深遠の先へ ~20XX年の終わりと始まり。その娘、傍若無人なり~

杵築しゅん

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商団主ましろ

17 ホワイティ商団(1)

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 今日も少年はやって来た。
 名をパーシルといい、年齢は私より1つ年上の10歳だ。
 最近毎日のように、基本学校の帰りに本店の営業部に来て邪魔をする。
 
 彼の父親は本店長をしているバンガスさんで、エドモンド父様の弟である。
 私にとっては叔父にあたるわけで、目の前の少年は従兄ということになる。

「お前は基本学校に行く必要はないと、僕の父が言っていたが、それは、お前が学ぶ価値もないからってことだろう?」

 ……ああ、面倒くさい。

 まあ、相手は子供だ。
 多少の暴言も、失礼な態度も、ただの世間知らずだと思い相手にしない。
 オリエンテ商会の親族たちは、養女になった私を蹴落とすことに懸命で、中には洒落にならない嫌がらせをしてくる者もいる。
 
 日本で言えば巨大企業みたいなものだから、権力に群がる醜い争いだってある。
 私は後継者になるつもりはないと養父母に告げているが、父様はそれを親族には知らせていない。
 信用できない親族や必要ない者を見極めるため、敢えて放置しているようだ。
 

 営業部長のアレンさんによると、私が養女になる前まで、商会長夫妻が子供に恵まれなかったら、あなたがオリエンテ商会を継ぐのよと、パーシルは母親のマリーアンさんに言われ続けていたらしい。
 すっかり自分が後継者になれると思っていたのに、ぽっと出の私が来たもんだから、母息子して私を敵視しているのだという。

【新型ルーペ】や【アローエクリーム】、【ホワイティ】ブランドの宝飾品等を、私が立案・設計・製作までしていると知る商会の者は、私を後継者として大歓迎している。
 いつかオリエンテ家の血族から婿をとり、私が次期商会長になれば、オリエンテ商会はもっと成長するだろうと期待もされている。

 でも、私が6歳の時に【ソードメイル】と判定されたことや、私の特異な能力は口外禁止になっているので、商会内でも一部の者しか真実を知らない。


「フン、お前は知らないだろが、オリエンテ商会を継ぐ者は、必ず【原初能力】を持っていなければならないんだ。
 父は持ってなかったけど、僕はさ、なんと【原初能力 土】持ちなんだよな。それに、後継者は上位学校を卒業する必要があるんだぞ」

「ああそう。私も持ってるけど、別に自慢する必要もないわ。
 貴方は学校に行くのが仕事だけど、私は今、オリエンテ商会の仕事をしているの。見て分からない? ああ、何をしているのか見ても分からないかぁ」

 つい面倒になって、喧嘩を買っちゃったわよ。は~っ・・・

「なんだと! 年下で養女のくせに生意気な奴だ」と怒鳴って、私の手元を覗き込み、私が確認していた【ホワイティ】ブランドの上半期収支明細書を奪い取った。
 そしてムムムと唸りながら、手に取った書類を破ろうとした。

「止めなさい! その書類を作るためにたくさんの人が苦労を重ねてきたのよ。商売をする気があるなら、もっと視野を広く持ち、謙虚さを身につけなさい!」

 私は大声で叱咤し、声に驚いて固まっている子供から書類を取り戻した。
 事務所内にいた事務員さんや営業さんたちから、パチパチと拍手が起こる。
 皆、知らんふりしていたけど、これまでもお坊ちゃんには辟易していたみたいだから、スッキリしたのかもしれない。

 ……おっと、つい58歳の地球人だった自分が出ちゃったわ。

「おまえー、両親からも怒鳴られたことなんかないのに、養女のくせに、養女のくせに! お母さまに言いつけて、お前を追い出してやるからなー!」

 世間知らずのお坊ちゃまは、捨て台詞を吐いて走り去っていった。
 これほど我が儘で尊大なのに、両親は叱ることもないのかしら? お母さまって、そんなに権力のある人だったっけ?


「アレン部長、わたし、オリエンテ家にとって邪魔かなぁ?
 養女ってだけで、親族の皆さんから見下されたり悪口を言われ、役立たず、生意気、身の程知らずって言われるんだけど・・・
 まさか、血の繋がらない私が、商会を乗っ取るとでも思っているのかなぁ?」

 つい愚痴が出た。
 大人気ないとは分かってるんだけど、こんな少女に対して皆さん結構えぐいのよ。しかも、養父母が居ない時を狙ってのあれこれだもん。

 ……中身がおばさんじゃなかったら、とっくに泣いてるわ。

「お嬢様、そ、そんなことはありません」と、若い営業さんが立ち上がって、何故か涙声で言ってくれる。

「お嬢様のお陰で、今期の売り上げは4割増しですよ。そんな悲しいことを言わないでください」と、事務のベテラン女性も励ましてくれる。

「フフ、2度と事務所に来ないよう、私が手を打ちましょう。いえ、いっそ無能な跡取りは要らないと言ってやりましょう」

 アレン部長はニヤリと笑い、身の程を教えてやるべきですねと物騒なことを言う。事務所内の皆さんも、うんうんと頷き同意している。


「やっぱり私、独立するわ。そうすれば、養女の私が商会を継がないと分かってもらえるでしょう? そうよ、予定より少し早いけど【ホワイティ商団】を立ち上げるわ!」

 私は椅子から立ち上がり、「やったるぜー!」って右手を振り上げ元気に宣言する。
 元々その気だったし、父様には独立する予定だと言ってある。

 まあ、あれよ。私が【マーヤ・リー】だったか【予言者】だったかで、国王から私の好きにさせろと父様は指示を受けているらしい。

 ……もしかして占い師の影響?

 私、教会の聖人になんて興味もないし、窮屈で自由のない生活なんて真っ平ごめんだわ。

 この国の商業法では、10歳から商店や商団の主になれる。
 新しく店を立ち上げる10歳児なんていないけど、この法律は、突然親が亡くなった時の救済を目的に制定されている。

 ……3カ月後には10歳。オリエンテ商会の使える人材と機材を、有料でレンタルさせてもらいながら、商団長デビューよ!   
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