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【74】酒造りの意義
しおりを挟むとにかく、この大きな施設が魔力で動かせるのはわかった。
ディル君が調べた――調べたと言えるのかなアレ――ところによると、必要なものは採取した素材と魔力と水。
ん? 水?
「ねえディル君。お酒造りに水が必要らしいけど、二十四時間ずっと魔法で水を生み出し続けるの?」
さすがにそれはキツい。というか普通に人間を辞めているレベル。
この辺りは山が多い。探せば沢くらいはあるかもしれないけど、そこから毎日汲み上げるわけにもいかないだろうし。どこかのかわいそうな下女さんになってしまう。
私はジト目でディル君を見た。
「まさか、私に水車のごとく二十四時間動く水汲み女になれとか言うんじゃないでしょうね」
「なるほどそれは面白いアイディアですね。さすが主様」
しまったやぶ蛇だった。
「しかし、残念ながらそのアイディアは却下です」
「残念ながらと言える神経に私は戦慄している」
ははは、と笑われた。
「水の用意とあわせて、工場稼働の監視もさすがに必要でしょう。そこで、彼女らカラーズの出番です」
『私たち、ですか?』
十二人がいっせいに自分を指差す。ディル君はうなずいた。
「彼女たちに、水を生み出す魔法を覚えてもらいます。いきなり主様のようにはいかないでしょうが、曲がりなりにも聖女の力をその身に宿しているのです。修練すれば、工場を回すくらいには水を生み出せるのではないでしょうか」
「なるほど……」
「加えて、十二人で意識を共有可能。交代で仕事をするにはうってつけです」
確かに、ディル君の言うことには一理ある。
無線や携帯なんてなくても報連相が完璧にできるのなら、これ以上適任はいない。
感心していると、ディル君が私の肩を叩いた。
「それでは主様。彼女たちに水魔法を教えてあげてください」
「え? 私?」
「当然でしょう。主様の魔力なんですから」
ついでに、とディル君は口を開く。
「いい機会です。忠実な部下たるカラーズに、この酒造りの意義をしっかりとお伝えになるのがよろしいかと」
酒造りの意義、かあ。
ん? 意義?
そういえば私、何で自分の城で酒造りしようとしてるの?
レギエーラでアムルちゃんたちが頑張ってくれてるんじゃなかったっけ?
というか、この工場、必要?
ディル君を見る。
弟わんこは満面の笑みでガスマスクをぷらぷら揺らしている。
「さあ、主様!」
おのれ謀ったな!
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