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天の導き

337ー1 激流(15)ー1

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 夕暮れの空に一番星が輝き、辺りには炊き出しスープのいい匂いが漂い始めた。
 そろそろ覇王軍メンバーも王立高学院特別部隊メンバーも、交代で覇王軍本部テント裏にある土壁で囲まれた専用スペースに戻ってくる。

 ……久し振りに、仲間のスープは俺が作ろうかな。

 大鍋をマジックバッグから取り出していると、逃げ出した貴族の様子を見てきたエクレアが戻ってきた。
 どうやら、逃亡しようとした貴族たちは、誰も王都を囲む堀を越えられなかったようだ。


 トーマス王子と別行動をとり始めた魔獣討伐専門部隊の3人は、ワイコリーム公爵とマキアート教授が、前の魔法省から引き抜いた優秀な魔法師だった。

 被災者を率いて3箇所の王都門には向かったが、3人は被災者を危険に曝すことはなかった。
 門番に堀に架かる吊橋を上げさせ、門の手前の広場に、必ず通らねば門まで到達できない、3メートルを超す丘陵を魔法陣で作った。

 馬車で丘陵を登っていけば、上げられた吊り橋が見えてくる。
 そして丘陵の頂上から先は、垂直な壁になっている。
 馬が一歩でも前に進むと、真下に掘られた巨大な落とし穴に落ちるという、魔獣討伐の経験を生かした彼等らしい特別仕様の罠が仕掛けてあった。

「トーマス王子のご命令で、お前たちを逃がすことはできない。
 無駄な抵抗をせず投降すれば、トーマス王子なら命までは取られないだろう。
 もしも抵抗し、民にケガを負わせたり門を越えようとしたら、覇王様直属部隊である魔獣討伐専門部隊員である私が鉄槌を下す!」

 門まで到着した貴族たちは、突然現れた丘陵に驚きはしたが、こんな丘など越えられると鼻で笑い、魔獣討伐専門部隊員の最後通告を無視した。
 鉄槌を下すぞと、親切に忠告したにも拘らずだ。

 その結果、馬車諸共落とし穴に落ちる貴族が続出した。
 でもまあ親切過ぎる隊員は、大ケガを負わないよう落とし穴の半分を水で満たしておいた。

 駆り出された被災者たちの仕事は、ずぶ濡れになった貴族や馬、荷物や馬車の車体を牽き上げる作業になった。
 優しい隊員は魔法を使って、地面を半分だけ隆起させ回収作業を容易にした。

 勿論、少し頭の働く貴族もおり、彼等は危険を察知し引き返していった。
 トーマス王子が命令したのは、逃げる貴族を捕らえて役場まで連れてこいというものだったから、逃げようとしない貴族は捕える必要などない。


 うちの可愛いランドルの守護妖精ユテとエリスの守護妖精トワが、魔獣討伐専門部隊の3人を見守り、随時状況を俺に報告してくれていた。
 だから、逃げた貴族が落とし穴に落ちた話を聞いた仲間は、皆ニヤリと笑った。

「さすが魔獣討伐専門部隊の精鋭ですね」

覇王軍本部で報告を一緒に聞いていたボンテンクが感心して言えば、皆もうんうんと頷く。

 まあ何度も何度も覇王軍や王立高学院特別部隊と一緒に活動してきたんだから、その実力も人間性もよく分かっているってもんだ。
 その優秀さを知らなかったのは、トーマス王子や側近たちの方だな。

 ……強力な護衛を外したことを、後悔することにならなければいいが。


 様々なことがあった1日だが、7人の仲間が妖精と契約するという嬉しいこともあった。

「ああ、今でも信じられませんわ。私が妖精と契約できるなんて夢のようです。
 ノエル様に無理を言って、今回の活動に参加させていただいて本当に良かったです」

胸に両手を当て嬉しくてたまらないと熱い息を吐きながら、俺に感謝の礼をとるのは王立高学院特別部隊に入った第三王女のローリエさんだ。

 契約した可愛い女の子の妖精は、俺が昼に登っていた巨木に宿っていた妖精で、エクレアの協力者でもあった。
 名前はリルで、古代語で月という意味だ。真っ白い髪からイメージしたらしい。

 ローリエ王女は生まれてからずっと、母方の田舎の子爵家で育てられてきたせいか、簡単な料理なら作れるし、お菓子を作るのが趣味らしい。
 だから最近は、仲間の食事当番を積極的にやってくれるし、今も俺のスープ作りを手伝ってくれている。

 ……ああ、なんだか癒されるな。
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