聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

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【35】その必要はない

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 レギエーラの外に出ると、ディル君は狼モードに変身。私はその背中に飛び乗った。
 弾かれたように加速する。いつも通るショートカットの岩場ではなく、人が通れそうな道をたどる。

 ……さっきディル君が言ってたことは気になるけど、とにかく今は急がなきゃ。

「主様。見えました。アレですね」
「うん。私も見えた」

 崖の上に立ち止まり、私たちは目を凝らす。
 視線の先では、五、六人の人影が隊列を組んで歩いている。その真ん中に、ふらふらと覚束ない足取りの女の子がいた。
 アムルちゃんだ。

「どうやら、魔法か薬で操られているようですね。どうりで争った形跡がないわけだ」
「ひどい。あんな可愛い子になんてことを……!」

 私はキッと誘拐犯たちを睨みつけた。

「行くよ。ディル君」
「仰せのままに」

 崖からジャンプ。
 あっという間に誘拐犯たちの前に出る。

 突然上空から現れた私たちに、誘拐犯たちは動揺したようだ。私は怒りをこめて叫ぶ。

「その子を解放しなさい! この犯罪者!」
「な、なんだ? でかい獣に……女? いつから付けてやがった」
「御託はいいから、さっさとその子を返せ!」

 ざわめく誘拐犯たち。

 ――よく見れば、全員武装している。当たり前だよね。犯罪者だもの。
 きっと人を傷つけ慣れているんだろうな。
 殺すのも、躊躇わないくらいに。

 怖ぇ。あはは、怖ぇ……!

 先頭に立つ男が一歩、前に出た。その余裕の態度が癪に障る。

「勇敢なお嬢さん。我々は崇高な目的のためにここまで来た。犯罪者とは心外だ」
「ふざけたこと言わないで」
「ふざけてなどいない。大真面目だ。目的達成のためには何でもするくらいに、な」

 直後、アムルちゃんの後ろに立っていた女の人が、抜き身の剣を突きつけた。アムルちゃんの首筋に。
 アムルちゃんの瞳からは光が消えていて、抵抗する様子がない。

「さあ勇敢なお嬢さん。あなたの可愛い踊り子を助けたいなら協力して貰おう。我々より数段早くここまで来れた君たちだ。我らの望む場所を知っているのだろう? 案内して貰おうか」

 ――全身に鳥肌が立った気がした。これは怒りだ。
 アムルちゃんを辱めるだけではなく、私たちの家に土足で上がり込むつもりか、こいつらは。
 あのチート城に一歩でも足を踏み入れたなら、即座にミンチにしてやるものを……!

「お嬢さん、あいにく我らは気が短い。――さっさと城まで連れて行け」
「その必要はない」

 ディル君が言った。私もうなずいた。

「ここで私たちが止める!」
「あ、そうじゃなくて主様」

 そうじゃないのかよ。

「面倒じゃないですか。この程度の人間どもを『城まで連れて行く』なんて」
「だから!?」
「城に来て貰いましょう」

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