深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

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公式訪問

53 プクマ王国(2)

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 如何にも悪役、如何にもバカ貴族まる出しって……プクマ王国ってみんなこんな感じ?
 いや、院長である男爵は、倒れる前まで補助金満額と自分のお金も使ってこの孤児院を運営していた善人だって聞いたわ。

「いただいた運営費では、とても子供たちの服を買うお金などありません。床の修繕費の支払いも、なんとか来月まで待ってもらっているくらいなんです」

 副院長は現状を全く理解していない目の前の男に、できるだけ穏やかな口調で説明する。

「なんだとババア、もう金が無いと言うのか! 10日前に金を渡しただろうが」

「はい、今回は先月よりも少なかったので、食事も1日1回にしています。
 どうかお願いです。せめて補助金だけでも満額ください。町の清掃や雑用をして子供たちも働いていますが、このままでは病気になってしまいます」

「うるさい! 服が無いなら全員を王都の外に働きに行かせろ! いいな、明後日は絶対に夜まで誰も帰すんじゃないぞ。
 いや待て、働いても働いてもお金が足らないので、補助金を増やして欲しいと陳情するチャンスかぁ? へへ、赤ん坊は残しておけ。
 ん? お前たちは誰だ、ここで何をしている!」

 やっと私たちに気付いたようで、ギロリと睨んで怒鳴った。
 心の声ならまだしも、声に出して悪だくみを話すとは呆れるというよりバカ過ぎて驚いちゃった。

「私たちは心ばかりの寄付をしに来た者です」

 感情を一切表に出さず、スピカは冷静に答えて少しだけ頭を下げた。

「寄付? そうか、俺はここの責任者だ。寄付なら俺が受け取る。さあ出せ」

 男は下卑た笑みを浮かべ、図々しくスピカの前に手を差し出した。
 希望の光を瞳に灯していた副院長だったけど、この世の終わりのような顔で男の手を見てガクリと肩を落とした。

「私たちが寄付をするのはお金ではなく、子供が遊ぶおもちゃです。それにお金があったら食材を買って持ってきますわ」

「チッ、役に立たねーな。おいババア、明後日は絶対に子供を残すなよ」

 寄付をしにきた私たちに感謝の言葉もなく、悪態をついて男は去っていった。

 ……忘れないうちに今の会話をメモしなきゃ。

 えっ、あれは男爵の甥で息子じゃない? 甥は自分が男爵家を継ぐと言って贅沢を始めた? ほうほう。男爵にはひとり娘が居て聖マーヤ高等大学の学生? このままでは娘が留守の間に乗っ取られるのではと心配?

 ……そうですかそうですか、副院長は男爵家が心配なんですね。ふんふん、メモメモ。

 どうしますか?って視線を向けるスピカに、予定通り聖地マーヤマシロ孤児院で使っているのと同じ、共通語を使った教材や絵本を渡すように微笑んで、アステカには男爵家周辺の聞き込みの指示を出した。

「副院長、明日また来ます。孤児院に残っていたらあの男が来るかもしれないので、私が全員を連れて出掛けます。全員が乗れる荷馬車で迎えにくるので、仕事の予定のある子には、今日の内に明日と明後日は休むと伝えさせてください」



 翌日の夕方、予定通り聖人専用馬車が教会に到着した。
 一旦王都の外に出て馬車に乗り込んだ私は、顔と髪が見えないよう白い布を被って馬車から降りる。
 教会の前には、一目聖人様を見ようと多くの人が集まっていて、聖人の神服を着た私が姿を現すと、ワーッと大きな歓声が上がった。

 私は軽く手を振りながら、顔を隠したままで教会の中に入っていく。
 馬車が到着する少し前、プクマ教会の神父たちが、聖人ホワイト様は何度もお命を狙われているので、お顔を出すことはできないけど、声を掛けるのは大丈夫だと知らせていたので、私の姿が見えなくなるまで「聖人ホワイトさまー」って声が聞こえていた。

 マーヤ・リーデって過去の文献を見たら、利益をもたらす知恵を国に授けたり、鉱山を発見したりしてるんだよね。
 そりゃ大歓迎もしたくなるってもんよ。特に民は、少しでも自分たちの生活を向上させて欲しいと期待してると思う。

 天聖ソワレ様ったら、【マーヤ・リーデ先導者】が顕現したから、民に広くマーヤ・リーデとは何ぞや、マーヤ・リーデや他の聖人がどれだけ凄い存在なのかを知らしめろと各教会に指示を出したらしい。

 いやいや鉱山の発見とか、どないせーちゅーの? 磁石で砂鉄を探すとか、川上で砂をさらって小さな金を探したり? そもそも山を歩き回る体力ないよ私。
 それらしい知恵を授けて探させるにしても、基本的な知恵が無いんですけど?
 プクマ王国に来て思い付いたことと言えば、家畜である牛に似た動物のミルクを使ったバター作りとかお菓子作りくらいなんだけど・・・

 この大陸、お砂糖は高級品ではあるけど庶民にも手に入る。でもバターは超高級品。あのミレル帝国だけが製造販売してるんだよね。
 製造法方を極秘にして独占することは商人なら当たり前。類似品はいつか出るけど、それまでの利益は大きい。

 ……独占販売できるモノかぁ・・・

 あーっ、そう言えばプクマ王国はタラト火山で土地を買ったわよね。
 採掘は大変だし送料とか加工のことを考えたら、私が売るブラックカイロの値段にはできないだろうけど、貴族専用に高く売れば元は取れるかも。
 角を取ってケガをしないように丸くするのは、原初能力・創造持ちを雇えばなんとかなる。今年から物質変化について教え始めたし。

 プクマ王国には創造持ちは居ないけど、雇うのなら問題ないよね?
 いや、創造持ちはシュメル連合国とマセール王国の貴族だから、国営にしたら絶対に面倒臭いことになるわね。
 仕方ない、ホワイティ商会が工場を・・・いやいやいや、父様のミヤナカ商会があるじゃない。

 ……採掘はプクマ王国が主導管理し、工場はミヤナカ商会がプクマ王国に建設する。販売をミヤナカ商会とプクマ王国の共同で行えばアリだわ。

 ……プクマ王国には、私が関わりたくない大国シュメル連合国とマセール王国の販売権をあげてもいいか。特許料は取れないだろうから、指導料くらい貰っとこう。 
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