58 / 107
公式訪問
58 ヨンド共和国(3)
しおりを挟む 地球人に会ってテンションの上がったトマスに、スピカは笑顔でお茶を淹れてくれる。この星にはコーヒーがないから、私の好きな紅茶だ。
食事もちゃんと喉を通っていなかったようなので、屋台で一通り美味しそうなものを買ってきてねとアステカに頼んだ。
ヨンド教会の教会長には、王宮にトマスが現れた時の様子を確認したいので、できるだけ高位の役職者と発見者を連れてきて欲しいと頼んだ。
つい先日、天聖ソワレ様は【マーヤ・ルーダ】が現れるという、新しいお告げがあったと言っていた。
トマスは、三聖人の中の賢人で間違いないと思う。
私が落ちてきた場所が、大国シュメル連合国に本店を置くオリエンテ商会の船上だったことと、保護した人物が商会長であったことには大きな意味がった。
そう考えたら、トマスが現れた場所にも必ず意味があると思う。
産業の発展を望むヨンド共和国には、一肌、いや、三肌くらい脱いでもらうのはアリじゃない? きっと脱いだ肌の三倍くらいは戻ってくるはずだから。
……この国の対応を見て、信用できると確信が持てたら、賢者を保護した国という名誉とか栄誉を与えてもいいかもしれない。
屋台の串焼きとレーズンを練り込んだパンを食べ、すっかり落ち着いた様子のトマスに、この星は地球じゃないってことから説明していくことにした。
途中、異世界転移を英語でなんて言うか分からなくて躓いた。
「転生はリボーン イン アナザー ワールドだった気がするんだけど……」って呟いていたら、「トランスファー?」みたいな感じの英語で訊いてきたので、取り敢えずソウソウって頷いておいた。
いやもう、手振り身振りで絵まで描いて説明したわよ。
画力はないけど単語が出てこないから、会話が途切れるよりまし。
これがラノベだったら、勝手に翻訳できたり話せたりするんだろうけど、同じ地球人で苦労するなんて、宇宙の管理者さん、もっと融通利かせて欲しいわ。
私は11年前に魂だけが転移してきたんだとイラストを描いて伝えたり、上司であるソワレさんは、トマスと同じように転移してきたんだと教えたりもした。
当然、もう帰れないと思うとも伝えた。
私は死んで魂になったけど、そのままの姿で転移した天聖ソワレ様は、船が沈んで転移してきた。トマスは飛行機が落ちて転移したらしい。
そしてトマスには、魂の選別をした記憶がなかった。
う~ん、亡くなる人が多すぎて、役立ちそうな人は転移でいいか・・・みたいになったのかもしれない。
トマスが飛行機事故に遭ったのは、私が死んだ7年後だった。
地球も変だったけど、太陽活動の影響が大きかったらしい。
……なんの説明もなく突然飛ばされたら、確かにパニックになるよね。
……いろいろ理不尽。宇宙の理って曖昧すぎない?
2時間後、ヨンド共和国の代表として国王の弟である国務大臣が、トマスを最初に発見したという息子を伴ってやって来た。
「やっぱりマシロ先生だ」と、開口一番嬉しそうに言ったのは、高等大学2年の経済学部に在籍している、ノイエンという名の首席学生だった。
彼は2年生の中でも特に熱心に私の講義を受けていて、質問もバンバンしてくるし、許可を取って原初能力研究所にも顔を出している。
……あちゃ~、この子も王族だったか。
「ほら父上、だから私が言ったでしょう。国王か宰相クラスが来るべきだって。マシロ先生なら、絶対にお忍びで視察されるって」
……ああ、この子って私のファンだったわ。2年も私の講義を受けてると、性格や行動まで読まれちゃうの?
……しかもこの子、【マシロ様を崇める会】とか作ってなかった?
