深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

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聖地からの使い

28 ホワイティ商会(1)

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 入学式から3週間、名目上同期生となっているお子様たちとは、朝食と夕食時間以外は別行動をとっている。
 例の黒い石の研究や諸々が忙しく、本教会も全力で協力してくれるけど、私の身分は秘密だから妨害や嫌がらせもあり前途多難だ。

 ……私の占い通り、10月だというのに既に雪が積もっているから、急いで燃料問題をなんとかしたいのに、平民である私は再々絡まれる。

「お前、なんで授業に出てこないんだ? 自分だけサボって恥ずかしくないのか!」

 リーダーになりたがっているミレル帝国のトコバ王子が、今日も朝から文句を言いにやってきた。

「私には必要ないからだと先生が仰ってたでしょう?」
「頭が悪すぎて授業についてこれないってことか。フン、所詮は平民」

 全く同じ会話が既に3日も続き、流石の私もイラッとする。

「それじゃあ、貴方も私が出ている講義に参加してみれば? ついでに皆さんもどうぞ。ですが子供みたいにはしゃいだり、大声を出すのは止めてくださいね」

 別の講義に参加していると、先生が何度説明しても納得しない4人に、私は何時もの如く上から目線で提案する。
 食堂内に控えていたスピカが、直ぐに動いてロマーノ学園長52歳に了解を取りにいってくれる。

「生意気な! お前が私の国の者なら、鞭打ちの刑だぞ!」

 今度はギョデクのハレール王子が、腕を振り上げて私に近付こうとしたので、護衛のアステカが行く手を塞ぎ、ハレール王子の護衛を睨み付けた。
 お子様たちの護衛には、私が教会の保護対象者だと伝えてある。だから、もしも私に危害を加えたら、教会騎士は剣を抜いて対抗すると分かっている。

「ハレール王子おやめください! この方は教会の騎士が守っているのです」
「だから何だと言うんだ! 護衛のくせにでしゃばるな!」

 ……この護衛は失格ね。主を守る気がないわ。

「学びが足らないようですわね。教会騎士が護衛につくのは、教会が守るべき重要人物と認めた者だけですわ。もしも上げた手を斬られても、ギョデク王は文句も言えないのよ!」

 立ち上がって無知なる者に教えるのは、マセール王国のサーシャ嬢だ。
 最近、彼女とは少しだけ会話をすることがある。
 同じマセール王国のガイン君も、ビビリながら会話に加わってくる。
 目的は私の正体を確かめることみたいだけど、うちの騎士が怖くて核心には触れてこない。



 朝食後、私は子供たちを連れ、同じ敷地内にある【聖マーヤ原初能力研究所】に行く。
 憧れの研究所に来れて、お子様たちのテンションは爆上がりだ。
 自分に与えられた研究室は見せられないので、【原初能力 創造】の次世代技術研究室にお邪魔する。

「あぁー、マシロさま! 今日こそは天体望遠鏡のレベルアップのヒントを教えてください」

 ここの責任者が私に走り寄り、他の研究員も私の前で手を合わせて拝む。
 彼等は私が天体望遠鏡の製作者だと知ると、何故か信者のように崇め始めた。
 うちの物つくりオタクの創造部門3人は、昔この研究室によく出入りしていたらしい。

「天体望遠鏡のレベルアップは、本体を含む全体の大きさを変えないとダメね。でも、ピント調節を工夫し、レンズの数を増やせば既存のモノでも倍率を上げられると思うわよ」

「オオォーッ!」と、歓声というか雄たけびを上げた研究員7人は、直ぐに図面を取り出し議論を開始する。
 こうなったら何も目に入らなくなるから、私は次の研究室に向かう。
 何が何だか分からないお子様たちは、ポカンとしたまま私の後ろに続く。


 次の研究室は【原初能力 空間】の、次世代能力研究室だ。
 まあ、いろいろあったのよ。本当にいろいろね・・・

 セイント・ロードスが、私専用の研究室を用意してくれたんだけど、こんな子供が伝統と格式高い【原初能力研究所】に、なんで居るんだって騒動になっちゃったわけよ。
 それはもう、原初能力研究所所長のネスラー66歳とか、各研究室の教授とか主任研究員が、目くじらを立てて教会本部に抗議するほどに。

 私と初めて会った【原初能力持ち】たちは、私の濃紫の髪を見て【空間】持ちだろうと推察するけど、瞳がアメジストじゃないと分かると、途端にバカにした表情をする。

 ……ブラックオパールの瞳なんて、誰も見たことがないから能力が分からないんだよね。
 ……しかも瞳と髪の色が違う能力持ちは、能力が低いと思われてるし。

 困ったセイント・ロードスは、これまで誰も使えなかった新しい能力を発現させた私を、講師兼研究者として招いたのだと説明してしまった。
 まあいいんだよ・・・馬鹿にされ邪険にされるより講師の方がマシだから。
 できれば事前に相談して欲しかったけど、これも私の努めだと思い我慢よ。


 セイント・ロードスによると、所長のネスラーは自分が【動力】と【空間小】という2つの能力を持つ【ソードメイル】であることが自慢で、多くの研究者を見下し身分差別も平気で行うので、本教会で問題になっていたらしい。
 だから突然やってきた平民の子供など、彼には認められる訳がなかった。

 ……だからって研究所の全員を集め、私の能力が研究に値するかどうかを公開検証するなんて、必要ないと思うんだよね。

 ……完全に虐めだよね。12歳のか弱い美少女を演習場の中央に立たせて、私が申告した【空間】能力について、他の教授に検証させるなんて。

 だから、検証するなら同じ【空間】能力持ちのネスラー所長に、どうかを試して欲しいと、全研究員、全教授、全主任研究員の前でお願いという名の喧嘩を売ったわ。 
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