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2章 元気で踊り好きなヒナタともふもふフェンリル
第7話 驚きのもふもふ
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意を決し、ひとりでもふもふ家族院へと歩いていく。
女の子たちの眠る木陰に近づくと、ゆっくりと白銀狼が目を開けた。ユウキを見る。
『来たか、転生者の少年よ』
どこからか聞こえてきた声に、びくりと肩を震わせる。落ち着いた、大人の男性声だ。
ユウキは辺りを見回したが、それらしい人影はない。
『どこを見ている。余はここだ』
「もしかして……狼さんがしゃべった!?」
『しっ。静かにせよ。この子が起きてしまうではないか。それと、余は狼さんではない。誇り高き神の眷属、フェンリルのチロロである』
キリッとした表情で尻尾をパタパタさせながら名乗る白銀狼。
まさか狼がしゃべるなんて。ここは本当に異世界なんだな……!
フェンリルの大きな身体を見る。その柔らかそうな体毛に少しウズウズしながら、ユウキは言った。
「チロロって、可愛い名前だね」
『むう』
「僕はユウキ。えっと、ミックス転生?――というのでこの世界に来たんだ。もふもふ家族院の院長先生を頑張ることになりました。よろしくお願いします」
ユウキがその場でお辞儀をすると、フェンリルのチロロはヒゲをピクピクと動かした。
『天使様からお伺いしていたとおり、善き魂を持った子のようだ。まあ、一目でかの御仁の好みであることは気づいていたが……』
「……?」
『なんでもない。そなたは理解せずともよい世界だ』
心なしか呆れたように耳を下げるチロロ。ユウキは首を傾げた。
『さてユウキよ。天使様より事情は聞いていると思う。ここが今日からそなたが暮らすもふもふ家族院。そして余は、天使様から子どもたちの世話役を仰せつかった者である。以後、よろしく頼む』
「はい。よろしくお願いします」
『なにかあれば、天使様の前に余に頼るといい。そなたは転生者だから、余とも問題なく意思疎通できよう。もっとも、この聖域内ではそうそう面倒は起こらぬから、安心せよ』
「えっと。チロロ……さん? さっそくだけど、ひとつお願い、いいかな?」
『チロロでよい。どうした。なにか不安でもあるのか』
いや、そうじゃなくて――とユウキは苦笑した。
「その、チロロの身体、撫でさせてもらってもいい?」
『ぬ?』
「ごめんね。僕、動物を撫でたことがないんだ。ずっと病院暮らしだったから、遠目でしか動物を見たことがなくて」
瞬間、少し遠い目をしたユウキを、保護者フェンリルはじっと見つめた。
それから目を閉じ、トスンと顎を地面に付けて頭を差し出す。
『眠っている子を起こさぬようにな』
「わあ。ありがとう。やっぱりここの人たちは、優しいんだね」
『早くせよ。落ち着かぬ』
照れたように言うフェンリルのチロロに近づく。かたわらにしゃがみ、そっと頭の毛並みを撫でた。
「おおお……!」
枕ともシーツとも違う、なんとも言えない撫で心地にユウキは感動の声を上げた。
さらに首筋から背中へと手を動かすと、今度は手首まで体毛の中に沈んで驚いた。まさに『もふん』と擬音が付きそうな柔らかさ、ふかふかさだ。
「わああ、これが『もふもふ』なんだね! うわああ、すごい!」
「そうだよ。チロロはすごくもふもふで、一緒に寝ると気持ちいいんだよ」
すぐ近くから、軽やかな声。チロロのものとは違う。
ユウキが目を瞬かせる前で、チロロのお腹に背を預けていた女の子が、むくりと起き上がった。
大きな瞳を輝かせながら、女の子が身を乗り出す。
「こんにちは! わたし、ヒナタっていうの。あなたの名前、教えてほしいな!」
ツインテールの髪先が、元気よく跳ねた。
女の子たちの眠る木陰に近づくと、ゆっくりと白銀狼が目を開けた。ユウキを見る。
『来たか、転生者の少年よ』
どこからか聞こえてきた声に、びくりと肩を震わせる。落ち着いた、大人の男性声だ。
ユウキは辺りを見回したが、それらしい人影はない。
『どこを見ている。余はここだ』
「もしかして……狼さんがしゃべった!?」
『しっ。静かにせよ。この子が起きてしまうではないか。それと、余は狼さんではない。誇り高き神の眷属、フェンリルのチロロである』
キリッとした表情で尻尾をパタパタさせながら名乗る白銀狼。
まさか狼がしゃべるなんて。ここは本当に異世界なんだな……!
フェンリルの大きな身体を見る。その柔らかそうな体毛に少しウズウズしながら、ユウキは言った。
「チロロって、可愛い名前だね」
『むう』
「僕はユウキ。えっと、ミックス転生?――というのでこの世界に来たんだ。もふもふ家族院の院長先生を頑張ることになりました。よろしくお願いします」
ユウキがその場でお辞儀をすると、フェンリルのチロロはヒゲをピクピクと動かした。
『天使様からお伺いしていたとおり、善き魂を持った子のようだ。まあ、一目でかの御仁の好みであることは気づいていたが……』
「……?」
『なんでもない。そなたは理解せずともよい世界だ』
心なしか呆れたように耳を下げるチロロ。ユウキは首を傾げた。
『さてユウキよ。天使様より事情は聞いていると思う。ここが今日からそなたが暮らすもふもふ家族院。そして余は、天使様から子どもたちの世話役を仰せつかった者である。以後、よろしく頼む』
「はい。よろしくお願いします」
『なにかあれば、天使様の前に余に頼るといい。そなたは転生者だから、余とも問題なく意思疎通できよう。もっとも、この聖域内ではそうそう面倒は起こらぬから、安心せよ』
「えっと。チロロ……さん? さっそくだけど、ひとつお願い、いいかな?」
『チロロでよい。どうした。なにか不安でもあるのか』
いや、そうじゃなくて――とユウキは苦笑した。
「その、チロロの身体、撫でさせてもらってもいい?」
『ぬ?』
「ごめんね。僕、動物を撫でたことがないんだ。ずっと病院暮らしだったから、遠目でしか動物を見たことがなくて」
瞬間、少し遠い目をしたユウキを、保護者フェンリルはじっと見つめた。
それから目を閉じ、トスンと顎を地面に付けて頭を差し出す。
『眠っている子を起こさぬようにな』
「わあ。ありがとう。やっぱりここの人たちは、優しいんだね」
『早くせよ。落ち着かぬ』
照れたように言うフェンリルのチロロに近づく。かたわらにしゃがみ、そっと頭の毛並みを撫でた。
「おおお……!」
枕ともシーツとも違う、なんとも言えない撫で心地にユウキは感動の声を上げた。
さらに首筋から背中へと手を動かすと、今度は手首まで体毛の中に沈んで驚いた。まさに『もふん』と擬音が付きそうな柔らかさ、ふかふかさだ。
「わああ、これが『もふもふ』なんだね! うわああ、すごい!」
「そうだよ。チロロはすごくもふもふで、一緒に寝ると気持ちいいんだよ」
すぐ近くから、軽やかな声。チロロのものとは違う。
ユウキが目を瞬かせる前で、チロロのお腹に背を預けていた女の子が、むくりと起き上がった。
大きな瞳を輝かせながら、女の子が身を乗り出す。
「こんにちは! わたし、ヒナタっていうの。あなたの名前、教えてほしいな!」
ツインテールの髪先が、元気よく跳ねた。
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