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三聖人

62 マセール王家

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 ◇◇ 国王ダグラス ◇◇

 あの可愛いかったミリアーノが聖人?
 聖地マーヤから帰った息子のイツキノが自分の娘だと断言したから、聖人は孫のミリアーノで間違いないだろう。
 瞳の色は珍しいブラックオパールに変わっていたらしいが、それは聖人としての能力に目覚めたからに違いない。

 ……苦労したであろう孫に会いたい。この手で抱きしめてやりたい。でもそのためには、真犯人を捕らえ信用を回復させねばならない。

 その上、今回使節団は、許しを請わねばならない聖人様に対し、とんでもない失態を犯し、天聖ソワレ様に二度とマセール王国の使節団を受け入れないと通告されてしまった。頭が痛い。
 襲撃のことを使節団メンバーに教えていなかったことが裏目に出たとは言え、何故、第三皇子の娘の可能性がある者の悪口を言うんだ!
 
 教会に対する謝意を表すためにも、使節団全員の階級と手当を下げた。
 責任者だったイツキノには、1か月間の停職処分を言い渡した。
 本心を言えば、使節団メンバーは全員免職にしたいくらいだ。

 使節団メンバーの失態のせいで、マセール王国は最先端の学びの機会を失ったが、それを公表してしまうと面倒な混乱や派閥争いにも繋がってしまう。
 平和が続いたことの弊害か、貴族たちの王家に対する態度は大きくなり、あれこれと権利を主張したり、堂々と意見するようになってきた。

 ……王族の威厳を取り戻すためにも、身内から引き締めねばならない。
 

 それにしても、王孫の命を狙う目的はいったい何だろう?
 王位継承権が高いわけでもない。あの頃は無いに等しいくらいだった。
 今であれば、聖人という尊い地位があるので、ミリアーノを担ぎ上げる勢力ができる可能性はある。
 しかしミリアーノは、既に死亡扱いで王族籍から抜けている。
 
 イツキノは、妃であったアヤカの義妹ディリーナを怪しんでいるようだが、裏社会など知らない公爵家の令嬢が、暗殺者を雇ったり依頼できるとは思えない。
 少し頭がおかしいと思う程のイツキノに対する執着行動は、様々な噂を呼んではいたが、血の繋がった姪を拉致して殺す必要もないし、そんなことをすればイツキノに嫌われる。

 結婚前に呼び出してみたが、甥が不憫だから母親が必要だと訴え、行方不明になっている義姉や姪のことは、もう諦めていると泣き崩れていた。
 あれが、あの涙が演技だとは思えない。
 叔母として甥のショーヤが心配だから、面会だけでも許可して欲しいと頭を下げていたくらいだ。

 念のため夫となったエパレ公爵家のトロイを、秘密裏に王宮に呼び出し様子を訊いてみた。
 するとあの娘は、家同士が決めた婚姻だから結婚はしたが、実質的な夫婦になる気はないとトロイを拒絶しているという。

「何故イツキノ様は再婚されないのでしょう?」

 私の問いに答えたトロイは、イツキノに対し未練タラタラな嫁の態度に、恨みがましい視線を向けて言った。あれはきっと本心だろう。

 
 本教会に捕えられている貴族は、確かにあの娘の実家であるアーレン公爵家に仕えている末端貴族だったが、アーレン公爵は身に覚えがないし、絶対に関わっていないと誓書まで書いた。
 そもそもアーレン公爵は、娘のアヤカと孫のミリアーノをとても可愛がっていたのだ。殺そうとするはずがない。

 捕えられている犯人には、結構な額の借金があったようなので、金で真犯人の依頼を受けてしまったのだろう。
 捕えられている犯人を、直接取り調べることができないのが痛い。
 教会には話せなくても、我々になら話すかもしれないと思うともどかしい。
 でも本教会は、口封じされる可能性があるからと面会の許可を出さない。 



 聖人襲撃について何の手掛かりも見付けられないまま、季節は春になった。
 本日は年3回ある王族食事会である。
 王族の威厳を取り戻すためにも、各自の能力や思考などをしっかり見極め、問題があれば国王として正さねばならない。

 今年はイツキノの息子ショーヤが12歳を迎え、聖地マーヤの原初能力学園に入園する。
 王太子妃の産んだ第一王子ヒルトラ20歳と、王太子の側室が産んだ第一王女ミレア19歳は、聖マーヤ高等大学を受験する。

「聖人ホワイト様は、身分に関係なく真摯に学ぶ者に知識をお与えになるが、身分を振りかざす王族や高位貴族に対しては、厳しい態度をとられると有名だ。
 皆も知っていると思うが、聖人ホワイト様は我が国の貴族に襲撃されたことがある。だから教会の者も、他国の者も、お前たちには厳しい目を向けるだろう」

 私は高等大学を受験するする2人に向かって、大国であることや王族だからと決して驕ってはならないと注意しておく。
 特にヒルトラ第一王子は、昨年受験に失敗しており、日頃の行いで多方面から注意を受けることもあるため心配だ。

「王様、ヒルトラは高等大学ではなく、我が国の原初能力専門研究所で学ばせたいと思います」

「王太子妃よ、将来王を目指すのなら高等大学を卒業していないと、他国の王族に下に見られるぞ。今年が無理なら来年受験しても良い」

 王太子妃なら、勉強が嫌いなヒルトラに対し厳しく指導すべきなのだが、アマリア妃は自分が着飾ってパーティーを開くことの方が忙しいようだ。

「王様、教会は我が国の王族を良く思っていないから、どんなに勉強しても合格できないと思います。
 噂では行方不明だったミリアーノが聖人だとか・・・それが本当なら私を特別待遇すべきなのに、フッ、まだ成人もしてない子供では力もないのでしょう」

 ……はあ? この王子は何を言っているのだ?

 私の長男でありヒルトラの父親でもある王太子に厳しい視線を向けると、両手で頭を抱え溜息を吐いている。

 ……お前はいったいどんな教育をしているのだ!

「義兄様、私は今年受験して、絶対に合格してみせます。王様、私が女王を目指してもいいですよね」

 深紅の髪をギュッと一つに束ねた炎持ちのミレアは、自信満々で義兄に喧嘩を売りながら、私に王を目指したいと明るく笑って言う。
 ミレアは勤勉で努力家、美しい顔をしているのに何故か男勝りだ。
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