99 / 118
【99】よく弾いただろう!
しおりを挟む――そして個人戦決勝。
急遽、優勝者と戦うことになったパーさんは、実に堂々と舞台に上がった。
観客席中のブーイングもどこ吹く風である。
個人的には、この時点で強い。
もしやこの人、無敵の人ではなかろうか。
一方の対戦者。この人は何と女性だった。
私より年上に見えるが、アムルちゃんのお母様に負けず劣らず全身を鍛えていらっしゃる。
肉体美――というものだろうか。見ているだけでドキドキするほどの力強さと美しさを感じる。
素人の私から見ても、隙が無い。さすが猛者の中の猛者。
二人の体格差は明確。全身から醸し出す強さもまるで違う。
しかも――。
「……うわぁ」
私は思わずつぶやく。
対戦者の女戦士さん。明らかに怒っている。激怒という単語も生易しいくらいだ。
顔には青筋が浮かび、二の腕には血管が浮き出ている。
試合開始と同時に叩っ切ってやるという気持ちがありありと伝わってくる。
「どうしてあそこまで怒っているんだろう……」
「それは当然ですわ、お姉様」
アムルちゃんが隣で鼻を鳴らす。
「わたくしたちのお姉様、この街の神にも等しいお姉様に、あのような不埒な真似をしたのです。参加者は皆、はらわた煮えくり返っているのですわ。のぞき見していたことも伝えておきましたから、怒りに火が点いているのです」
最後の情報は伝えなくてもよかったのではと思う。
関係者席から、ディル君が試合開始の合図を送る。待て、なぜ君が。
『それでは――くたばれ!!』
そんな私情まみれの審判見たことない。
私がディル君を睨むと同時に、試合が動く。
女戦士さんが凄まじい勢いで突進する。目にも留まらぬとはこのこと――。
「甘いわああああっ!!」
気合い一発。
パーさんの全身から黒い魔力が溢れ出す。
「我は魔王パーレグズィギスゥトゥ! 我の魔力で、人間の一撃なぞ弾き飛ばしてくれよう!!」
さあ来い――と構えたパーさんのところへ、躊躇いなく振り下ろされる大剣。
いけない。
あの魔力は確かに強力。
弾かれる――!
「はああああああっ!!」
二人の叫びが重なる。
直後――甲高い音を立てて弾かれた。
パーさんが。
まるで昔流行ったスーパーボールのように、闘技場のあっちこっちの壁に激突しては跳ね返った。
そして最後は頭から壁に突き刺さって止まる。
しん……と静まり返った会場。
そこへ響く、くぐもったパーさんの声。
「ふはははっ。どうだ、よく弾いただろう!」
「いやアナタが弾かれるのかよっ!!」
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる