キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
690 / 709
番外編

番外編3 新しい商売(2)

しおりを挟む
 完全にビビっているセイガさんとデルさんの前に、片面だけブラックドラゴン雄の翼で作ったマジックバッグ小を置き、王妃様と学院長から預かったカラ魔石を取り出す。

 両面をブラックドラゴンで作ると、膨大な魔力量が必要になる。
 俺以外でも使えるように、魔力量が150以上あれば起動するマジックバッグを試作しておいたのだが、うっかりポケットに入れたままだった。

「はて?」と、俺は首を捻る。
「はあ?」と、セイガさんは出てきた魔石を睨む。
「なんだこの微妙な色の魔石は!」とデルさんは叫んで顔をしかめた。

 出てきた魔石は間違いなく王妃様と学院長から預かったカラ魔石だが、既に魔力は充填され、2つはちょっと不気味な銀色と赤の縞模様になっている。
 残りの2つは銀色と茶色の縞模様で、銀色だけが無駄に輝きを放っている。

「これは・・・2個が火適性の変異種の魔石で、残りの2個は土適性の変異種の魔石ってことかな?」

「いやアコル、それよりもなんで充填済みなんだ?」

「リーダー、そこじゃないっすよ。この不気味な色と輝きの方が変でしょうよ」

 3人で充填済になっている不気味な魔石をガン見しながら、う~んと唸る。


「アコル、そのマジックバッグには何が入ってるんだ?」

俺がやらかした時に叱るいつもの表情で、セイガさんが質問してきた。

 10歳の時から半分親父代わりのようだったセイガさんは、俺の非常識な行動によく拳骨を落としていた。
 ここで視線を合わせてはいけない。きっと俺の目は泳いでいる。
 俺を覇王様ではなくアコルと呼んでいるので、間違いなく叱られるパターンだ。
 
「え~っと、薬の素材として使い掛けのブラックドラゴン雄の幼体が1頭?」

「はあ? なんで疑問形なんだよ! そんな物騒なモン持ち歩くな!」

 ……やっぱり叱られた。

 覇王になった俺を本気で叱れるのは、母さんと会頭とセイガさんとダルトンさんくらいだ。
 久し振りに叱られ、俺はつい嬉しくなってへらへらしてしまう。

「この顔は反省してませんぜリーダー」と、デルさんも平常運転だ。


 突然、俺の頭の中にあるシーンが思い浮かんだ。

 ……これは未来のビジョンか?


 俺が急に黙り込んで思案し始めたので、セイガさんとデルさんは溜息を吐きながらも黙って、俺が話し始めるのを待ってくれる。
 俺がこんな風に思案し始めた時は、問題の解決策が視えている時だと知っているからだ。


「冒険者を引退した後はどうする予定ですか?」

俺は弟分のアコルから商人にキャラ交換し、にこにこ上機嫌で2人に質問する。

「その顔は、また俺たちを何かに巻き込む気だな」

胡散臭い者を見るような目で、鋭い突っ込みをするセイガさん。

「もう魔獣とは戦わないぞ! 王都で暮らしたいリーダーと違い、俺は田舎でのんびりしたいんだよ。もう金も要らないぞ」

デルさんは眉を寄せ、俺の話を聞く前に予防線を張る。

「それではお二人を、アエラボ商会に新しく設立する【魔石充填部】に、いや、この名前じゃ危険か・・・う~ん、【銀色魔石部】? 得意先が国や領主やギルドだから【公共事業部】かな?
 そういうことで、お二人をアエラボ商会の特別役員としてお迎えします」

「はっ、そういうこと?」と直ぐにセイガさんが突っ込み、「だから、どんなことだよ!」とデルさんが吠えた。

 俺はにまにましながら、2人に変異種以上の魔石を充填する事業を立ち上げることを分かり易く説明していく。
 勿論、何度か充填を試すことも必要だし、充填した魔石の性能検査も必要だけどと重要事項も付け加える。

「このマジックバッグは、魔力量が150以上あれば収納も取り出しもできます。
 お二人とも150は越えてましたよね。
 セイガさんは王都のアエラボ商会の勤務で、デルさんは学園都市の郊外でのんびりすればいいんじゃないかな? 特別役員は週2日の勤務で構いません」

