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番外編

番外編1 あれから1年

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 ◇◇ 執行責任者 ログドル第二王子 ◇◇

 滅亡したラレスト王国を、覇王・勇者の直轄地にし【学園都市】にすると覇王様が宣言された昨年の春から早1年5ヶ月。
 ばたばたと走り回っている内に、住民の生活や治安は安定し、急ピッチで進められた2つの学園の校舎と中央執行棟が完成した。

 本日は、学園都市のシンボルとなる中央執行棟の落成式と、2つの学園の正式開校記念式典が行われる。
 学園都市らしく、街の中心に建つ中央執行棟を囲むように【覇王学園】と【勇者学園】の敷地があり、3階建ての新築校舎が建っている。

 六角形という他に類を見ない2階建ての中央執行棟は、ドラゴンに破壊された旧ヘイズ侯爵屋敷跡に建設された。
 中央執行棟の広い中庭には、ランドルとエリスが着地できる5階建ての高さくらいの頑丈な見張り塔が建っている。

 この見張り塔は【光の塔】と呼ばれており、覇王様・勇者様・光のドラゴンに感謝を込め、王族と全領主がお金を出し、魔鉱石や鉄をふんだんに使用し建設された。
 覇王様のご希望で、螺旋状に美しいタイルが嵌め込まれている。


「以前と全く異なる都市をたった1年半で造り上げるなんて、誰も想像できなかったし、できると思った領主は居なかっただろうな」

 来賓として記念式典に招待されたマギ公爵は、見張り塔の最上階から街を見下ろし、信じられないと首を振る。

「ええ、学園都市は何処の領地とも異なり、中心となる一等地に領主屋敷が在りませんから。
 それに、この六角形の建物、どんな技術を使ったのでしょう?
 いつの間に外堀まで・・・はーっ、領都が倍の広さになっている」

 一緒に見張り塔に登った弟トーマスは、任された旧ワートン領の復旧スピードとの違いを目の当たりにし溜息を吐く。

「兄上、覇王様と勇者様を普通の常識で考えるのは止めましょう。
 これだけの建物を造るために、覇王様は光のドラゴンと奇跡のような収納量のマジックバッグを駆使されたのです」

 同じように疲れた表情の実弟レイトルは、任された旧サーシム領リドミウム領の旧態依然とした街並みを思い出しながら、兄トーマスの肩に手を置いた。

 眼下には、うきうきと足取りも軽い王妃さまが、第2側室である学院長と、第1側室である私の母を伴って、中央執行棟を案内している姿が見える。
 これまで陰に徹してきた母は、正式に学園都市の執行責任者となった私の晴れ姿を見たいと言ってやって来た。

 王妃様や学院長と一緒に旅行できて、母は本当に嬉しそうだ。
 少しは親孝行できただろうか。
 王立高学院特別部隊と連携する王宮責任者として忙しいのよと、笑いながら話す母の表情は明るく若返ったように生き生きしていた。
 
 思えば、こうして兄弟で気軽に話ができるなんて、3年前には想像すらできなかった。
 
 ……全ては覇王様のお陰だ。本当にありがとうございます。
 


 ◇ ◇ ◇ ◇

 王立高学院の卒業式から1年、がむしゃらに働き2つの学園の校舎は完成したが、研究棟や実践棟はこれから本格的に建設していく。
 創薬学部の研究棟だけは、いつものメンバーを総動員し、マサルーノ先輩が新たに開発した魔法陣を使って土魔法で建設してある。

 創薬学部は大きな利益を生む可能性が高い上に、極秘研究をする必要性があるから、研究棟の周囲は堀と壁で囲んである。警備も厳重だ。
 開校以来、既に多くの薬品や化粧品を世に出し、これから建てる研究棟や実習棟の建設資金は確保済だ。

 製品を作る工場も併設してあり、仕送りが期待できない高学院の学生や、勇者学園の上級魔法コースの学生が、貴重な戦力として放課後や休日に活躍している。
 情報漏洩が怖いので製品は完全分業で、仕上げ作業は講義の一環として創薬学部の学生が行っている。

 それでも学生頼みだから、注文に製造が全く追いついていない。
 そろそろ覇王学園に出資してくれた領主や商会に声を掛け、学園都市以外にも工場建設を進めたいと考えている。



