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【97】綺麗な顔してるんだぜ
しおりを挟む優勝してしまった。
私は誰と戦ったのだろう。
いまだかつて、これほど虚しい勝利は経験した事がない。
……というかね。そもそも何だったの、この数時間の出来事。
「聖女様! 素晴らしい戦果ですわ。おめでとうございます!」
「あ、ありがとう」
控え室代わりのテントで豪奢な椅子に座らされ(どっから持ってきた?)、私と瓜二つの容姿を持つカラーズちゃんにかしずかれる。
カラーズのひとり、スカーレットちゃんに抱っこされたヒビキが「だぁ!」と喜んでいる。うむ可愛い。
とりあえず、私の報酬はあの笑顔を見られたことでいっか……。
「主様。特別戦が華々しく終わったからといって、あまり気を抜きすぎてはダメですよ」
「……アレは華々しく終わったと言えるの?」
「少し休憩したらまた出番ですよ。個人戦、集団戦、それぞれのラストを飾って頂きます」
「あのさ。いくらなんでもルール改変が甚だしくない? 真面目に参加してる人に失礼でしょう」
「そうでもないみたいですよ」
ディル君が言うには、特別戦の活躍――活躍?――に参加者たちは軒並み強く感じ入り、私と対峙することを至高のご褒美と考えるようになったらしい。
なにそれ怖い。
「これは、神殿都市レギエーラに新たな宗派が誕生しましたね。最初の布教もバッチリです」
「なにそれ怖い」
「すでにお布施の申し込みも殺到しているとか。いかがでしょう。俺たちは生活に困ることがないので、お布施はすべてレギエーラに寄付するというのは。不本意にも壊してしまった建物等の修復に当てられますし」
「珍しくまともな意見。良いと思うよ。むしろ、そうした方が私も気が楽だし」
「ですよね。俺としてはもうすでに十分すぎるほど主様の面白シーンを堪能できましたので、人間の一生なんざ目じゃないくらいの報酬をいただいたようなモンです」
「私と人々に謝れ」
多方面にトゲがあるぞその台詞。
やっぱり本音はそこだったか。油断ならない弟わんこめ。
――それにしても、どっと疲れた。
精神的疲労って奴なのかな。体力は残ってるのにぐったりするというか、気力が湧かないというか。
個人戦と集団戦。どうするかなあ。
ただ突っ立ってるだけ――って言っても、あの特別戦での様子を見るに、すごい勢いで突進してきそうだしなあ。
その気がないのに一方的に迫られるのは、なんか嫌だ。
でも、私そういうのを追っ払うの下手だからなあ。
「はあ……」
「聖女カナデよ。何を落ち込んでいるのだ」
「ん? いや、この後の戦いどうしようかなあって――」
はた……と口を閉ざす。
横を、見る。
テントの入口――から数歩左。本来窓なんかないテントの一部。
そこが真四角に切り取られて。
イケメン貧血男の顔が覗き込んでいた。
嘘だと思うだろ。綺麗な顔してるんだぜ。
「我が未来の伴侶よ。戦いのことならこの魔王パーレグズィギスゥトゥに任せたまえ。さあ、そなたの美しき魔力を今いちど我のもとに――」
――私の悲鳴とディル君の「取り押さえろ!」という怒号が重なった。
パーさん、もうちょっと穏便に登場して!
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