深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

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三聖人

65 謁見(2)

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 溜息を吐いているうちに天聖ソワレ様が登場され、大聖堂内にいる全ての者が一斉に最上級の礼をとった。
 天聖ソワレ様は礼を解くと、参列者に向かって三聖人とは何かというテーマで話を始められた。

 聖人という存在自体が、既に記憶の片隅に引っ掛かっている程度で、教会のちょっと偉い人間くらいの認識しかなかった者は、聖人の役割や恩恵について知り、意識を改めたことだろう。
 なんだ意外と使える存在じゃん・・・なんて安易に考えほくそ笑んだ者たちに向かって天聖ソワレ様は、聖人に対して愚行を犯した国や王族が、どれだけ酷い神罰を受けたのかを話し、にっこりと笑って脅しをかけた。

 ……ああ怖い怖い。子供の私と違って年齢を重ねた分、あの笑顔は怖いわ。道理の分かる王は背筋を伸ばし、無能な王は他人事・・・ふふ、笑っちゃう。

 ソワレ様のスピーチが終了したと同時に、天井から一筋の光が突然降りてきて、聖人である私をほんの5秒ほど照らした。
 ほんの5秒でも、大聖堂内で起こった現象である。人々は息を呑み、信仰心の強い者には幻想的な光景に映っただろう。

 ソワレ様の話が終わると次は聖人認定式だが、ここで15分の休憩を挟む。
 休憩の前に、聖人ホワイト様は急な神の啓示を受けられ退席されますと司会者が告げた。
 ああ、あれは神の啓示を受けたことによる現象なのだと人々は思った。

 ……さすがトマス。リハーサル通りバッチリな演出だわ。


 退場した私は、天井裏から戻ってきたトマスと合流し、今度は【マーヤ・リー予言者】としてステージへと向かう。
 上半身を覆う紺色の聖布を頭からすっぽりと被り、顔も髪も見えないようにして、【マーヤ・リーデ先導者】より一段格上の神服に着替えている。

 マーヤ・リーデの神服は白地で、胸元に太陽と星が金糸で美しく刺繡してあるけど、マーヤ・リーの神服は、その上に濃紺の丈長のベストを着用する。
 濃紺の丈長のベストの左右には、胸の高さに太陽が、その下には沢山の星々が金糸で刺繡してあり、背面には天の川のような刺繡がしてある。

 ……天の川はソワレ様のご希望で刺繡したけど、天聖様より派手な気がするんだけどいいのかなぁ? 

 今日は聖布が上半身を覆っているから全ての刺繡は見えないけど、明りに照らされるとキラキラと眩しく輝き、三聖人の中でもマーヤ・リー予言者が特別な存在であると示していた。

 聖布で視界の悪い私は、トマスにエスコートされながらステージに上がる。
 先にトマスがマーヤ・ルーダ賢人に認定されるため前に出て、私は用意されていた聖人ホワイトの隣の席に座る。

「トマス・Ⅾ・ダイトンを、マーヤ・ルーダ賢人に任命し、聖人名をルーデルとする。神より与えられし使命を果たし、世界に新たな息吹を吹き込みなさい」

「はい天聖ソワレ様、マーヤ・ルーダ賢人としての使命を果たし、聖人ルーデルの名に恥じぬよう多くの学生を導き、産業を前進させると誓います」

 元々好青年で貴公子のようなトマスは、神服もよく似合うし声もいい。
 この場に若い娘さんたちが居たら、そこかしこで熱い息が漏れただろう。
 ちなみに聖人名のルーデルは、トマスの好きなアニメの主人公の名前だ。

 任命後トマスが列席者の方を向くと、全員が立ち上がり礼をとる。そして割れんばかりの拍手をして笑顔を向ける。
 この場に居る全ての者にとって、賢人は頼りになる存在であり、自国に富をもたらす可能性が高い存在だ。だから、心から歓迎していると思われる。

 ……さあ、次は私の番ね。天聖ソワレ様はどう説明されるのかしら・・・


「予言者の名は告げることができません。愚か者の行いにより、過去マーヤ・リー予言者は連れ去られ命の危機に曝されました。
 その愚かな国の王族は既に絶えましたが、この世界の危機や天変地異をお知らせくださる尊い予言者を、教会は守らねばなりません。
 2年前の怒りを鎮め、再び民のために予言を授けると慈悲を示されたマーヤ・リー、こちらへ」

 ……なるほど、そうきたか。

「見事に予言を的中させてきた貴女をマーヤ・リー予言者に任命し、聖人名エレルを授けます。多くの民を救うため、どうぞ予言をお与えください。
 聖人の証として初代から予言者が使ってこられた、聖なる杖を授けます」

 ……エレルって聖人名は、私が占い師として使っていた名前だ。それにしても、あんな杖とかあったんだ・・・

「はい天聖ソワレ様。マーヤ・リー予言者としての務めを果たし、多くの命を助け、災害を未然に防ぐ努力をいたします」

 初めて見る【聖なる杖】を、恭しく両手で頭上に頂きソワレ様に礼をとる。
 杖を両手で縦向きに持ち替え、ゆっくりとステージに下方を着けると、杖の先に装着されていた直径10センチくらいの水晶が、ピカーっと眩しく光った。

 ……ワッ眩しい。はて、こんな演出の予定ってあったっけ?

 眼前のソワレ様に視線を向けると、嬉しそうに微笑んでいて、光を見たセイントやセントは一斉に跪く。
 トマスは驚いた顔でこっちを見ているから、これはトマスの仕込みじゃないってことね。

 ……う~ん、この大陸に光の能力者は居ないから、参列者は驚きのあまりフリーズ状態。正気に戻ると直ぐに最上級の礼をとったり、中には跪く者までいる。

 ……あれ、頭の中に何か映像が流れ込んでくる・・・?

「来年前半に、多くの民が被災する大地の怒りが起こります。マセール王国とミレル帝国は、民を救うため食料や生活物資を備蓄しなさい。
 神は、民を救おうと努力する者をお救いになり、務めを果たさぬ者を、お許しにはならないでしょう」

 ……な、な、なにこれ! 勝手に言葉が・・・ええぇーっ?

 完全にパニックになりかけたけど、何とか深呼吸をして背筋を伸ばす。
 騒然とする参列者は無視して、何事もなかったかのように自分の席に戻って座ると、司会者が式典の終了を告げた。

 ……これって【聖なる杖】の力?
 ……今の映像と声は?・・・私って、ただの地球人よね? あ、あれ?
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