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【84】私は何もしていませんから
しおりを挟む考え直してくれた。
常識的なお父様で本当によかった。
……常識的。
ねえ。私、この単語の使い方間違えてないよね?
使いどころに激しい違和感を覚えるのだが。
というか、考え直すの当たり前じゃないかな? なんで私、ホッとしてるのかね?
――どうやら、危険な信仰酒はアムルちゃん母娘の独断で作った試作品だったらしい。
お母様は間もなく元に戻り、いつもの豪快さを見せてくれた。
酒蔵に迷惑をかけたおわびに、お酒ひと樽を即買いして、その場で飲み干してた。
もう二年くらい敬虔なお母様のままでも良かった気がした。
「ハハハ! この程度の飲酒、聖女様には遠く及びませんよ。ハッハッハ!」
「一緒にしないでください」
「でも事実でしょ」
「私は何も聞こえない」
卑怯にも現実逃避する私をよそに、酒蔵では商談が着々と進んでいたようだ。
心なしか、皆の顔が明るい。
一生に一度くらいの衝撃的な光景を一日に二度、目の当たりにしている割に、皆タフだね。
そのスルースキル、私にご教授願えませんか。
そろそろカナディア様への懺悔で一晩が終わりそうなんです。
――明るい顔には、ちゃんとワケがあった。
聞くところでは、私の名前を冠したお酒が、とある酒蔵同士のいざこざを解決するのに役立ったらしい。
以前からこの二つの酒蔵、似たお酒を出していて、どちらが本家か揉めていたそうだ。
今回、アムルちゃんのお父様の仲介で、私のお酒をそれぞれの酒蔵でアレンジし、売り出すことに決まった。長年の感情的なしこりを乗り越える象徴的な商品になって、酒蔵の担当者は心から感謝したそうだ。
まあ……誰かの役に立ったのなら、私がめちゃくちゃ振り回されたことも意味があるって納得できるかな。
カナディア様も、苦笑いしながら認めてくれるだろう。
商談に一区切りついたお父様が、にこにこ顔で言った。
「ありがとうございます、聖女様。あなた様のおかげで街の懸案がひとつ、解決できました」
「そんな、大げさですよ。私は何もしていません」
「ついては、聖女様の銅像を建てることになりましたので、ぜひご協力を」
「そんな! 大げさ! ですよ! 私は何もしていませんから! というか私が何をしたっていうの、この仕打ち!?」
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