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2章 元気で踊り好きなヒナタともふもふフェンリル
第6話 家族院が見えてきた
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天使マリアに手を引かれながら歩くことしばらく。
まったく息が上がらなくなった身体に感動していたユウキは、ふと、道の先に建物を見た。
明るい空、穏やかな日射し、心が洗われるような緑の香りに包まれた、2階建ての建物。本の挿絵に出てくる西洋の教会のような、真っ白に輝く綺麗で大きな家だ。
『あれがもふもふ家族院ですよ』
「うわあ、すごい。あんな大きな家、見たことないです!」
実際、病室からほとんど出ることのなかったユウキは、窓から見える遠景の民家しか記憶がない。病院を外から見る機会もなかった。見るのはネットなどの情報だけ。実物を目にすることはごくごく限られていたのだ。
まるで世界全部から祝福されているような家族院のたたずまいに、ユウキはただただ目を輝かせていた。
まさに異世界。聖なる力に護られた土地。そう強く印象づけられる。
よく見ると、もふもふ家族院の周辺には生活に欠かせないような設備も備わっていた。緩やかな流れの小川、井戸、納屋、菜園。家族院の前庭も広い。ちょっとした公園くらいだ。
あそこの木陰で昼寝をしたら気持ちいいだろうなとユウキは思う。
先客がいた。
立派な梢の大きな木。その根元で、横になって眠っているふたつの陰があった。
女の子がひとりと、大きな――とても大きな狼が一匹だ。
ユウキはどきりとする。
狼の方は、これまでユウキが本やネットで見たそれよりもずっと大きかった。体長は2メートルをゆうに超えているだろう。白よりも落ち着きと気品のある、白銀の毛並み。遠目だが、とても賢そうな横顔に見えた。
そして女の子のほうはというと、狼のお腹に身体を預けて穏やかな寝顔を見せている。腰ぐらいまである髪をツインテールにしていて、片っぽの房が女の子の身体にくるりと巻き付いていた。
ユウキが驚いたのは、彼女の髪色である。
天使マリアの見事な金髪にもびっくりしたが、女の子は目の覚めるような鮮やかな赤色をしていたのだ。ファッションに疎い――というかそもそも知る機会すらなかったユウキであっても、女の子の髪色が地毛だということはわかった。
ユウキは驚いて、そして羨ましく思った。
「すごく気持ちよさそうに昼寝してる。いいなあ」
『ふふ。羨ましがらなくても、あなたも隣で眠っていいのですよ。落ち着いたらぜひ、そうするといいでしょう。むしろぜひ、そうしてください』
天使マリアの言葉に表情をさらに輝かせるユウキ。
だが、ふと違和感に気づいて振り返る。
いつの間にか天使マリアが手を離し、数歩後ろで立ち止まっていたのだ。
「天使さま。どうしたの?」
『ごめんなさい、ユウキ。私が案内できるのはここまでなのです』
「え!? ど、どうして?」
『私は天界の天使。この世界、【レフセロス】のほとんどの人間は、私を見ることができません。不用意に近づけば、私の力が強すぎて子どもたちに悪影響を及ぼすおそれがあるのです』
「でも、僕は天使さまと手を繋いでも平気だったよ」
『それはユウキ、あなたが特別な存在だからですよ。あなたは転生者。それも、いくつもの善なる魂と共に生きる人間。この世界の人々ができないことができます。こうして私の姿を見て、会話をするというのも、実はすごいことなのですよ?』
ユウキは不思議そうに自分の両手を見た。
天使マリアは微笑む。
『直接姿を見せる機会は少ないですが、私はいつでも、あなたたちを見守っています。何かあれば、手を差し伸べることもしましょう。だからあなたは安心して、お仕事に励んでください』
「お仕事……もふもふ家族院の院長先生、だね」
『はい。もふもふ家族院には、あなたの他に6人の子どもたちがいます。彼ら以外にもフェンリル――あの大きな狼もあなたの味方です。ユウキが見たことのない生き物もたくさんいます。院長先生として、彼らを護ってあげてくださいね』
「はい。わかりました。天使さま」
『素直でよろしい。では、頼みましたよ。ユウキ』
すーっと天使マリアの姿が消えていく。ユウキは背筋を伸ばして、彼女を見送る。
やがて完全に見えなくなったとき――。
『つらくなったら、遠慮なく助けを呼ぶのですよ?』
にょきっと天使マリアが顔だけ実体化させてきた。目を丸くしながらうなずくユウキ。
『家族院の子どもたちは皆、素晴らしく良い子ですが、無理しなくていいですからね?』
「はい。天使さま」
『聖地の安全には万全を期していますが、危ないことはしないように』
「はい。天使さま」
『それと、食事はちゃんと朝昼晩と食べるのですよ。歯も毎日ちゃんと磨いて』
「は、はい。天使さま……」
『それから、それから。うーん――』
後ろ髪を引かれすぎな様子の天使に、ユウキは笑顔で握りこぶしを作った。
「天使さま。ありがとう。僕、頑張るよ!」
『クッ、良い子!』
永遠にここで見ていたい――とか何とかつぶやきながら、今度こそ天使マリアは天界へ帰っていった。
