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大厄災

74 救援隊出動(1)

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 講義を中断し、私は震源地の特定を急ぐ。
 講義を受けていたミレル帝国とマセール王国の学生を呼んで、私が視た光景から被災地を探し、救援隊に参加する予定の医学部の教授と講師には、救援隊出動の準備を開始するよう指示を出す。

 震源地の特定をしながら窓から外の様子を確認すると、かなり揺れた気がしたものの被害らしい被害は出ていなかった。
 この大講堂は3階だから、上階の方が揺れが酷かったってことなのだろう。
 日本の震度でいくと震度4くらいかと思ったけど、階下での体感は震度3ってところみたい。

 それでも地震の揺れを経験したことがない者ばかりだったから、大騒ぎになっていることに変わりない。
 教会は緊急事態を知らせる鐘を鳴らし、住民に地震についての説明をしなければならない。その為に震源地の特定が必要だ、

「マシロ様、2つの見張り塔を備えた屋敷を持っているのは、マセール王国の東に位置するバラス公爵領です。
 バラス公爵領は、ミレル帝国の南に位置している町と、ミレル大河を挟んで向かい合っています」

 地図を指差しながらバラス公爵領の説明をするのは、先日私の命を救ってくれたマセール王国の王孫ミレアだ。
 彼女は王孫という立場もあり、国内全ての領地を見聞して回ったらしい。

「マシロ様、私はヨンド共和国の北西に位置する領地の出身です。
 うちの領地は西側をマセール王国、北側はミレル帝国と隣接しています。
 確か昨年の2月、隣接しているミレル帝国の侯爵領の北部の山で、山火事があったと記憶しています。この辺りの山です。
 もちろん国境線に在るのでミレル大河が流れていま・・・えっ、それでは私の故郷も・・・」

 医学部4年に在籍している彼は、マセール王国のミレアが指差した領地の、ミレル大河を挟んだ向かい側の領地を指さし、自分の実家も被災したのではないかと思い絶句した。

「地震が起きる場所について言えば、断層というものが大きく関係している可能性が高く、近い場所であっても断層が続いていなければ、大きな被害が出ていないこともあります。
 私が視たのは、川沿いの麦畑から、領主屋敷に向かって伸びる地割れです。

 そこから推察すると、今回の地震の断層は、東西に延びている可能性が高いでしょう。ですが、この東西に延びる断層に沿う、又は横切る南北に延びる断層があれば、誘発地震が起きる可能性も否定できません。
 この辺りを震源地とするならば、かなり離れた聖地マーヤまで揺れたということは、震度6~7に相当する大地震と考えて間違いないでしょう」

 私は黒板にミレル大河を中心とする簡単な地図を描き、マセール王国側に断層を書き込み、特定した震源地を赤いチョークで囲んでいく。

「これより、聖マーヤ救援隊の隊員は出動準備を始めてください。
 班長やリーダーは、持参する食料や物資を実習訓練通りに集めてください。
 1年生の参加は強制ではありません。どうしても春期休暇が必要な人は、班長に届け出てください。

 以前にも話しましたが、今回の参加者には全員、帰還後に私か賢者トマス様との個人面談の特典を差し上げます。
 勉学に対するアドバイス、自領の産業発展の助言、発明品のアドバイスなど、各国の王や大臣にも与えられない特典です。
 1人でも多くの参加を期待しています。さあ皆さん、出動です!」
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