聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
55 / 118

【55】狼藉は、この私が許さないっ!

しおりを挟む

 ぐおおおおぉぉぉああああっ!!

「わあああっ!?」

 こちらが身構える前に襲いかかってきたゴブリン(大)に、悲鳴を上げて逃げ出した。
 すぐにうかつさに気づく。
 部屋の外に出て扉ごと封印すれば良かったのに、わざわざ部屋の隅に走ってしまったのだ。

 唾を飲み込む。
 目の前の敵を見る。
 体長2メートルくらい。痩せているものの大剣を片手で操る力は本物。剣の力か、それともゴブリン(大)の能力か、全身に炎をまとっている。

 ヤバい匂いがプンプンする。っていうか熱っ! 火の粉が来る! 髪が焼ける!

「――なんてことが考えられるくらいには、修羅場に慣れてきたきたってことかな。私も。ははっ……」

 さてどうする。
 この至近距離で、しかも一対一の状況では、のんきに踊りを踊っている余裕はなさそうだ。

 私は近くに落ちていた棒を拾い、構えた。切れ味良さそうな――っていうか、見た目からして『主人公の準最強装備』的なオーラを放つ格好いい大剣に対して、まったく心許ないが……ないよりマシ。
 あとは私の、カナディア様から受け継いだこの身の力を信じるしかない。

 思い出そう。
 稲を踏みつけたイノシシに対してかました遠隔スープレックス。
 アムルちゃんに不貞を働こうとしたアルマジロもどきに対してかました魔力入りの張り手。
 レギエーラを襲った炎の巨人に対して放った浄化の魔法。

 ――正直、最後以外は思い出したくない光景だったが、それでも敵を打ち倒したのは本当なのだ。私の身体には力がある。

 だから。
 今度だって。

「ここはカナディア様のための城。そして今は、私の城で、私の空間」

 木の棒を杖のように構え、魔力を放出する。
 イノシシを撃退したときのように、動きを止めて、そして制圧する――!

「狼藉は、この私が許さないっ!!」

 棒から放たれた魔力がゴブリン(大)を絡め取る――前に。

 頭上から突如飛来したデカい何かが魔物を圧殺した。
 轟音。砂埃。
 消え去る炎と熱。消え去ったゴブリン(大)の声。

 ――は?

 ややあって砂埃が晴れると、ゴブリン(大)が立っていたところに巨大な岩が鎮座していた。

 しゅーっていってる。
 何かところどころ紫色に光ってる。この岩。

 上を見る。
 天井には大きな穴が空いていて、パラパラと小石が落ちていた。

 ――は?

 私は手元を見た。
 ふっつーの木の棒に見えるそれを、確かめるように、振る。

 轟音。砂埃。
 岩がもう一個積み上がりました。

「――は!!?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...