ユウキは深く一礼すると、もふもふ家族院を振り返る。
「よし」
気合いを入れて、一歩を踏み出した。
まずは、あの女の子たちと話をしよう。
まったく息が上がらなくなった身体に感動していたユウキは、ふと、道の先に建物を見た。
明るい空、穏やかな日射し、心が洗われるような緑の香りに包まれた、2階建ての建物。本の挿絵に出てくる西洋の教会のような、真っ白に輝く綺麗で大きな家だ。
『あれがもふもふ家族院ですよ』
「うわあ、すごい。あんな大きな家、見たことないです!」
実際、病室からほとんど出ることのなかったユウキは、窓から見える遠景の民家しか記憶がない。病院を外から見る機会もなかった。見るのはネットなどの情報だけ。実物を目にすることはごくごく限られていたのだ。
まるで世界全部から祝福されているような家族院のたたずまいに、ユウキはただただ目を輝かせていた。
まさに異世界。聖なる力に護られた土地。そう強く印象づけられる。
よく見ると、もふもふ家族院の周辺には生活に欠かせないような設備も備わっていた。緩やかな流れの小川、井戸、納屋、菜園。家族院の前庭も広い。ちょっとした公園くらいだ。
あそこの木陰で昼寝をしたら気持ちいいだろうなとユウキは思う。
先客がいた。
立派な梢の大きな木。その根元で、横になって眠っているふたつの陰があった。
女の子がひとりと、大きな――とても大きな狼が一匹だ。
ユウキはどきりとする。
狼の方は、これまでユウキが本やネットで見たそれよりもずっと大きかった。体長は2メートルをゆうに超えているだろう。白よりも落ち着きと気品のある、白銀の毛並み。遠目だが、とても賢そうな横顔に見えた。
そして女の子のほうはというと、狼のお腹に身体を預けて穏やかな寝顔を見せている。腰ぐらいまである髪をツインテールにしていて、片っぽの房が女の子の身体にくるりと巻き付いていた。
ユウキが驚いたのは、彼女の髪色である。
天使マリアの見事な金髪にもびっくりしたが、女の子は目の覚めるような鮮やかな赤色をしていたのだ。ファッションに疎い――というかそもそも知る機会すらなかったユウキであっても、女の子の髪色が地毛だということはわかった。
ユウキは驚いて、そして羨ましく思った。
「すごく気持ちよさそうに昼寝してる。いいなあ」
『ふふ。羨ましがらなくても、あなたも隣で眠っていいのですよ。落ち着いたらぜひ、そうするといいでしょう。むしろぜひ、そうしてください』
天使マリアの言葉に表情をさらに輝かせるユウキ。
だが、ふと違和感に気づいて振り返る。
いつの間にか天使マリアが手を離し、数歩後ろで立ち止まっていたのだ。
「天使さま。どうしたの?」
『ごめんなさい、ユウキ。私が案内できるのはここまでなのです』
「え!? ど、どうして?」
『私は天界の天使。この世界、【レフセロス】のほとんどの人間は、私を見ることができません。不用意に近づけば、私の力が強すぎて子どもたちに悪影響を及ぼすおそれがあるのです』
「でも、僕は天使さまと手を繋いでも平気だったよ」
『それはユウキ、あなたが特別な存在だからですよ。あなたは転生者。それも、いくつもの善なる魂と共に生きる人間。この世界の人々ができないことができます。こうして私の姿を見て、会話をするというのも、実はすごいことなのですよ?』
ユウキは不思議そうに自分の両手を見た。
天使マリアは微笑む。
『直接姿を見せる機会は少ないですが、私はいつでも、あなたたちを見守っています。何かあれば、手を差し伸べることもしましょう。だからあなたは安心して、お仕事に励んでください』
「お仕事……もふもふ家族院の院長先生、だね」
『はい。もふもふ家族院には、あなたの他に6人の子どもたちがいます。彼ら以外にもフェンリル――あの大きな狼もあなたの味方です。ユウキが見たことのない生き物もたくさんいます。院長先生として、彼らを護ってあげてくださいね』
「はい。わかりました。天使さま」
『素直でよろしい。では、頼みましたよ。ユウキ』
すーっと天使マリアの姿が消えていく。ユウキは背筋を伸ばして、彼女を見送る。
やがて完全に見えなくなったとき――。
『つらくなったら、遠慮なく助けを呼ぶのですよ?』
にょきっと天使マリアが顔だけ実体化させてきた。目を丸くしながらうなずくユウキ。
『家族院の子どもたちは皆、素晴らしく良い子ですが、無理しなくていいですからね?』
「はい。天使さま」
『聖地の安全には万全を期していますが、危ないことはしないように』
「はい。天使さま」
『それと、食事はちゃんと朝昼晩と食べるのですよ。歯も毎日ちゃんと磨いて』
「は、はい。天使さま……」
『それから、それから。うーん――』
後ろ髪を引かれすぎな様子の天使に、ユウキは笑顔で握りこぶしを作った。
「天使さま。ありがとう。僕、頑張るよ!」
『クッ、良い子!』
永遠にここで見ていたい――とか何とかつぶやきながら、今度こそ天使マリアは天界へ帰っていった。
ユウキは深く一礼すると、もふもふ家族院を振り返る。
「よし」
気合いを入れて、一歩を踏み出した。
まずは、あの女の子たちと話をしよう。
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