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【38】当然では?
しおりを挟むと、とにかく!
アムルちゃんは無事(肉体的)だった! 急いで皆さんのところに送り届けよう。
たぶん、少し休めば落ち着くはずだ。
そうすれば最悪、夢だと思って忘れてくれるかもしれない。
きっとそうだよ。そうに違いない。だって私だったらそうするし!
だ、だから早急にこの場を離脱して――。
「うう……ん」
ディル君の背中で身じろぎする音。
「あ、起きますねアムルお嬢」
「早いよ!」
「よかったですね主様。思ったよりすぐに戻ってきてくれましたよ」
「ええほんとに!」
まさかわざと言ってるんじゃあるまいな、この弟わんこ。
間を置かずアムルちゃんが上半身を起こす。
「お姉様……? わたくし、いったい……」
「アムルちゃん。大丈夫? できれば私だけを見てお話ししよう」
「わあ、嬉しいですわ」
ほわんと笑うアムルちゃん。
胸が痛い。精神的に吐血しそう。
「そうですわ。お姉様が助けて下さったのですよね。本当に、ありがとうございます。それから――」
アムルちゃんは自然な仕草でディル君の背中を撫で、それから今も頭上からこちらをうかがっているチート城に頭を下げた。
「おふたりにも感謝申し上げますわ。おかげで命拾いできました」
ディル君は狼形態のままうんうんとうなずく。
チート城は照れたように足踏みをする。(また地形が変わった)
口をあんぐりと空けたままの私に気づき、アムルちゃんは可愛らしく小首を傾げた。
「お姉様、どうなさったのです? あまりお口を開けたままだと、砂埃で喉をやられてしまいますわ」
「いやなんで――ごほっごほっ!」
まさに忠告通りの状況になり、私は涙目になった。アムルちゃんの手とディル君の尻尾が私の背中を撫でる。
別の意味で泣きそう。
「アムルちゃん……このふたり(?)を見ても驚かないの?」
「え? だってお姉様の従者の方なのですよね?」
「でもさっきは気を失って」
「お恥ずかしい。寝不足で貧血を起こしてしまいまして。お姉様のお顔を見てホッとしてしまったのですね」
むしろなんというタフ。
「……こんな大きな城が歩くなんてあり得ない、って思わなかった?」
「え? お姉様のお力なら当然では?」
疑問の欠片も感じられない澄み切った瞳だった。
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