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【103】新しい私の日常
しおりを挟む――闘技大会から二週間後。
「ほーらヒビキ。ごっとん、ごっとん」
「おー。きゃっきゃ!」
私はチート城の納屋で、ヒビキと一緒に精米作業を行っていた。
目の前には大きな木製の農機具。足で踏むことで杵が動き、精米していくものだ。
農機具は、私の記憶と書物を参考にして作った。
米作りを『体験』するために半分趣味でこしらえたものだから、性能は二の次。ヒビキとこうして一緒に作業できれば幸せだ。
その気になれば、私とディル君の魔法やお城の力があれば精米も苦労しない。
というか、刈り取った稲のほとんどはそうやって食べられるお米に変えたものね。
「ごっとん、ごっとん。それ、ごっとん、ごっとん」
「主様、そろそろ休憩されてはいかがです? ヒビキもお昼寝の時間でしょう」
「あ、そうだね。ヒビキー、よく頑張ったねえ」
「あふぅ……」
私はヒビキを抱っこして、お城に戻る。
寝室に入ると、ヒビキ用に作ったベッドに寝かせた。寝息を立てるまで、スカーレットちゃんと一緒に側で見守る。
それからそっと部屋を出て、食堂へ。近くの清流から汲んできた冷たい水で喉を潤す。
「ちょっとディル君。昼間からお酒を飲まないでよ」
「いいじゃないですか主様。カラーズが作ったお酒、魔力補給にぴったりなんですよ。ここのところ俺も魔法を使う機会が多かったので、たまには許して下さい」
「それが主に対する口調ですか。もう、ほどほどにしておいてよ」
手の代わりに尻尾をふる弟わんこ。
食堂を出た私は汗を流すため浴場に向かう。着替えを持ったカラーズちゃんも一緒だ。
「たまには一緒に入らない?」
「そんな。畏れ多いことでございます。私たちでは足手まといになりますので」
苦笑し、脱衣場へ。
いろいろ手を入れたせいか、すっかり華やかな見た目になっていた。
「あ、お姉様。お待ちしておりましたわ」
すでにタオル片手に入浴準備を済ませたアムルちゃんに出迎えられる。
他愛ない話をしながら服を脱ぐ。
その間、アムルちゃんは笑いながらクルクルと踊っていた。
「お姉様のお名前を冠した銘酒、大好評ですわ」
「そう。前に私がむちゃくちゃ飲んじゃった分、埋め合わせはできたかな」
「それはもう。そのときの赤字はとっくにチャラですわ。むしろ、皆さんお姉様に感謝しきりですのよ」
「いつも思うけど、大げさだなあ」
私も笑いながら、湯船への扉を開ける。
アムルちゃんがサッと前に出る。
「今日はそこかああああああっ!!」
「ぬおおおおおっ!?」
踊りによって溜めた聖なる力を、思いっきり解放するアムルちゃん。
天井隅に潜んでいた――どうやって?――魔王パーさんを吹っ飛ばす。
アムルちゃんがイイ笑顔で振り返った。
「さあお姉様。今日も邪悪な追跡者は退治いたしましたわ。一緒に洗いっこしましょう」
「うん」
素直にうなずいた私は、大穴が開いた浴場を見上げて空虚な声でつぶやいた。
「わーい、今日も即席露天風呂だー」
――これが新しい私の日常です。泣いていいですか?
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