 創造学部や基礎工学部は、学園都市高学院の実習棟や演習場を共同で使用している。
 創造学部も、改造型古代魔術具や新しい魔術具の開発に成功し、必要な機材や素材購入資金を自前で調達できている。

 改良型小型通信魔術具の普及により、各領地内で貴族間の緊急連絡が可能になった。
 勿論、冒険者ギルドはいち早く導入し、各ギルド間の通達や情報交換が素早く行われ、魔獣討伐や人材派遣に大きく貢献している。

 先日、カルタック教授が魔術具ギルドを立ち上げ、覇王探求部会正部会員のうち技術者は全員登録を済ませた。
 これから魔術具ギルドは、覇王学園の創造学部を卒業すれば正会員の資格が与えられ、基礎工学部を卒業すると副会員として登録できるようになる。


「お久し振りです覇王様」

 感慨深く完成した覇王学園を正門から眺めていると、先日シルクーネ先輩と婚約したマサルーノ先輩が声を掛けてきた。

「おう、久し振りマサルーノ。先日のサナへ領の魔獣討伐は直接指揮を執ったそうだな」

 記念式典に出席するためにやって来たマサルーノ先輩は、覇王軍本部の責任者として王都で頑張っている。
 昨年父親をグレードラゴンの襲撃で亡くし、今は先輩が伯爵家当主だ。
 だから、自領から距離のある学園都市で働いてもらうのは諦めた。

 魔法陣研究では右に出る者はいないし、覇王軍の指揮官としても優秀なマサルーノ先輩は、領主であるマリード侯爵にがっちり囲われ、トーマス王子は側近として狙っているらしい。

「久し振りの中規模氾濫で指揮を執りましたが、セイロン山から溢れた魔獣は下級や中級ばかりで、覇王軍2年目の学生が活躍し、半日で終了しました。
 そう言えば、覇王軍に対するサナへ領の貴族の態度や言動があまりに違っていて、思わず笑ってしまいました。どうやら世代交代したようです」

 覇王様のお陰で貴族の在り方は確実に変化していますと、マサルーノ先輩は笑いながら付け加えた。


 最悪の厄災直後、サナへ領の領主一族や高位貴族たちは、覇王軍が来なかったせいで領主が死んだと触れ回った。
 領主の死の責任を、全て覇王と覇王軍に押し付けた。

 最悪の厄災の時、他領でも大きな被害が出て、覇王も勇者も懸命に戦っていたし、覇王軍メンバーは王都不在だったと全国民が知った後でも、サナへ領の腐った貴族は態度を変えなかった。

 その態度にブチギレたのは、商業ギルドと冒険者ギルド、そしてモンブラン商会だった。

 商業ギルドは、領主や貴族の掛買を拒否し、現金購入しか認めなくなった。
 冒険者ギルドは、魔石や毛皮などの魔獣素材を一切貴族に売らなくなった。
 モンブラン商会は、貴族に大人気のポーションや薬を店頭から引き揚げた。

 ドバイン運送は、これ見よがしにサナへ店を閉め、他店もサナへ領の貴族にマジックバッグを貸さなかった。
 一番激怒したのは、恩知らずの貴族のせいで、覇王軍や王立高学院特別部隊が救援や救済に来なくなるという噂を聞いたサナへ領民たちだったらしい。

 ……確か国王もブチギレて、サナへ領の領主と貴族を総入れ替えするぞと言ったとか。

 貴族としての身分を守る為に、世代交代せざるを得なかったのだろう。
 覇王軍本部に正式な謝罪文が届いたらしいが、俺は読む気もない。 

 そう言えば、モンブラン商会サナへ支店長から届いた手紙の中に、覇王様のお陰で貴族の態度が良くなり、領民はとても感謝していると書いてあった気がする。

 ……う~ん、俺は何もしてないよな?


「ところで覇王様、覇王軍や王立高学院が使用している魔術具に必要な、魔力が充填された魔石がもうありません。
 セイロン山・ティー山脈の魔力量が減少したので、カラ魔石の充填が追い付かず、王都では魔石の奪い合いが起こっています」

マサルーノ先輩は困った顔をして、このままでは対ドラゴン用の古代魔術具の起動ができないかもしれないと言う。
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