「……あれって魔法って呼べるのかなあ……?」

 ソラがむつかしい顔で首をひねったので、それ以上聞かないことにした。
 ユウキは保護者フェンリルを振り返る。

「それじゃあ、うまくできたら、チロロを素敵な人間の姿に変身させることもできたりするのかな」
「サキも同じようなこと言ってたね」
『おいやめろ』

 チロロがすかさず言った。どうやらあまり良い思い出がないらしい。

 ふと、ソラが笑みを抑えた。少し、真面目な表情になる。

「ボクは得意な魔法が限られているし、それ以外は怖くてとても試せないけれど……ユウキは、気をつけた方がいいと思う……」
「なんで?」
「ユウキは、その……?」
「――あ」

 気づいた。自らの胸に手を当てる。
 ユウキの魔法は、ユウキ自身のものではない。彼の中に眠る複数の『善き転生者』が、力を貸してくれた結果だ。イメージも魔力込めも、すでに十分習熟している別の人間が肩代わりしているようなものである。

「ユウキこそ、きっと『魔法でなんでもできる』子になれそう……。ねえ、ユウキは怖くないの? 自分の中に、たくさんの別の人がいるってこと」
「うん。ぜんぜん」

 即答する。

「転生者さんたちは、いつも僕を気にしてくれて、困ったときは手を差し伸べてくれる。だからぜんぜん、怖くないよ。むしろ、僕の方からなにもしてあげられないのがつらいくらいなんだ」
「……ユウキがそう言うなら、大丈夫なんだろうなあ」

 ソラはつぶやいた。
 彼は「触ってもいい?」と一言断ってから、ユウキの胸に手を当てた。整った顔が、すぐ目の前に来る。

「……伝わってくる。すごく、温かな力だ……」
「うん。僕もそう思う。いつも感じるんだ。見守ってくれているって」
「じゃあ、さ。ユウキから話しかけてあげるのはどうかな。例えば、朝のあいさつとか」

 首を傾げる。ソラは言った。

「言葉ってさ、魔法と同じくらい力を持ってるんだ……ほら、ユウキがボクを励ましてくれたみたいに。だから、おんなじように毎日、転生者さんたちに話しかけていれば、転生者さんたちもきっと、心地良いんじゃないかと思うんだ……」
「おおっ。なるほど! さすがソラ」
「大げさだよ……でも。そうやって話しかけていれば、ユウキの心との結びつきが強くなって、もっと魔法も使いやすくなるんじゃないかな……って、ボクは思う」
「そうだね。これからずっと一緒だものね」

 ソラとともに、ユウキは自らの胸を触る。
 心の奥で温かく輝く、善き人々へ語りかけた。

「ありがとう。僕はあなたたたちのことを、とても大切に思います。ずっと一緒にいようね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界生活物語

花屋の息子
ファンタジー
 目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。 そんな魔法だけでどうにかなるのか???  地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

処理中です...