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公式訪問

58 ヨンド共和国(3)

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 地球人に会ってテンションの上がったトマスに、スピカは笑顔でお茶を淹れてくれる。この星にはコーヒーがないから、私の好きな紅茶だ。
 食事もちゃんと喉を通っていなかったようなので、屋台で一通り美味しそうなものを買ってきてねとアステカに頼んだ。

 ヨンド教会の教会長には、王宮にトマスが現れた時の様子を確認したいので、できるだけ高位の役職者と発見者を連れてきて欲しいと頼んだ。
 つい先日、天聖ソワレ様は【マーヤ・ルーダ賢人】が現れるという、新しいお告げがあったと言っていた。
 トマスは、三聖人の中の賢人で間違いないと思う。

 私が落ちてきた場所が、大国シュメル連合国に本店を置くオリエンテ商会の船上だったことと、保護した人物が商会長であったことには大きな意味がった。
 そう考えたら、トマスが現れた場所にも必ず意味があると思う。
 産業の発展を望むヨンド共和国には、一肌、いや、三肌くらい脱いでもらうのはアリじゃない? きっと脱いだ肌の三倍くらいは戻ってくるはずだから。
 
 ……この国の対応を見て、信用できると確信が持てたら、賢者を保護した国という名誉とか栄誉を与えてもいいかもしれない。


 屋台の串焼きとレーズンを練り込んだパンを食べ、すっかり落ち着いた様子のトマスに、この星は地球じゃないってことから説明していくことにした。
 途中、異世界転移を英語でなんて言うか分からなくて躓いた。

「転生はリボーン イン アナザー ワールドだった気がするんだけど……」って呟いていたら、「トランスファー?」みたいな感じの英語で訊いてきたので、取り敢えずソウソウって頷いておいた。

 いやもう、手振り身振りで絵まで描いて説明したわよ。
 画力はないけど単語が出てこないから、会話が途切れるよりまし。
 これがラノベだったら、勝手に翻訳できたり話せたりするんだろうけど、同じ地球人で苦労するなんて、宇宙の管理者さん、もっと融通利かせて欲しいわ。
 
 私は11年前に魂だけが転移してきたんだとイラストを描いて伝えたり、上司であるソワレさんは、トマスと同じように転移してきたんだと教えたりもした。
 当然、もう帰れないと思うとも伝えた。
 私は死んで魂になったけど、そのままの姿で転移した天聖ソワレ様は、船が沈んで転移してきた。トマスは飛行機が落ちて転移したらしい。

 そしてトマスには、魂の選別をした記憶がなかった。
 う~ん、亡くなる人が多すぎて、役立ちそうな人は転移でいいか・・・みたいになったのかもしれない。
 トマスが飛行機事故に遭ったのは、私が死んだ7年後だった。
 地球も変だったけど、太陽活動の影響が大きかったらしい。

 ……なんの説明もなく突然飛ばされたら、確かにパニックになるよね。
 ……いろいろ理不尽。宇宙の理って曖昧すぎない?



 2時間後、ヨンド共和国の代表として国王の弟である国務大臣が、トマスを最初に発見したという息子を伴ってやって来た。

「やっぱりマシロ先生だ」と、開口一番嬉しそうに言ったのは、高等大学2年の経済学部に在籍している、ノイエンという名の首席学生だった。
 彼は2年生の中でも特に熱心に私の講義を受けていて、質問もバンバンしてくるし、許可を取って原初能力研究所にも顔を出している。

 ……あちゃ~、この子も王族だったか。

「ほら父上、だから私が言ったでしょう。国王か宰相クラスが来るべきだって。マシロ先生なら、絶対にお忍びで視察されるって」

 ……ああ、この子って私のファンだったわ。2年も私の講義を受けてると、性格や行動まで読まれちゃうの?
 ……しかもこの子、【マシロ様を崇める会】とか作ってなかった?

 聖人様の前で不敬な言動をし馴れ馴れしい態度を取っている息子に、父親である国務大臣は青い顔をして「不祥の息子で申し訳ありません」と平謝りする。

「マシロ先生は、出身国とか身分に全く興味がないんだ。
 しかも、王族とか高位貴族が嫌いだって有名だから、私は絶対に王族だとバレないよう細心の注意を払って講義を受けているくらいだよ。
 古い考えの威張った貴族のせいで、王族や高位貴族家の学生は肩身が狭い。だから、絶対に失礼な態度を取らないでよ!」

「バカ者、お前のその態度が失礼だと分からんのか!」

 なんだろう、なんか親子漫才を見せられてる気分だよ。
 言葉の通じないトマスなんて、ポカンと口を開けてるよ?
 そう言えば、出席した学生会の会合で、滅茶苦茶怖いお姉さんが居て、鍛えに鍛えられて根性ついたから、私に叱られるのは怖くないって言ってた。
 この子は、こういうキャラだったわ。

 まあ私が40歳くらいだったら、こんな態度は取らないだろうけど、私って見た目は14歳の美少女だから、私のファン度が高いほどフレンドリーに接してくる。
 講義中はバリバリの敬語だけど、それ以外の場所では、かわいい妹みたいに思われてるのかもしれない。そういう視線は、特に女子から向けられてる気がする。


「さて、本題に入りましょう」

 私はそう言って、トマスが王宮で発見されたところから詳しく話を聞いていく。

 ノイエン君は使者らしく姿勢を正すと、至極真面目に説明を開始した。
 自分が王宮の池付近を散歩していた時、ドボンと大きな音がしたので注視すると、トマスが半分溺れかけていたのだという。
 慌てて救出したまでは良かったが、全く言葉が通じず事情を聴くこともできなかった。所持品を持っていなかったので、身元の確認もできなかった。

 翌日国王は王弟の助言で、見たこともないラピスラズリの瞳の持ち主であるトマスを、教会に預けて能力鑑定してもらうことに決めた。

「私は高等大学在学時に聖人伝記を読んだことがあります。聖人の多くは言葉が通じなかったと書てありました」

 トマスを厄介払いした訳ではなく、能力鑑定をすれば身分が明らかになると思い、教会に託したのだと王弟は説明した。
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