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【33】主様、ストップ
しおりを挟むとりあえず、街の様子を確認がてらギルド本部へ向かった。
幸い、大きな混乱も被害も見当たらない。街全体が少しざわついている以外は、今のところ昨日と変わらないようだ。
よかった……。これもディル君が早めに気づいて、すぐに駆けつけられたおかげだ。
後で頭を撫でてあげよう。狼の姿に戻ってもらって――。
「俺は人の姿のままでも構いませんよ、主様?」
「さてはおぬし、心が読めるのではあるまいな?」
主様は顔に出やすいんですと言い返された。反論できない。
ギルド本部に到着。
……あれ?
昨日みたいな大騒ぎはなかったが、昨日よりも緊張感が張り詰めている。
なにごと?
「ああ、カナデのお嬢さんたち! ちょうどいいところに」
アムルちゃんお付きの冒険者さんが、私たちに気づいて駆け寄ってきた。さっきまでカウンターで係の人と真剣に話をしていたので、ただ事ではなさそうだ。
なにが起こった?
それに、あれ? アムルちゃんは?
私の中でざわりと不安が鎌首をもたげる。
冒険者さんは言った。
「お嬢が誘拐された」
「……え」
「朝には部屋からいなくなっていた。荒らされた形跡はなかったが、お嬢の装備一式、部屋から消えていた」
「で、でもそれだけで誘拐だなんて。もしかしたら一人で依頼をこなそうとしたとか……? 褒められたことではないと思うけど……」
歯切れの悪い私の言葉に、冒険者さんは瞑目した。
ポケットから手のひらほどの大きさのアクセサリーを取り出す。毒々しい血の色に染まった、剣を模したアクセサリー。
「ベッドの上に置かれていた。こいつは反教会派武闘組織のシンボル。聖女様を否定し、この世から教会全てを抹消しようとするイカれた大馬鹿野郎どもの集まりだ。こいつが残されていたってことは……」
ふいに、私の脳裏にアムルちゃんの踊りが蘇った。
美しく、儚げで、神々しい祈りの踊り――。
「お嬢を誘拐し、その力で魔物の封印を解かせようとしている。お嬢は由緒正しき教会の血筋。人質かつ、封印解除の生け贄にするつもりだ」
「――主様、ストップ」
ディル君の手が私の握り拳を包む。私は震える声でお礼を言った。
「ありがとディル君。止めてくれなきゃ、正直抑えられなかった」
「お手柄ですね俺。撫でてもらっていいんですよ?」
「後でね」
私は冒険者さんに向き直った。
「誘拐犯は……アムルちゃんは、今どこにいますか?」
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