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【113】明らかな事実
しおりを挟むパーさんの本名を言えと迫られた私たち。
これ、真面目にピンチなのでは?
元はと言えば私のせいなのだが、今、私たちの中でパーなんとかさんの『なんとか』部分を記憶している者は皆無だ。マジごめんパーさん。
そして、今のこの状況。
壁やら地面に埋まり人というけったいな相手だが、それでもここは相手の本拠地。逃げ場も限られる建物内。周りは埋まり人の魔族で囲まれている。
彼らがどんな力を持っているのかわからないが、もし一斉に攻撃されたら……。
「ふふふ……くくく……。そうか、そうか」
突然、笑い声が上がった。
まるで犯人が自らのトリックを高らかに明かすときのような悪っるい口調で言い出したのは、ディル君だった。身内かよ。
「貴方たちの機転、まさに見事というほかない。天晴れだ。だが、肝心なところを見逃しているぞ」
「そうですわ」
突っ込みどころ満載の口上に、あろうことかアムルちゃんまで乗っかる。やめなさいはしたない。
「魔王の名を告げさせる。まさかそのような手があろうとは思いもしませんでしたが、わたくしたちのすべきことは変わりません」
「その通りだ、アムル。……壁に埋まりし癖強き者たちよ。心して聞くがいい」
バッと両手を広げるディル君。
「ここにいる見目麗しき女性こそ、我らが主、聖女カナデ! すべては我が主の御心のままに!」
「ちょおっと待ったぁ!」
おいこら弟わんこ!
あんた、私に全部ぶん投げやがったな!?
アムルちゃんも同じポーズしてんじゃないよ! 両隣の板嵌め人間から『じゃじゃーん』って紹介される絵面ってなんだよこれ!
埋まり人さんたちは表情を険しくした。
「なん……だと」
「待って。あなたたちも待って。どうか落ち着いて冷静に。真に受けては駄目」
「しかし、この気配は確かに聖女。ううむ、やはりそういうことか」
この状況で何か話が前に進んでるっぽいのが信じられません私。
混乱している私をよそに、埋まり人の長っぽい方が重々しく語り出した。
「魔王様は以前より、伴侶をおさがしであった。しかし、力の強さと行動力には誰もついていけず、ついには魔族の領域を出られてしまったのだ。その先に運命を感じる――とおっしゃってな」
「なんと」
それっぽい相づちを打つディル君。埋まり人の長はため息をついた。
「我らが引き留めるのも聞き入れず……」
「かの者はこの地域を治めていたのか?」
「ぜんぜん違う地域だ」
いや違うんかい。
「目立つお方だったからな。我々も好感を持っていた」
「なるほど。確かにそれはうなずけるな」
ディル君、超白々しい。
埋まり人の長さんは、少しだけ表情を緩めた。
「あのお方にとっての聖女が見つかったのなら、我らも受け入れねばなるまい」
――それから私たちは、何だかよくわからない流れで解放された。本当によくわからない。
ただひとつ、明らかな事実がある。
そういえばパーさんの本名誰も言ってない。
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