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【31】有言実行でぶっ飛ばす
しおりを挟む眠気も疲れも吹き飛ばして、私は城を発った。
月明かりだけの真っ暗闇。狼形態のディル君の高速機動。
日中の私なら半狂乱で叫んでいただろう。
「アムルちゃん。皆……! 急いでディル君!」
「かしこまりました」
ディル君の身体が光る。足下から光の帯がまっすぐ伸びていった。
まるで空中にできたリボンの道。
その上をディル君は駆ける。
――見えた。
暗闇が赤々とした光で退けられている。
レギエーラの手前。
巨大な、炎に包まれた巨人がゆっくりゆっくり街に近づいていた。
「不届き者がどこかの封印を解いたみたいですね」
ディル君が言った。
どうしますか――と目線で尋ねてくる。
レギエーラの街も襲撃に気づいているのか、城壁のあちこちでたいまつの光が揺れていた。
その光の、何て小さいことか。
「ディル君。こういうとき、カナディア様ならどうするかな」
「そうですね。少なくとも、決して見捨てないと思います。主様と同じように」
「違う。そうじゃない」
私はディル君の背中から降りた。
文字通り、炎の巨人を見下ろす。
「こういうとき、カナディア様はどうやってあいつをぶっ飛ばすか聞いてるの」
「それなら簡単です」
ディル君が人の姿になった。隣に立つ。
――私、どうしたんだろう。
すごく怒っているのに、すごく落ち着いている。
まるですぐ後ろで、カナディア様が背中を撫でてくれているみたいに。
私はディル君の指示のまま、ゆっくりと右手を挙げた。
心の中に浮かんでくるイメージのまま、身体が自然に動くまま――。
「ホーリー・ジャッジメント」
唱えた。
私は思った。そうか、これが正しい魔法の唱え方か。奇跡の正しい使い方か。
心と、身体と、意志がきちんと一致していないといけないんだね。
――私は学んだ。天空から降り注ぐ六本の光の柱が、炎の巨人を貫き消滅させていく様子を見つめながら、学んだ。
大地に六個の穴を残し、炎の巨人は数分で消し飛んだ。
大きく息を吐く。何度も、繰り返した。
有言実行でぶっ飛ばした。目的は達せられたのである。
けどまあ、何て言うかコレは――。
ディル君がひざまずく。
「お見事です。さすが大聖女を受け継がれたお方」
「うん」
踵を返す。
「それじゃあ――帰ろう。急いで帰ろう」
「あ。冷静になってやばいことしたなあ自分、とか思ってます?」
「小心者で悪い!?」
あっはっはと笑うディル君を促し、私は城へと戻った。
明日、改めて様子を見に行こう。そうしよう。
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