上 下
7 / 92
2章 元気で踊り好きなヒナタともふもふフェンリル

第7話 驚きのもふもふ

しおりを挟む
 意を決し、ひとりでもふもふ家族院へと歩いていく。
 女の子たちの眠る木陰に近づくと、ゆっくりと白銀狼が目を開けた。ユウキを見る。

『来たか、転生者の少年よ』

 どこからか聞こえてきた声に、びくりと肩を震わせる。落ち着いた、大人の男性声だ。
 ユウキは辺りを見回したが、それらしい人影はない。

『どこを見ている。はここだ』
「もしかして……狼さんがしゃべった!?」
『しっ。静かにせよ。この子が起きてしまうではないか。それと、余は狼さんではない。誇り高き神の眷属、フェンリルのチロロである』

 キリッとした表情で尻尾をパタパタさせながら名乗る白銀狼。
 まさか狼がしゃべるなんて。ここは本当に異世界なんだな……!
 フェンリルの大きな身体を見る。その柔らかそうな体毛に少しウズウズしながら、ユウキは言った。

「チロロって、可愛い名前だね」
『むう』
「僕はユウキ。えっと、ミックス転生?――というのでこの世界に来たんだ。もふもふ家族院の院長先生を頑張ることになりました。よろしくお願いします」

 ユウキがその場でお辞儀をすると、フェンリルのチロロはヒゲをピクピクと動かした。

『天使様からお伺いしていたとおり、善き魂を持った子のようだ。まあ、一目でかの御仁のであることは気づいていたが……』
「……?」
『なんでもない。そなたは理解せずともよい世界だ』

 心なしか呆れたように耳を下げるチロロ。ユウキは首を傾げた。

『さてユウキよ。天使様より事情は聞いていると思う。ここが今日からそなたが暮らすもふもふ家族院。そして余は、天使様から子どもたちの世話役を仰せつかった者である。以後、よろしく頼む』
「はい。よろしくお願いします」
『なにかあれば、天使様の前に余に頼るといい。そなたは転生者だから、余とも問題なく意思疎通できよう。もっとも、この聖域内ではそうそう面倒は起こらぬから、安心せよ』
「えっと。チロロ……さん? さっそくだけど、ひとつお願い、いいかな?」
『チロロでよい。どうした。なにか不安でもあるのか』

 いや、そうじゃなくて――とユウキは苦笑した。

「その、チロロの身体、撫でさせてもらってもいい?」
『ぬ?』
「ごめんね。僕、動物を撫でたことがないんだ。ずっと病院暮らしだったから、遠目でしか動物を見たことがなくて」

 瞬間、少し遠い目をしたユウキを、保護者フェンリルはじっと見つめた。
 それから目を閉じ、トスンと顎を地面に付けて頭を差し出す。

『眠っている子を起こさぬようにな』
「わあ。ありがとう。やっぱりここの人たちは、優しいんだね」
『早くせよ。落ち着かぬ』

 照れたように言うフェンリルのチロロに近づく。かたわらにしゃがみ、そっと頭の毛並みを撫でた。

「おおお……!」

 枕ともシーツとも違う、なんとも言えない撫で心地にユウキは感動の声を上げた。
 さらに首筋から背中へと手を動かすと、今度は手首まで体毛の中に沈んで驚いた。まさに『もふん』と擬音が付きそうな柔らかさ、ふかふかさだ。

「わああ、これが『もふもふ』なんだね! うわああ、すごい!」
「そうだよ。チロロはすごくもふもふで、一緒に寝ると気持ちいいんだよ」

 すぐ近くから、軽やかな声。チロロのものとは違う。
 ユウキが目を瞬かせる前で、チロロのお腹に背を預けていた女の子が、むくりと起き上がった。
 大きな瞳を輝かせながら、女の子が身を乗り出す。

「こんにちは! わたし、ヒナタっていうの。あなたの名前、教えてほしいな!」

 ツインテールの髪先が、元気よく跳ねた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

処理中です...