 セイガさんがアエラボ商会本店で働けば、母さんたちのことも安心できるしと、俺は悪魔のささやきでダメ押しをする。
 セイガさんは母さんのことが好きで、これまでも俺の家族を守ってくれていた。そろそろ前に進んでもいいんじゃないかな。

「ブラックドラゴン入りのマジックバッグにカラ魔石を入れ、充填させる仕事を週2日だと? そんなこと本当に可能なのか?」

「はいデルさん。得意先が得意先ですから、誰にでも任せられる仕事じゃありません。
 お金がたっぷりあって、時間にもゆとりがあり、秘密厳守できて、商会長である俺が信用できる人って考えたら、他に適任者なんて居ないでしょう?」

逃がす気なんてありませんよって極上の笑顔で、俺はデルさんに言った。

 ……きっと大丈夫だ。ああやって、突然頭の中に思い浮かんだことは、良いことも悪いことも全て現実になっている。


「相変わらずの力技。真似できる者がいないから商売敵もいねえし」

既に慣れっこのはずのデルさんが、諦めたように呟く。

「でもアコル、いや覇王様、今不足して困ってるのは上級種の魔石だろう?
 これからもっと魔術具を増やすなら、そっちの方から手掛けた方がいいんじゃないか? 冒険者ギルドは仕事が減るだろうが・・・」

急ぐ必要のある上級種の魔石の充填はどうするんだと、セイガさんが問う。

「あまりアエラボ商会が儲けるのも気が引けますから、モンブラン商会の各支店に覇王軍メンバーを就職させ、上級種のカラ魔石の充填をさせましょう。
 ただし、売上金の半分は特例として領主に納めるようにします。
 どの領地も大厄災で資金繰りが大変でしょうから、きっと喜ばれると思います」

 そろそろ魔獣の大氾濫は終息するだろう。
 覇王軍第二部隊に所属している者は、9月末で正式に契約期間が終了する。
 冒険者として残りたいと希望しなかったら、声を掛けてみればいい。

 ブラックドラゴンは危険だから、グレードラゴンで試してみよう。
 上級種のカラ魔石を充填するくらいなら、バラバラに割れたブラックドラゴンの未使用魔石でも有効かもしれない。

 ……やばい、考えただけでワクワクしてきた。

 ……あぁーっ! また自分の仕事を増やしてしまった。



 翌日、俺はブラックドラゴンの魔力で充填された変異種の魔石4個を持って、覇王学園の創造学部で実験中のカルタック教授を訪ねた。

「くそー、なんで起動しないんだ!
 変異種の充填魔石じゃ魔力量が足らないのか? ドラゴンか? ドラゴンならいけるのか!」

 ドアを開けた途端、カルタック教授の叫び声が聞こえた。
 如何にもお貴族様って感じだったカルタック教授は、すっかり覇王軍や覇王探求部会のノリに染まって、言葉遣いが平民寄りになっている。はは・・・

 先月から取り組んでいた新しい魔術具が、どうしても起動しないとカルタック教授がぼやいていたのを思い出し、実験に付き合ってもらうことにした。
 俺は挨拶を省略し、叫んでいるカルタック教授の目の前に、縞模様のちょっと禍々しい魔石を差し出す。

「な、何だこの魔石は! おや覇王様、いらっしゃい」

 充填魔石に目が釘付けになっている教授は、研究室に俺が入ってきたことに気付いて笑顔で迎えてくれる。
 助手をしていた学生や覇王探求部会メンバーも、何事かと集まってきた。

「実は、新しい方法で充填した魔石の性能を試そうと思い、協力依頼に来たんです。先に注意事項を言いますが、この充填魔石を素手で触ると危険です」

直ぐにでも使いたいと手を伸ばそうとしていた教授に、俺は真顔で注意する。

 昨日、セイガさんが素手で触って軽い火傷をした。
 慌てて俺は中級ポーション【慈悲の雫】を振り掛け、残りを用心のために飲んでもらった。
 俺は火傷しなかったから、魔力量の違いが影響していると思われる。
 
 慌てて手を引っ込めたカルタック教授は、高熱に耐える魔獣素材の皮手袋をして、恐る恐る充填魔石を持ち上げ、実験中の魔術具にセットした。
 弟子たちが見守る中、ゴクリ唾を飲み込んでカルタック教授はスイッチを押した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...