聖人様の前で不敬な言動をし馴れ馴れしい態度を取っている息子に、父親である国務大臣は青い顔をして「不祥の息子で申し訳ありません」と平謝りする。
「マシロ先生は、出身国とか身分に全く興味がないんだ。
しかも、王族とか高位貴族が嫌いだって有名だから、私は絶対に王族だとバレないよう細心の注意を払って講義を受けているくらいだよ。
古い考えの威張った貴族のせいで、王族や高位貴族家の学生は肩身が狭い。だから、絶対に失礼な態度を取らないでよ!」
「バカ者、お前のその態度が失礼だと分からんのか!」
なんだろう、なんか親子漫才を見せられてる気分だよ。
言葉の通じないトマスなんて、ポカンと口を開けてるよ?
そう言えば、出席した学生会の会合で、滅茶苦茶怖いお姉さんが居て、鍛えに鍛えられて根性ついたから、私に叱られるのは怖くないって言ってた。
この子は、こういうキャラだったわ。
まあ私が40歳くらいだったら、こんな態度は取らないだろうけど、私って見た目は14歳の美少女だから、私のファン度が高いほどフレンドリーに接してくる。
講義中はバリバリの敬語だけど、それ以外の場所では、かわいい妹みたいに思われてるのかもしれない。そういう視線は、特に女子から向けられてる気がする。
「さて、本題に入りましょう」
私はそう言って、トマスが王宮で発見されたところから詳しく話を聞いていく。
ノイエン君は使者らしく姿勢を正すと、至極真面目に説明を開始した。
自分が王宮の池付近を散歩していた時、ドボンと大きな音がしたので注視すると、トマスが半分溺れかけていたのだという。
慌てて救出したまでは良かったが、全く言葉が通じず事情を聴くこともできなかった。所持品を持っていなかったので、身元の確認もできなかった。
翌日国王は王弟の助言で、見たこともないラピスラズリの瞳の持ち主であるトマスを、教会に預けて能力鑑定してもらうことに決めた。
「私は高等大学在学時に聖人伝記を読んだことがあります。聖人の多くは言葉が通じなかったと書てありました」
トマスを厄介払いした訳ではなく、能力鑑定をすれば身分が明らかになると思い、教会に託したのだと王弟は説明した。
食事もちゃんと喉を通っていなかったようなので、屋台で一通り美味しそうなものを買ってきてねとアステカに頼んだ。
ヨンド教会の教会長には、王宮にトマスが現れた時の様子を確認したいので、できるだけ高位の役職者と発見者を連れてきて欲しいと頼んだ。
つい先日、天聖ソワレ様は【マーヤ・ルーダ】が現れるという、新しいお告げがあったと言っていた。
トマスは、三聖人の中の賢人で間違いないと思う。
私が落ちてきた場所が、大国シュメル連合国に本店を置くオリエンテ商会の船上だったことと、保護した人物が商会長であったことには大きな意味がった。
そう考えたら、トマスが現れた場所にも必ず意味があると思う。
産業の発展を望むヨンド共和国には、一肌、いや、三肌くらい脱いでもらうのはアリじゃない? きっと脱いだ肌の三倍くらいは戻ってくるはずだから。
……この国の対応を見て、信用できると確信が持てたら、賢者を保護した国という名誉とか栄誉を与えてもいいかもしれない。
屋台の串焼きとレーズンを練り込んだパンを食べ、すっかり落ち着いた様子のトマスに、この星は地球じゃないってことから説明していくことにした。
途中、異世界転移を英語でなんて言うか分からなくて躓いた。
「転生はリボーン イン アナザー ワールドだった気がするんだけど……」って呟いていたら、「トランスファー?」みたいな感じの英語で訊いてきたので、取り敢えずソウソウって頷いておいた。
いやもう、手振り身振りで絵まで描いて説明したわよ。
画力はないけど単語が出てこないから、会話が途切れるよりまし。
これがラノベだったら、勝手に翻訳できたり話せたりするんだろうけど、同じ地球人で苦労するなんて、宇宙の管理者さん、もっと融通利かせて欲しいわ。
私は11年前に魂だけが転移してきたんだとイラストを描いて伝えたり、上司であるソワレさんは、トマスと同じように転移してきたんだと教えたりもした。
当然、もう帰れないと思うとも伝えた。
私は死んで魂になったけど、そのままの姿で転移した天聖ソワレ様は、船が沈んで転移してきた。トマスは飛行機が落ちて転移したらしい。
そしてトマスには、魂の選別をした記憶がなかった。
う~ん、亡くなる人が多すぎて、役立ちそうな人は転移でいいか・・・みたいになったのかもしれない。
トマスが飛行機事故に遭ったのは、私が死んだ7年後だった。
地球も変だったけど、太陽活動の影響が大きかったらしい。
……なんの説明もなく突然飛ばされたら、確かにパニックになるよね。
……いろいろ理不尽。宇宙の理って曖昧すぎない?
