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【18】いーち、にーい、さーん
しおりを挟む現代日本ならまず間違いなく一面ニュース間違いなしの、異常なデカさの『小さなイノシシ』が赤い目をギラギラさせて前脚をガッシガッシと動かしている。
日本語で考えるだけでも頭が沸騰しそう。
ディル君がぽん、と手を叩く。
「こっち食べますか?」
「それ以前の問題だね!?」
私の方は完全にテンパっていた。
リアルのパワフル野生動物なんて、日本じゃ見たことがない。
いくら聖女様の身体がチートだとしても、この化け物相手に立ち向かうメンタルがまずゼロだ。
完全に呑まれて、声も出せずに震えている私を見て、ディル君も考えを変えたようだ。いつもはニコニコの表情が、一本の針のようにスッと鋭くなる。
そのとき――。
さあっと、暢気なほどに爽やかな風が吹き抜けた。
生長した稲がいっせいにさああああっと揺れて音を立てる。
そこへ、巨大イノシシが足を踏み入れた。
端っこの苗が、くたりと倒れる。
イノシシはその場で足踏みした。そのたびに田んぼの泥が跳ねる。稲が揺れる。
田んぼの泥、が――。稲、が――。
――ぷつん。
「私たちの田んぼを荒らすなこのやろおおおおおっ!!」
キレた私の叫びとともに、魔力がぶわりと溢れる。
立ち止まったイノシシに魔力がまとわりつくと、空中にすごい勢いで持ち上げた。
そのままきりもみ回転させながら田んぼから離れた地面に加速墜落。
頭から地面にめりこんだイノシシが、くったりと後ろ足を投げ出した。
見事なまでの投げ(てないけど)技。
漫画でしかあり得ないような光景。
え。あれ……私?
私が、このイノシシを倒したの? 魔力だけで?
え、嘘。マジで? 本当に?
私が、こんな化け物を――ん?
「いーち、にーい、さーん――」
尻尾パタパタさせながら、楽しそうにディル君がカウントしていた。おいやめろ。
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