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新時代

86 対面と体面(6)

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 ……あれ? なんだろう・・・このピリピリとした緊張感は?

「聖人ホワイト様、バラス教会長のシドでございます。遥か聖地マーヤから救援隊を率いて救済に来ていただき、本当にありがとうございます。
 聖人エレル様のご指示で、城郭内から昨日信者を連れ避難いたしました。
 お陰さまで生きながらえることができました。
 この場に居るのは、天を信じ、聖人様を敬っている者ばかりでございます」

 聖人専用馬車を降りるとバラス教会長が待っていて、凄くかしこまった感じで挨拶をし、避難していた住民の多くは平伏して私を迎えてくれた。

 ……あぁぁ、天を信じ、聖人様を敬っていると告げるのは、予言者である聖人エレルが教会の前庭でやったあれやこれやの影響かぁ。

 ……住民を怖がらせる目的じゃなかったけど、これなら救済活動の混乱も小さくて済みそうかなぁ。

「皆さん、立ってください。体調の悪い人は座っていても構いません。
 聖人エレル様によると、領主と王族、他の貴族も責任を果たさず、民を救済することを悪意で放棄し、全て教会に丸投げしたとか・・・なんと愚かな。
 神々は為政者のことを大層お怒りで、教会や聖人を攻撃した不敬者を決してお許しにはなりません。私も許すつもりはありません」

 私の話を黙って聞いている住民たちは、聖人エレルの名を聞き顔を強張らせ、まるで罰を下されるのを待つ者のように怯えている。
 私も許さないと厳しい表情で言った途端、皆の顔が絶望の色に染まっていく。

「ですが、この場に居る皆さんは、互いに協力し合い、困難な時でも勇気と思いやりを持ち、正義を行える人々だと分かります。
 神々も、正しき者たちを救いなさいと私に仰いました。
 とても辛い思いをしましたね。ミレル帝国側の被災地に先に向かって活動したので、来るのが遅れてしまったわ。みな、生きていてくれてありがとう」

 柔らかな春風が吹き、私の濃紫の髪を揺らしていく。
 今度は穏やかな話し方で、慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、ゆっくりと皆を見る。
 バッと顔を上げた人々は、優しく微笑む私を見て肩の力を抜いていく。

「そ、そんな勿体ないお言葉です」と誰かが言うと、他の者たちも顔を上げて涙を浮かべる。
 
「神々が私たちを救うようにと?」と、少しお年を召した女性が本当ですかって表情で私に問う。

「そうですよ。皆さんは助け合いの心を持つ優しき人たちですもの。
 これから復興までの長い時を、皆さんは懸命に生きていかねばなりません。
 困難に打ち勝つには、一人ではなく多くの者の力が必要です。
 例えケガをしていても、年を取っていても、できることは必ずあります。私は皆さんなら成し遂げられると信じています。
 さあ、できるとこを話し合い、協力して困難を乗り越えましょう!」

 両掌を上に向け「さあ立って」と極上の笑顔を向け、皆に立ち上がるよう促す。

 ……たくさん読んだ本が役立ったわ。私も小説家の端くれ、人々を鼓舞する台詞の一つや二つ、しっかり頭の中に入っているわよ。

 ……少しは神々しい感じでやれたかな? 希望を持ってくれたかな? 
 ……私、怖くなかったよね?



 教会関係者と住民代表数人、聖マーヤ救援隊の代表者を交えて、現状の確認と救済できることを話し合う。
 聖マーヤ救援隊ができることは、仮設小屋の設置とケガ人の治療。
 食料は子供の分くらいしか残っていないので、食材の調達が必要だ。

 調査班の半分は、住民と3台の荷馬車で近隣の村や町に行って食料を調達すると決まった。
 調達責任者は、小麦を喜捨してくれたという商人のナッツルさんに頼んだ。

 総合学科班は、崩れた外壁の石材等を集めて、得意の簡易建物を建てる。
 素材は原初能力学部のカーセ教授が収納バック(大)に入れて運ぶので、使えそうなモノは遠慮なく全てゲットする。

 本部班は、教会と協力して避難民の名簿を作ったり、今回の地震について学ぶ機会を与える。主に年配者や女性や子供に向けた勉強会だ。
 今回の地震は、ミレル大河地震と名付けられたことや、ミレル帝国側の被害状況、ミレル大河決壊現場での工事状況等を、分かり易く解説する。

 何もすることがないと、精神的に落ち込んだり不安になったりするので、勉強会は意外と有効だと思う。
 行儀よくできた子供には、美味しい飴をあげると約束したので、暴れたり騒ぐ子はいなかった。学都を出る前に、店で大量購入しておいて良かった。

 医療班の様子を見に行くと、ケガ人の多くは倒壊した建物から逃げる時や、人命救助しようとした時に負ったものだった。
 この時代、軍手とか防刃手袋とかジャッキとか無いもんなぁ。よし今度作ろう!
 大ケガで寝かされている者の多くは、倒れてきたモノに当たったり体を挟まれたことが原因のようで、手足の骨折や頭部のケガを負った者たちだった。

「マシロ様、白布が足りません。腕の骨折を釣る三角巾があれば、頭のケガにも応用できるのですが・・・」

 医療班の責任者でもあるバード教授が、清潔な布が足らないと困った顔で報告してきた。

「あっ、ごめん忘れてた。私、結構な量のシーツと布団を空間収納に入れてたわ」

「はっ? ミレル帝国で救済している時は、お持ちではなかったですよね? いったい何処で調達されたのですか?」

 バード教授は、怪訝そうな表情で私を見て質問する。

「フフフ、秘密なんだけど、ミレル大河に突き落とされた時にこっちに転移したでしょう。その時にね、公爵の屋敷に様子を見に行ったんだよね。
 そしたら門前で、助けを求める住民に兵士が剣を向けて追い払っていたのよ。
 ちょっとばかし頭に来たもんだから、余震で崩れそうな迎賓館の中に転移でお邪魔して、客室の寝具をたくさん頂いてきたの。
 倒壊して使えなくなるのは勿体ないでしょう?」

「頂いて? それは盗んだという・・・いえ、迎賓館は天の怒りで崩れたそうですから、慧眼でした。ささ、早く出してくださいマシロ様」

 私の破天荒ぶりをよく知っている教授は、一瞬眉を寄せたけど、直ぐに満面の笑みで寝具を出す場所に私を引っ張っていく。


「ご報告します! マシロ様、国王の救援隊が間もなく到着します」

 近隣の被害確認に出掛けた調査班の1人が、大声で国王の到着を告げた。 
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