深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
49 / 110
産業革命

49 使節団(5)

しおりを挟む
 ◇◇ 第三皇子 イツキノ ◇◇

「私は何を見せられているのだろうか?」と言ったところで、それ以上の言葉が出てこない。

「イ、イツキノ様、なななな、何ですかあれは!」と、驚きのあまりを連呼するのは総務副大臣だ。

「これが産業革命? 昨日の講義には付いて行くのがやっとで、今日のこれは、以前の常識を捨てないと、確かに、確かに置いていかれる」

 驚きを通り越し、信じられないという表情で呟くのは学園長だ。
 この現実を見なかったことにして、これまで通りを学園で教えていていいのか、どうすることが教育者として正しいのだろうかと頭を抱える。

「学園長はまだいいじゃないですか! 私はマセール王国研究所の所長ですよ。
 ここで教えを受けた者が就職してきたら、私に教えられることなど殆ど、いや、全くないじゃないですか! 
 私の知識や能力が、じ、時代遅れに、時代遅れになってしまった~」

 そう言って大演習場の観覧席で、がっくりと肩を落とし地面を力なく叩いて半泣きしているのは研究所の所長だ。
 彼の立場を考えると、気の毒としか言いようがない。
 予想もできない能力の使い方と、常識を無視した技術なのだ。途方に暮れるのは仕方ないだろう。



 つい先程、副所長の案内でやって来たのは、屋外の大演習場だった。
 聖人である娘が新所長になっていたことにも驚いたが、研究員たちから絶大な人気と信頼を得ていると聞き嬉しくなった。
 行方不明になって10年以上が過ぎてしまったが、元気で生きていてくれたことだけでも神に感謝しなけれなならない。

 今日は所長自らが声を掛け、今年の卒業生でありホワイティ商会に就職した8人が、新設された【総合学科】とはどういうものかを教えるため、新入研究員及び在所研究員たちを集めて実演を行うらしい。
 全研究員と全教師が見学しているらしく、異常なほどの熱気が感じられる。
 
「【マーヤ・リーデ先導者】であられるマシロ所長は、私を含めた全ての者に、本当の原初能力の使い方を教えてくださいました。
 もう100年近く停滞していた原初能力を、新たな技術を含め、改革と革新、そして我らの手で時代を前進させようを合言葉に、別次元へと導かれました」

「別次元に導くとは、ちと大仰ではないかな?」

 大国マセールの原初能力研究のトップである所長は、いくら【ソードメイル】とか【タラータリィ】であろうと、自分の方が実力も実績もあると昨夜胸を張っていたので、傲りが口に出たようだ。
 聖人とはいえ任命されたばかりの所詮は小娘と、下に見る発言に対し案内人である副所長が眉を寄せる。

 聖マーヤ教会やマシロ・オリエンテに対して無礼な態度を取っていた使節団一行だったが、彼女を娘ミリアーノだと私が断言してからは、ぼそぼそと歯切れ悪く何かを呟く程度に落ち着いていたはずなんだが・・・ふう。
 第三皇子である私が娘だと言ったのだから、皆にとって彼女は、マセール王国の王孫という認識になる。

 ……まあ既に死亡扱いされ、王族籍からは抜けているが・・・



 先頭で入場してきたマシロ所長は、大きな拍手を受けながら笑顔で手を振って中央まで進み立ち止まった。
 そして何もない空間に手を伸ばして、大きな角材を含む建築資材のような物をポイポイと場内に出していく。

 全員の目がテンだ。
 何が起こったのか分からず、私たちは副所長に問う視線を向けた。

「あれは空間収納ですね。今のところマシロ所長にしか使えない空間能力ですが、学生の中には、あの10分の1くらいの物を入れられる収納バッグという能力を使える者もいます」

 それが何か?という感じで微笑んだ副所長は、しっかり見ていないと置いていかれますよと、何処かで聞いたような台詞を投げかけてきた。


 次に登場してきた8人の卒業生はやんやの歓声の中、同時に作業を開始した。
【創造】持ちと思われる者が地面に図面を描いていき、【土】持ちらしき者が描かれた線に沿って地面を掘っていく。また【水】持ちの者は、掘り出された土に他の土と水を加えて混ぜていく。

 出来上がった接着土のようなモノを木枠に入れ、今度は【動力】持ちと思われる者が軽々と持って、掘られた場所へと流し込んでいく。
 持つというより手を当てている感じだが、上手く均一に流していることに驚く。
 次に、【動力】と【風】持ちと思われる者が協力しながら、土台となるブロックのようなモノを流し込まれた接着土の上に並べていく。

「おーい、Aの1番から始めるぞ」と、【創造】持ちの者が分厚い手順書のような図面を持って指示を出していく。

 そこからは、【動力】持ちが角材等を移動し、【風】持ちが場所を微調整しながら木材を組んでいく。
【水】持ちの者が水平器なるものを使ってオッケイを出すと、手の空いている者が組み上がっていく建物の上に登って、カンカンと大きな木槌で凹凸に嵌め込んで組み上げていく。

 出来上がっていくのは馬車を入れておく倉庫のようで、間口は広く取られており、天井は人が住む建物より低い。
 屋根や壁の部分は、部材移動・調節担当・監督以外の5人が、リズミカルにトントンカンカンと板を打ち付け仕上げていく。

「この組立建築方法の手順は、事前に10分の1の大きさのミニチュア版を作るところから始まります。
 使用した部品の数や組み立ての手順をしっかりと記録し、必要な資材には全て番号を記入しておくことが重要です。
 他の部材も一切の無駄を出さないよう、緻密に計算され配置されます。
 ホワイティ商会は、この方法を使い僅か5ヶ月で孤児院を完成させました」

 完成間近になったところで、マシロ所長が再び現れ、各能力者が協力し合うことで不可能を可能にし、互いの能力を理解して高め合うことができるようになったと、拡声器なるものを手に持って皆に説明していく。


 ……別次元へと導く【マーヤ・リーデ】。聖人とは・・・これほどに凄まじい影響を与えるのだ。  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...