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【85】たちまち回れ右
しおりを挟むちなみに拒否権はなかった。
皆の嬉しそうな顔を見ていると、とても声高に拒否る雰囲気ではなかったのだ。
神様。私が何かしましたか?
「むしろ神様は積極的にやらかして欲しいと思っているのではないですか? 主様」
「やめろください。それと心を読むな」
「神様は俺と気が合いそうです」
ちくしょうめ。
むしろ逆に気合いが湧いてきたじゃないか。
こんな理不尽な存在に、私の女神、カナディア様を仕えさせるわけにはいかない。
聖女にでも何でもなって、カナディア様の御身をお救いするのだ。
首を洗って待っておけ。人をコケにする運命を用意した、悪逆非道の神よ。
「しかし聖女様ほど美しく凜々しいお方を表現するのは、並大抵の技術では不可能だろう」
「もっともだ。知己の芸術家でも、そこまでの技量はないだろう。それ以前に、畏れ多くて筆が乗らないはずだ」
「何か良い方法はないものか」
「おお、そうです、皆さん。良い方法があります。我が屋敷に、型取り用に特別な処置を施したスライムがいるのです。それで聖女様のお身体を写し取るというのは?」
「それはいい。聖女様のお力であれば、スライムごときに傷つけられるようなことはないだろうからな」
「そうだそうだ。聖女様ならスライムの中でもピンピンしているはずだ。あの方はきっと不要な呼吸などしないはずだからな」
「よし、そうと決まればさっそく準備だ」
――皆、もしかして本当は私のことキライですか?
――それとも神様、遠回しに怒ってますか?
脱力のあまり真っ白になった私の元に、アムルちゃんとディル君が来る。
「お姉様。大丈夫ですか?」
「主様。あまりご無理なさらず」
「アムルちゃん。ディル君。……空耳かな。この世のモノと思えない優しい言葉が聞こえたよ」
「空耳なんかじゃありません、お姉様。そのお召し物のまま、彼らの言いなりになって良いとは思えません。もっとばっちりキメてからことに臨むことを強く進言いたしますわ」
うん。心配の方向性が違ってたね。
「身体を張るばかりが芸の道ではありません、主様。たっぷり焦らすのです。そうすれば、事が成ったときの開放感、精神的高揚感は何にも代えがたくなる。そのときこそ、主様の名が永遠の伝説としてレギエーラの歴史書に刻まれるのです」
うん。とても説得力のある外道発言だね。
うん。そう。そうだね。うん。
――やればいいんでしょやってやんよこんちくちょうがあああああっ!!
悲しみと無力感に押しつぶされてブチ切れた私は、生きたまま全身型取りinスライムにその身を投じた。
そして誠に遺憾ながら、非常にスムーズに終了。
このときほど聖女のチートフィジカルを恨めしく思ったことはない。
――銅像は、間もなく完成。
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その銅像を目にした魔物は、たちまち回れ右したらしい。
私は現在、懺悔とともに頬を涙で濡らしている。
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