聖女の死後は引き受けた ~転生した私、新米女神の生前の身体でこっそり生きる~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
21 / 118

【21】お仕事ご苦労様です

しおりを挟む

 ――と、いうわけで。街に突入です。

 あ、いちおうカムフラージュで、私もディル君もフード付きローブをすっぽりと被っている。
 カナディア様は生前、聖女だったので、念のため。
 右も左もわからない街の中で騒ぎにはなりたくない。

 ……まあ、中身が私なので、いらぬ心配だと思うけど。聖女らしさ、ゼロだもんね……。

 大きな城壁に設けられた入口にさしかかる。
 すると、詰め所から数人の男の人たちが出てきた。たぶん衛兵さん。
 私たちの行く手を遮る。

「許可証を」

 あ、詰んだ。

「あの……私たち、旅の者で。道に迷ってさまよっていたら、大きな城壁が見えたので、何とかここまで来たんです」

 できるだけゆっくりとした口調で話そうとしたが、頭の中はパニックだった。
 何とかしなきゃと気ばかり焦る。

 そのとき、ディル君が一歩前に出た。自分の懐に手をやる。
 ――まさかヤル気かお前。

「ちょ、ディル君、ストッ――」
「これで証になるか?」

 いつもとは違う威厳を感じる口調で、ディル君が小さなアクセサリーを取り出して見せた。
 後ろからちらりと見えたそれは、何の変哲もない小さな十字架のペンダント。特に変わった装飾が施されているわけでもない。

 ペンダントを見た衛兵さんたちは、お互いに顔を見合わせた。

「ふたりとも。詰所に来るんだ」

 あ、今度こそ詰んだ。
 衛兵さんたちに連れられ、とぼとぼと歩く私。
 一方のディル君は不思議そうだ。

「主様? どうなさったので?」
「どうしたもこうしたもないよ……ああ、いきなり逮捕だあ。監禁だあ……!」
「よくわかりませんが、やっぱりめっちゃんこにすればいいですか? 気の良い人間だと思うのですが」
「めっちゃんこはダメ……って、え? 今、何て言った?」

 そうこうしているうちに詰所の中へ入るよう促された。
 衛兵さんたちは私たちを長椅子に座らせると、飲み物を出してくれた。わざわざ湯を沸かしてまで。
 カップの中身はカフェオレのような見た目。甘い匂いで、口に含むと思わず「ほう……」と声が漏れた。これはいいものだ。

 衛兵さんのひとりが言った。

「ようこそ、神殿都市レギエーラへ。ここまで大変だっただろう」
「……へ?」
「最近は巡礼者もめっきり減った。君たちは勇気がある人たちだ」

 ――ディル君が見せたアクセサリー。あれは巡礼者を表すものだったらしい。

 私たちを心から気遣い、歓迎してくれる衛兵さんたちに、私は目をつむった。

「ディル君」
「はい」
「私を一発ぶんなぐって」
「運動ですか? 詰所が吹っ飛びますが大丈夫です?」
「やっぱナシで」

 首を傾げる衛兵さんたちに、私は深く頭を下げた。

 お仕事ご苦労様です……。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

処理中です...