2時間後、ヨンド共和国の代表として国王の弟である国務大臣が、トマスを最初に発見したという息子を伴ってやって来た。
「やっぱりマシロ先生だ」と、開口一番嬉しそうに言ったのは、高等大学2年の経済学部に在籍している、ノイエンという名の首席学生だった。
彼は2年生の中でも特に熱心に私の講義を受けていて、質問もバンバンしてくるし、許可を取って原初能力研究所にも顔を出している。
……あちゃ~、この子も王族だったか。
「ほら父上、だから私が言ったでしょう。国王か宰相クラスが来るべきだって。マシロ先生なら、絶対にお忍びで視察されるって」
……ああ、この子って私のファンだったわ。2年も私の講義を受けてると、性格や行動まで読まれちゃうの?
……しかもこの子、【マシロ様を崇める会】とか作ってなかった?
聖人様の前で不敬な言動をし馴れ馴れしい態度を取っている息子に、父親である国務大臣は青い顔をして「不祥の息子で申し訳ありません」と平謝りする。
「マシロ先生は、出身国とか身分に全く興味がないんだ。
しかも、王族とか高位貴族が嫌いだって有名だから、私は絶対に王族だとバレないよう細心の注意を払って講義を受けているくらいだよ。
古い考えの威張った貴族のせいで、王族や高位貴族家の学生は肩身が狭い。だから、絶対に失礼な態度を取らないでよ!」
「バカ者、お前のその態度が失礼だと分からんのか!」
なんだろう、なんか親子漫才を見せられてる気分だよ。
言葉の通じないトマスなんて、ポカンと口を開けてるよ?
そう言えば、出席した学生会の会合で、滅茶苦茶怖いお姉さんが居て、鍛えに鍛えられて根性ついたから、私に叱られるのは怖くないって言ってた。
この子は、こういうキャラだったわ。
まあ私が40歳くらいだったら、こんな態度は取らないだろうけど、私って見た目は14歳の美少女だから、私のファン度が高いほどフレンドリーに接してくる。
講義中はバリバリの敬語だけど、それ以外の場所では、かわいい妹みたいに思われてるのかもしれない。そういう視線は、特に女子から向けられてる気がする。
「さて、本題に入りましょう」
私はそう言って、トマスが王宮で発見されたところから詳しく話を聞いていく。
ノイエン君は使者らしく姿勢を正すと、至極真面目に説明を開始した。
自分が王宮の池付近を散歩していた時、ドボンと大きな音がしたので注視すると、トマスが半分溺れかけていたのだという。
慌てて救出したまでは良かったが、全く言葉が通じず事情を聴くこともできなかった。所持品を持っていなかったので、身元の確認もできなかった。
翌日国王は王弟の助言で、見たこともないラピスラズリの瞳の持ち主であるトマスを、教会に預けて能力鑑定してもらうことに決めた。
「私は高等大学在学時に聖人伝記を読んだことがあります。聖人の多くは言葉が通じなかったと書てありました」
トマスを厄介払いした訳ではなく、能力鑑定をすれば身分が明らかになると思い、教会に託したのだと王弟は説明した。
6
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる