105 / 118
【105】今の聞かれた?
しおりを挟む「主様、ひとつ提案があります」
「……なにかな?」
ディル君からの提案、身構えないわけにはいかない。
テーブルを囲ったディル君とアムルちゃんは、真剣な表情を崩さなかった。
「この城を移動させ、別の国に行きたいと考えているんです」
「えっ!? いま、なんて?」
私は素で驚いてしまった。
私をオモチャにする提案でないことも驚きだが、その内容もあまりに予想外で、思わず聞き返してしまう。
ディル君は辛抱強く繰り返した。
「この城を移動させ、別の国へ行くのです」
「えーと……なぜ?」
「パーへの対処法を見つけ出すためですよ」
ますますわからない。
アムルちゃんが腕組みをした。
「闘技大会が終わってから、わたくし、お兄様と一緒に色々な書物を調べました。いかに最弱、最低、お姉様と同じ空気を吸わせるのも汚らわしい廃棄物とはいえ、あの者の力、能力は侮れません。しかし……魔王パーなる人物はどの歴史書にも載っていなかったのです」
「そうだよね。パーさんは確かパー……なんとかって名前があったものね」
パーさんと略したのは私ですごめん。だって覚えられない。
アムルちゃんが握り拳を作る。
「こうなれば、かの者が生まれたであろう本拠地に乗り込み、パーの弱点を直接探るしかないと考えたのです」
「……ん?」
「主様。奴の名が広まっていないということは、奴を知る存在はごくわずかのはずです。聞き取りで情報を得るのは望み薄。ならば、奴が生まれた環境を調べ、そこから弱点を割り出すのです」
「えーと、つまり。お城ごと移動するっていうのは……」
「はい。魔族の支配領域に乗り込みます」
いや、いや。
なにをおっしゃっているのか。
魔族の支配領域ってなに? 今より数段危険な場所に自分たちから出向くってこと?
「主様。ついでに手頃な領域を平定して、主様の国を作ってしまいましょう」
「いやいやいや! それ侵略だから!」
仮にも聖女が何言ってんのって話だよ。
さらにツッコミを続けようとしたとき、ぞわりと悪寒が走る。
「ふはははっ! 面白いことを相談しているな、諸君!」
出た、パーなんとかさん! 今回はテーブルの下から出現。好きなのそこ?
っていうか、今の聞かれた? まずいんじゃない?
いくらパーさんでも、自分の弱点を探られて、あまつさえ滅ぼそうとしている話に黙っていられるはずは――。
「直線距離では北を突っ切るのが最短だが、旅の快適を望むなら北東から迂回するのがオススメだ! 諸君ならだいたい三日でたどり着けるだろう! うむ、素晴らしい速度だ!」
――アナタ本当に自分で何を言ってるかわかってる?
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる