上 下
35 / 92
6章 やんちゃ少年レンといたずらスライム

第35話 レンたちがここに来た理由

しおりを挟む

 銀髪の少年ソラは、レンと違って大人しそうな印象だった。
 もふもふ家族院の『のんびりお母さん』アオイと、どことなく似たおっとりさを感じさせる。彼女よりも少し気弱そうにも見える。

 ユウキは、ソラにも手を差し伸べた。

「ユウキです。よろしくお願いします」
「あ、はい……よろしく、お願いします」
「ソラ、院長先生じゃなくて名前でいいよ。普段通りのしゃべり方だと、僕は助かるな」

 笑みを見せながら言うと、ソラははにかんだ。控えめな握手をする。

 こうして近くで見ると、ソラは女の子のように整った顔をしている。前もって男の子だと聞いていなければ、初対面で誤解していたかもしれない。

「それで、ソラ。レンはどうして怒っているんだい?」
「うん。実は……この池にいたずらっ子が隠れているからなんだ」
「いたずらっ子?」

 ソラはうなずく。

 彼によると、そもそもレンとソラが森に出たのは、単に遊びに行ったわけではなかったらしい。昨日、アオイが『お料理に使うハーブがなくなりそう』と言っていたのを聞き、探検がてら採取しようとレンが提案したそうなのだ。

 それを聞いたヒナタは「なるほど。大人しいソラまで森の奥まで来たのが不思議だったけど、そういうことだったのね」と納得していた。いわく、レンだけではハーブの種類がわからず、適当に採取してアオイたちに怒られていただろう、とのこと。
 言葉遣いはああだけど、やっぱり優しい子だったんだと知って、ユウキは満足だった。

 だが、ソラの表情は晴れない。

「ハーブは無事に採取できた、んだけど……途中で、取られちゃったんだ」
「取られた!?」

 ソラはうなずき、レンと池の方を見る。赤髪少年は相変わらず水面に向かって声を張っている。

「この池には、スライムの魔物一家が住んでいるんだけど……一番下の子がすごくいたずらっ子で。途中で出逢ったボクたちから、ハーブを取って逃げちゃったんだ」
「ありゃ。それはひどい」
「あ、でもね。ハーブはもう返してもらってるんだよ。スライムのお母さんが、取ったことを知って、謝ってくれたんだ」

 そう言って、ソラはハーブの入った小袋を見せてくれた。爽やかな香りが鼻をくすぐる。
 どうりでチロロが静観しているわけだ。根っこのトラブルは一応、解決しているらしい。

 ユウキは、魔物が凶暴でないことを実感した。子スライムがした悪さを親スライムが謝ってくるなんて、普通のご近所さんと変わらないと思う。ちょっと見てみたい。

 しかし――だとしたらレンがこれほど怒っているのがますますよくわからない。
 ユウキとヒナタの顔に浮かぶ疑問に、ソラは気づいたようだ。困った表情をする。

「ボクはもう帰ろうって言ったんだ。でもレンは、『アイツからまだ謝ってもらってない!』って怒っちゃって……。相手のスライムくんも意地になったのか、ぜんぜん出てきてくれない」
「ああ、そういう……そのスライムくん一家は、この池の中に?」
「うん。身体が水みたいにぽよんぽよんしてるから、綺麗な池の中が居心地いいみたい」

 水に入るとボクたちの目ではなかなか判別できないから、とソラは言った。だからああして、レンは相手が出てくるまでしつこく叫んでいるのだ。
 ソラは申し訳なさそうに言った。

「ごめんね、ユウキ。ヒナタ。ボクがもっと強く止めていれば、レンもあきらめたかもしれないのに……家族院に帰るのも、遅くなっちゃって」
「うーん、まいったなあ」

 そうぼやいたのはヒナタである。ソラに代わってレンを止めに行こうとしていたユウキは、元気少女を振り返った。

「止めちゃダメなの、ヒナタ?」
「そうじゃなくてさ。もともとレンは家族のために頑張ってたんでしょ? そこからああなっちゃったんなら、もうわたしたちが言っても収まりつかないかも」

 真っ直ぐな子だからなあ、とヒナタは言う。ソラもうなずいた。

「ぜったい、勝負を付けるんだって言ってた。それで向こうを謝らせるって」

 ユウキは表情を曇らせる。

「まさか本当に喧嘩を……!」
「ううん! レンは森の仲間たちに暴力を振るったりしないよ!」
「ほっ……」
「でも、本当にこのままじゃ、ずーっと池の前で我慢比べしてしまうかも」

 ユウキ、ヒナタ、ソラの視線が赤髪少年に集まる。
 どうしようかとユウキが考え始めた、そのときである。

 ふと、池の水面が一部、こんもりと盛り上がった。
 直後、ばしゃあっと水飛沫を上げ、水中からなにかがとびだしてくる。

 大きい。
 二階建ての家くらいの高さがある、丸っこい水の塊が顔を出したのだ。
 水の塊は徐々に空色に変わっていく。生前、ユウキがアニメや動画で見た、いわゆる『スライム』とそっくりの見た目になる。白と黒のシンプルな目が、とても愛らしく見えた。

 ソラがつぶやいた。

「あ、スライムくんのお父さんだ」
「お父さ……本当にご近所さんみたい」

 ユウキが感心していると、スライムお父さんの身体の中から、ぴょんと別の塊が飛び出した。ミニサイズのスライムがユウキたちの前に現れる。
 レンが腕まくりした。

「ようやく出てきたな! スライム坊主!」
「みょんみょん!」

 小柄なレンと小さなスライム。
 こう言っては彼らに怒られるかもしれないが――とても可愛らしい出会いだねとユウキは思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸
ファンタジー
 幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。  色々と特殊な家柄の皐月の実家を継ぐ為に、修二は努力を積み重ねる。  結婚して一人娘も生まれ、順風満帆かと思えた修二の人生に試練が訪れる。  家族の乗る車で帰宅途中、突然の地震から地割れに呑み込まれる。  呑み込まれた先は、ゲームの様な剣と魔法の存在する世界。  その世界で、強過ぎる義父と動じない義母、マイペースな妻の皐月と天真爛漫の娘の佐那。  ファンタジー世界でも婿養子は懸命に頑張る。  修二は、異世界版、大草原の小さな家を目指す。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...