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空からこんにちは

9 初めての旅(2)

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 やって来ました宝石の採掘場。
 景色はオーストラリアのカンテュ峡谷とかエアーズロックみたいな感じの砂岩に囲まれた場所。
 
 あれ、地球の宝石って、こうやって採掘してたっけ?
 トンネルみたいに坑道を掘って進むのではなく、縦横30メートルくらいの正方形の広い範囲を、縦横3メートルの区画割りして、15センチくらいの深さで少しずつ掘っていくやり方だ。
 なんだか遺跡調査に似ている気がして、考古学ファンとしては心が弾む。

 一定の間隔に掘る人が並んでいて、縄のようなモノで区切られた自分の担当場所を、決められた深さを厳守して小型のツルハシや熊手、クワなどで掘っていく。
 この辺りから採掘されるのは水晶系の宝石で硬度があるからか、結構ガツンガツンと掘ってる。ひと区画が終わったら次の区画へと進む。

 私がイメージしていたアメジストの大きな晶洞が出たり、岩をコンコン割ったらその中に・・・っていうのとは違ってた。
 そもそも岩じゃなくて固めの土で、宝石の多くは10センチ前後の塊で出てくる。
 区画の土を掘り起こし、そこに宝石があるかないかを見て、あったら区画に旗を立てる。これが第一工程。

 ……ちょっと潮干狩りを思い出した。

 旗を立てた区画には、スコップとふるいとバケツを持った人が来て、スコップで土をふるいに入れ、ゆすって残ったモノをバケツに入れる。これが第二工程。
 その後バケツ回収人が来て、今度はバケツの中のモノをザルに入れ、水の中に浸けて洗っていく。これが第三工程。

 宝石と認められたモノを選別し、宝石の種類別に箱に入れていくのが第四工程。以上の工程で採石を行っている。
 よーしやるぞ! とスコップ片手にウキャウキャはしゃいでいたら、父様からストップが・・・

 できれば全工程を挑戦したかったけど、私が許されたのは第三工程から。
 私用の小さなザルに石や宝石を入れ、バケツの中でザラザラと洗っていく。
 確かにキラキラ輝く如何にも宝石ですって石を見付けた時は、テンションは上がる。けど、なんか違う。

 ……お宝探し的なワクワク感がない。う~む・・・



 6歳の幼女は体力がないので、30分も頑張れば限界がきた。
 父様はまだこれから忙しいようだから、ちょっと辺りを散歩しよう。
 てくてく歩いて選別場の裏手に回ると、砂や石の小山があった。

「おつかれさまです。このお山はなーに?」って、作業をしている屈強なおじさんに可愛い子ぶって質問する。
 いや、たぶんこの子は本当に可愛いと思うから、ぶってない。

「ここはな、第三工程まで終わった区画の砂や小石の捨て場だよ。これから深さ30メートル掘り終わるまでに、同じような山が15くらいできるな。
 掘り終わったら穴に埋め戻し、次の場所を掘り始める」

 ふんふん成る程。地球と違ってベルトコンベヤーとかないから、選別までの工程も残土処理も大変だ。
 まあ小山だから崩れるリスクは低いかな? それに、この残土を別の場所に捨てに行く方が大変かも。ベルトコンベヤーが欲しいわね。

 ……コホン、コホン、風が吹いたら砂埃が・・・マスク必須だわ。
 ……従業員さんにもマスクを勧めなきゃ……肺の病気が心配だもん。

 なんてことを思案しながら、ハンカチを取り出しマスクの代用にする。
 小山を観察すると、その中にキラキラ輝く宝石と思われる、欠片というかさざれ石が混じっている。
 中には小指の爪くらいの大きさの宝石だってある。

「ねえねえ、この小さな宝石は売らないの?」

「お嬢様、そんな小さな石を加工する手間や価値を考えると、売り物にするのは難しいのです。買い手もいませんし、埋め戻すしかないんです」

 今度は私の護衛兼子守りとして同行している、オリエンテ商会インカーヤ支店副支店長の、ちょっとぽっちゃり体型ドルドさんが答えてくれた。

 ……なんですと! 勿体ない。 日本じゃさざれ石だって商品だったわよ。
 
 ……しかも、このダイヤモンドみたいな石なら、メレダイヤって使い道だってあるじゃない! う~ん、加工技術か・・・高倍率ルーペも必要だな。

 でもでも私は、勿体ないを実践する国の住民だったのよ。
 よし、こっそり、いや堂々と持って帰ろう。捨ててあるんだから問題ないよね。
 いつの日か、これを加工して素敵な装飾品を作るのよ! 角を失くして穴さえ開けられたら、絶対に商品になるわ!


 気付けばいつものアニソンを日本語メドレーで歌いながら、リュックの中にガンガン、どんどん詰め込んでいた。
 アメジスト、ルビー、サファイアみたいな石まで他種多色。これ絶対ダイヤだわ! 鑑定眼なんて持ってないけど気分が大事よ。

 ……やだ~ん、凄く楽しい! わくわくする。

「お嬢様、たくさん入れたら重いですよ。リュックも破れます」

 なかなか一杯にならないし、重さも感じないから止め時が分からなくて調子に乗っていたら、父様の所に行っていた副支店長のドルドさんが戻ってきて、そろそろ止めようねとストップをかけられてしまった。

 ……おっと不味い。

「えっと、たくさん見たけど、リュックには少ししか入れてないよ」

 マジックバッグ化しているリュックに疑問を持たれるのは不味いから、必殺幼女の無垢な笑顔作戦で乗り切るわ。
「ほら大丈夫」って言いながら、リュックを背中にかるってみせる。
 あぁ、ちょっとだけ重くなった気がする程度で良かった。

 ……うん、想像した通りの品質。【原初能力】バンザーイ!  

 帰り道は、馬車の中で父様に抱っこされて熟睡。ねむねむ。 
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