深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

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聖地からの使い

26 聖地マーヤ(2)

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 聖地マーヤ、確かに特別な場所って感じがする。
 暖かいオレンジの気が、本教会全体を覆っているように視えるのは何故だろう?
 学都の所々には、暗い色が視えたりもする。これは人間の負の感情?
 まあこの大陸は、理不尽なことが多いからなぁ・・・

 ……う~ん、聖地マーヤの本教会が視界に入ってから、これまで視えなかったオーラの色が視えるようになった。

 これが【マーヤ・リー】である私の持つ力の一部なのか、地球で占い師をしていた私の力が増したのかは分からないけど、私の同行者の色も視えてしまう。
 ホワイティ商団6人(創造部門3人とギザ、メンフィス、サッカラ)と、商業連合2人(副支店長とマーリエさん)は、全員が陽の色ばかりで安心した。

 ……なるほど、瞬きを早く5回すると、オーラの色は視えなくなるんだ。

 ……もしかしてこの能力、悪人や敵を見分けられるかもしれない。フッフッフ。


 入学式は3日後なので、商団メンバーと一緒に借りた店舗物件に引っ越しして開業準備をする。
 学都の建物は全て本教会の所有で、ホワイティ商団が借りる建物は、本教会のセイント・ロードスが既に手続きを代行してくれている。

 学都の中央には広い円形広場があり、中心点には円形の立派な五段噴水がある。
 フランスのベルサイユ宮殿の噴水に似ているけど、太陽神みたいな像はない。
 吹き出し口は、各段ごとに15~10くらいはあるみたいで、2メートル以上は水が吹き上がっていて迫力がある。
 溢れた水は地下水路を通って各ブロックに供給されている。素晴らしい技術だ。

 噴水から少し距離をとって、広場を囲むように長椅子が置かれている。
 また、長椅子の後ろには、学生も利用できる食べ物・雑貨・文具・本・中古服などを売る屋台がぐるりと並んでおり、長椅子に座って何か食べている学生の姿もちらほら見える。

 ……なんだか好い感じ。串焼きを食べながらぼ~っと噴水を見るのもいいわね。
 ……ヨーロッパの円形とか星型の城郭都市に似ていて、世界遺産に来た気分。

 この円形の憩いの広場を中心に、東が本教会、西は病院と医学学校、南は高等大学、北に原初能力関係の学校や学園、研究所がある。
 各教育機関の境界には、馬車が3台は通れる広さの道路があり、4つの敷地は完全に区切られていた。

 ホワイティ商団が借りた建物は、噴水広場から南西に伸びる道路を8分くらい歩いて進んだ、高等大学の裏手に在った。
 この区画の建物は全て4階建で、同じような作りで建物ごとに色分けされている。なんだかオランダの街並みを見ているようだ。

 ……この町の設計者は、間違いなくヨーロッパの人だな。
 ……うちの建物は明るいグリーンかぁ・・・うん、いいね。

 この区画は学都の商店街のような場所で、食料品・服屋・靴屋・家具・寝具・カバン・薪などの燃料等、生活に必要な物を売る商店が揃っている。
 1階の店頭には、手始めにアローエクリームと芳香剤を並べてみよう。
 2階は倉庫にして、3階と4階は商団メンバーの住居でいいだろう。

 よっこいしょと、私は空間収納から荷物を降ろしていく。
 もう慣れているはずのメンバーだけど「神だな」とか「天使でしょう」なんて言いながら、パチパチと手を叩いて感心する。
 荷馬車5台分はありそうな荷物を、必要な場所にホイホイと降ろしたら、隣の隣にある家具屋さんに、机やテーブル、陳列棚などを購入しに行く。

 ……隣近所とのお付き合いは大事だから、大きな買い物は現地でが基本。

「よし、この区画の全ての店に挨拶に行くよ。手土産はアローエクリームにするから、創造部門の3人は荷物をお願い」

 アローエクリームは、オリエンテ商会の高級感ある小箱に入っているから、挨拶品としても最適だ。聖地マーヤでは販売されていないし。
 小さな字で製造元ホワイティ商団と記入してあるので、うちの製品だと宣伝もするのにも丁度いい。
 6人を引き連れ、私は商団代表として引っ越しの挨拶回りをする。


 どの店も子供の私が商団長ということに驚いていたが、マシロ・オリエンテと名乗ると、成る程って顔をして皆さん納得される。
 手土産もオリエンテ商会の商品だから、大商会の一族だと認識されたのだろう。
 オリエンテ商会という名前の重みに感謝はするが、間もなくうちは商会に昇格する。

 ……頑張ってホワイティ商会の名を広めよう!


 よーし、次は挨拶回りで購入した食料を持って、商業連合に陣中見舞いと荷下ろしに寄ろう。

 役場・郵便・運送・馬車などの公共機関は、病院と医学学校の裏手にある。
 商業連合の聖地マーヤ分店は、この区画に事務所を開設するようで、事務所は、学都巡回乗合馬車組合の3階に決まったそうだ。
 必要な机や椅子は賃貸契約に含まれていたので、持ってきた荷物は少ない。

「マシロ様、お待ちしておりました。書類を出していただいてよろしいでしょうか」
 
 分店を任されたシュメル副支店長のヤローナさんが、嬉しそうに声を掛けて頭を下げる。
 重い書類一式は、私が空間収納に入れて持ってきたので、机の上に降ろして、疲れた顔をしている2人に手土産の昼食を渡す。

「ありがとうございます。買い物に行く元気が残ってなかったので助かります」 

 荷馬車1台分の荷物を3階の事務所に搬入して、へとへとになってしまったらしいマーリエさんが、サンドイッチと串焼きを受け取り涙目で礼を言う。

 ……こんな時、誰でもマジックバッグを使えたらと思う。
 ……汎用性への道は険しい。たぶん、起動できる何かのエネルギーが必要だ。
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