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7章 謳う魔法使いソラ
第50話 魔法の使い方
しおりを挟む「魔法を教えてって……ボクが、ユウキに?」
「そう」
うなずくと、ソラは怪訝そうに首を傾げた。
「けど、ユウキはもう魔法を使えるよね? むしろボクより強い力を持っているように思うんだけど……」
「僕が元いた世界は、魔法がまったく存在しなかったんだ。あ、いや、もしかしたら使える人もいたかもしれないけど……少なくとも、僕はまったく使えなかった。こっちの世界に来てからだよ。それに、僕の魔法は僕だけのものじゃない」
だから、と言葉を継ぐ。
「魔法についてはソラの方が先輩だから、ソラに教わりたいんだ。魔法とどう向き合っていけばいいかってこと。自信を持てるようになったソラに、さ」
ソラはしばらく黙って考えていた。
――最初に出会ったころの銀髪少年なら、回答を拒否していたかもしれない。遠慮して、自信なさげで。
だが、ユウキたちの言葉で自信を持てるようになった彼は、魔法について前向きに受け止められるようになっていた。
「うん。いいよ、ボクで伝えられることなら。ユウキには、励ましてもらったもんね。お礼、しなきゃ」
「ありがとう!」
ユウキはソラの手を握る。
『あまり遅くなるなよ』と言いつつ、チロロがその場にどすんと横座りする。ふたりが満足するまで付き合ってくれるつもりなのだ。
ユウキとソラは、隣り合わせに座った。チロロのもふもふな毛並みに背中を預ける。
「まず、さ。魔法ってどんなことができるか、教えてもらえる?」
ユウキは切り出した。ソラは口元に手を当て考える。
「うーん……その辺りは、たぶんサキの方が詳しいと思うけど……。実際に魔法を使ってみて思うのは、『なんでもできそうだけど、なんでもできるわけじゃない』ってことかなあ」
「どういうこと?」
「ごめんね。説明するのが下手くそで……えっと」
ソラはつたないながらも説明を試みる。歌詞を即興で考える文才を持っているだけあって、彼の言葉は詩的で、ちょっと抽象が過ぎた。
それでもユウキが読み取った限り、魔法の肝は『イメージ』で、そこに魔力をうまく乗せることが大事らしい。
イメージと魔力を合わせる作業が難しく、発動のし易さには個人の資質や得意不得意が大きく影響する――らしい。
「ボクは癒やしの魔法や歌に魔力を込めること以外は、怖くてできないから……他の魔法について試したことはないんだ。でも、イメージと魔力がぴったり一致したら、どんな魔法でも使えるんじゃないかって気はする」
「おお……!」
「だからサキは、いろんな魔法を研究したがってるんだ。無限の可能性があるって、わかってるからだと思う……」
「なるほど。ちなみにサキはどんな魔法が使えるの?」
「……あれって魔法って呼べるのかなあ……?」
ソラがむつかしい顔で首をひねったので、それ以上聞かないことにした。
ユウキは保護者フェンリルを振り返る。
「それじゃあ、うまくできたら、チロロを素敵な人間の姿に変身させることもできたりするのかな」
「サキも同じようなこと言ってたね」
『おいやめろ』
チロロがすかさず言った。どうやらあまり良い思い出がないらしい。
ふと、ソラが笑みを抑えた。少し、真面目な表情になる。
「ボクは得意な魔法が限られているし、それ以外は怖くてとても試せないけれど……ユウキは、気をつけた方がいいと思う……」
「なんで?」
「ユウキは、その……ひとり分じゃないでしょ?」
「――あ」
気づいた。自らの胸に手を当てる。
ユウキの魔法は、ユウキ自身のものではない。彼の中に眠る複数の『善き転生者』が、力を貸してくれた結果だ。イメージも魔力込めも、すでに十分習熟している別の人間が肩代わりしているようなものである。
「ユウキこそ、きっと『魔法でなんでもできる』子になれそう……。ねえ、ユウキは怖くないの? 自分の中に、たくさんの別の人がいるってこと」
「うん。ぜんぜん」
即答する。
「転生者さんたちは、いつも僕を気にしてくれて、困ったときは手を差し伸べてくれる。だからぜんぜん、怖くないよ。むしろ、僕の方からなにもしてあげられないのがつらいくらいなんだ」
「……ユウキがそう言うなら、大丈夫なんだろうなあ」
ソラはつぶやいた。
彼は「触ってもいい?」と一言断ってから、ユウキの胸に手を当てた。整った顔が、すぐ目の前に来る。
「……伝わってくる。すごく、温かな力だ……」
「うん。僕もそう思う。いつも感じるんだ。見守ってくれているって」
「じゃあ、さ。ユウキから話しかけてあげるのはどうかな。例えば、朝のあいさつとか」
首を傾げる。ソラは言った。
「言葉ってさ、魔法と同じくらい力を持ってるんだ……ほら、ユウキがボクを励ましてくれたみたいに。だから、おんなじように毎日、転生者さんたちに話しかけていれば、転生者さんたちもきっと、心地良いんじゃないかと思うんだ……」
「おおっ。なるほど! さすがソラ」
「大げさだよ……でも。そうやって話しかけていれば、ユウキの心との結びつきが強くなって、もっと魔法も使いやすくなるんじゃないかな……って、ボクは思う」
「そうだね。これからずっと一緒だものね」
ソラとともに、ユウキは自らの胸を触る。
心の奥で温かく輝く、善き人々へ語りかけた。
「ありがとう。僕はあなたたたちのことを、とても大切に思います。ずっと一緒にいようね」
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