聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
33 / 118

【33】主様、ストップ

しおりを挟む

 とりあえず、街の様子を確認がてらギルド本部へ向かった。
 幸い、大きな混乱も被害も見当たらない。街全体が少しざわついている以外は、今のところ昨日と変わらないようだ。

 よかった……。これもディル君が早めに気づいて、すぐに駆けつけられたおかげだ。
 後で頭を撫でてあげよう。狼の姿に戻ってもらって――。

「俺は人の姿のままでも構いませんよ、主様?」
「さてはおぬし、心が読めるのではあるまいな?」

 主様は顔に出やすいんですと言い返された。反論できない。

 ギルド本部に到着。
 ……あれ?
 昨日みたいな大騒ぎはなかったが、昨日よりも緊張感が張り詰めている。
 なにごと?

「ああ、カナデのお嬢さんたち! ちょうどいいところに」

 アムルちゃんお付きの冒険者さんが、私たちに気づいて駆け寄ってきた。さっきまでカウンターで係の人と真剣に話をしていたので、ただ事ではなさそうだ。
 なにが起こった?
 それに、あれ? アムルちゃんは?
 私の中でざわりと不安が鎌首をもたげる。

 冒険者さんは言った。

「お嬢が誘拐された」
「……え」
「朝には部屋からいなくなっていた。荒らされた形跡はなかったが、お嬢の装備一式、部屋から消えていた」
「で、でもそれだけで誘拐だなんて。もしかしたら一人で依頼をこなそうとしたとか……? 褒められたことではないと思うけど……」

 歯切れの悪い私の言葉に、冒険者さんは瞑目した。
 ポケットから手のひらほどの大きさのアクセサリーを取り出す。毒々しい血の色に染まった、剣を模したアクセサリー。

「ベッドの上に置かれていた。こいつは反教会派武闘組織のシンボル。聖女様を否定し、この世から教会全てを抹消しようとするイカれた大馬鹿野郎どもの集まりだ。こいつが残されていたってことは……」

 ふいに、私の脳裏にアムルちゃんの踊りが蘇った。
 美しく、儚げで、神々しい祈りの踊り――。

「お嬢を誘拐し、その力で魔物の封印を解かせようとしている。お嬢は由緒正しき教会の血筋。人質かつ、封印解除の生け贄にするつもりだ」
「――主様、ストップ」

 ディル君の手が私の握り拳を包む。私は震える声でお礼を言った。

「ありがとディル君。止めてくれなきゃ、正直抑えられなかった」
「お手柄ですね俺。撫でてもらっていいんですよ?」
「後でね」

 私は冒険者さんに向き直った。

「誘拐犯は……アムルちゃんは、今どこにいますか?」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...