キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

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天の導き

336ー2 激流(14)ー2

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 ◇◇ ラレスト王国 シーブル王 ◇◇

 小賢しい覇王の従者は、今頃屋敷に突入し首を捻っているだろう。
 この私をどうこうしようなどと思い上がった愚か者には、わたし自ら鉄槌を下してやろう。
 先ずは、生意気なトーマスだ。気弱な甘ちゃんを殺すことなど造作もない。

「いました。供は3人だけのようです。私は魔法が得意ではありませんので、声を掛けて動きを止めます」

 警備隊員は私の前で跪くと、覚悟を決めた表情でそう言った。

 ……如何にも王である私に忠誠を誓っているかのような行動だ。だが、お前が金貨1枚で裏切った者ではないと確信が持てない。

 ……まあいい、もしも裏切っていたなら一緒に殺してしまえばいい。

「あの~、トーマス王子でいらっしゃいますか? ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」と、警備隊員はトーマスに声を掛けた。

「お前は誰だ!」と、トーマスの側に居た男が緊張した声で問い質す。

 ……どうやら警備隊員は、トーマスとは繋がっていなかったようだ。  

 できるだけ油断させるような会話をしろと命じておいたので、警備隊は今後どう動けばいいのか質問しているはずだ。
 警備隊員はいい具合に私の方を向き、トーマスたちには背中を向けさせるよう位置取りをしていく。
 
 完全に意識が後方から逸れたら攻撃だ。

 私は得意な魔法陣の詠唱を開始し、発動の直前で警備隊員に向かって手を上げた。
 話の途中だが、警備隊員はくるりと身を反転させ一目散に逃げていく。
 何かおかしいと思った様子の部下が、こちらに向かって振り返った。

「遅い」と言って私が笑ったのと、攻撃が放たれたのは同時だった。

 無数の尖った拳大の石が飛んでいく。

 私が最も得意とする、上級風魔法と土魔法を組み合わせた攻撃である。
 これを避けることなど不可能だ。
 私の攻撃に気付いた男は、危ないと叫ぶ時間も無く、目を見開き、この世の最後の瞬間でも見たかのような絶望的な表情で動く。

 着弾する様を見て笑ってやりたいところだが、此処でグズグズしてはいられない。
 反撃されることを考慮し、私は直ぐに身を翻し全速力で走り出す。
 そして絶対に攻撃が届かないと思われる場所まで来たところで、ゆっくりと振り返り、全員が瀕死、又は倒れ伏しているであろう様を確認する。

 私の目に映ったのは、2人の男が倒れ伏し、1人がうずくまり、もう1人は立ったまま右腕を押さえている様だった。

 ……チッ、あの男、トーマスの盾になったか! 

 立っているのは間違いなくトーマスだ。腕は負傷しているようだが生きている。
 怒りの形相で「卑怯者!」と叫ぶ声が聞こえるが、負け犬の遠吠えだ。
 そもそも、他国を侵略してきた無法者はお前の方だ。

 ……まあいい、お前など、いつでも殺せる。
 ……トーマス、私の国では、上級貴族が無礼者に魔法攻撃を仕掛けることは違法ではない。

 
 薄ら笑いをしながら入り組んだ路地を抜け、覇王軍本部の場所へと急ぐ。
 今頃生意気なガキたちは、俺を見付けられず混乱しているだろう。
 あんな大声で作戦を話すとは、間抜けもいいところだ。
 お前たちが居ない隙に、再び覇王軍本部を攻撃してやろう。

 ……まさか2度も攻撃を受けるとは思うまい。

 時刻は午後6時を過ぎ、辺りは徐々に薄暗くなってきた。
 覇王の小細工のせいで逃げようとする貴族が道を塞ぎ、王都の中心地は混乱しているだろう。

「覇王軍も王立高学院特別部隊も、そろそろ活動を止めて本部に戻る頃だ。
 テントが燃えれば街が明るくなっていいだろう。まあ、多少人も燃えるかもしれないが。
 ハッハッハ、私の国に勝手に侵入した罪を償わせてやろう」

 そう呟いた途端、頭上から熱く燃えた小石のようなモノが、パラパラと音をたて降り注ぎ始めた。

「な、何だこれは、あつ、熱い! クソっ、やめろー!」

 咄嗟に頭を守ろうとして身を屈めるが、背中や手に激痛が走る。
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