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天の導き
327ー2 激流(5)ー2
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結局、王都の別邸に到着した頃には、すっかり日が暮れていた。
王都内はまだ混乱していて、別邸に向かう道は瓦礫で塞がれており、馬車で通行するには回り道をせざるを得なかったのだ。
別邸を管理していた使用人は2人で、近いうちに側室が住む可能性があると言ってあったので、綺麗に整えられていたが食事の用意までは頼めなかった。
王宮の様子を見に行った側近のデロルが戻るまで、マジックバッグに収納してある非常食で我慢するしかない。
「王様、申し上げにくいのですが、王宮は全壊しておりました。
執務棟もほぼ全壊しており、逃げ遅れた者多数。王妃様と宰相は行方不明のようです。
おそらく、地下室に避難されているのではないでしょうか」
「なに、全壊? 執務棟までか!」
予想していたとはいえ、まさか全壊していたとは信じられない。
デロルが言うように、王妃や宰相は地下に避難しているのだろう。だが、瓦礫が地下の入り口も塞いでいるため、直ぐに救出するのは困難らしい。
既に日は暮れている。焦っても仕方ない。
義父である宰相は、自分用のマジックバッグを持っているから、2・3日閉じ込められても大丈夫だろう。
……クソ! この損失を補填する財源がない。
翌朝、王都内は混乱しているから危険だと、外出するのを側近のデロルや警備隊長に止められた。確かに王を護衛する者が少な過ぎる。
しかも私が外出していたことは、宰相と王妃しか知らない。
今頃は多くの貴族や役人、住民たちが王を助けようと作業を開始してるだろう。
昼頃戻ってきたデロルが、信じられない報告をした。
「なんだと! 誰も作業をしていないだと!」
「申し訳ありません王様。執務棟で働いていた役人が被災し、瓦礫撤去を行えと命じる役人が行方不明者でして、指揮系統が全く機能しておりません」
王が瓦礫の下に居るかもしれないというのに、何故誰も作業をしない?
民は何をしているのだ!
被災しなかった貴族どもは何をしている!
「それでは、執務棟で働いていた者の多くは死んだというのか?」
「いえ、それはまだ確認できていません」
押さえていた怒りが込み上げるが、デロルにぶつけても仕方ない。
思っていたより被害は大きく、国の中枢で働く人材が失われたかもしれないと思うと溜息もでない。
「住む家を失くした多くの民が役場に押し掛け、中央広場は行き場を失くした者で溢れており危険です。
王宮で働いていた貴族の家族が、心配そうに王宮に集まっていますが、成す術がないようです」
申し訳なさそうに下を向いて報告する警備隊員は、当面の食料を調達してきますと言って、直ぐに部屋を出ていった。
「デロル、私がここに居ることは告げず、生き残っている貴族たちに瓦礫の撤去をするよう命じろ。
被災していない住民を使えば、1日で地下室から救出できるだろう」
デロルに新しい指示を出し、私はこれからのことを考える。
王都をこのままにして、王である私が逃げるわけにはいかない。
よし、瓦礫の撤去作業が半分くらい終わったところで、皆の前に姿を現すことにしよう。
そうだ、私は王都の周辺を視察していて難を逃れたのだ。
王の帰還に、貴族も民も歓喜するだろう。
……この国難を、私は必ず乗り越えてみせる。
……この私が直接指揮を執り王都を復興すれば、真の国王と皆が認めるだろう。
夕方、別邸のメイドが耳を疑う報告をした。
「先程、覇王軍が到着し、王都内に残っていた魔獣の討伐を始めました」
「なに、覇王軍だと?」
救援要請など出した覚えもないのに、何故やって来た?
勝手に復興の指揮を執ろうとするなら、許すわけにはいかない。
夕食後に戻ってきたデロルは、青い顔をして信じられないことを言った。
「トーマス王子が、王宮の敷地を一部占拠しています」と。
王都内はまだ混乱していて、別邸に向かう道は瓦礫で塞がれており、馬車で通行するには回り道をせざるを得なかったのだ。
別邸を管理していた使用人は2人で、近いうちに側室が住む可能性があると言ってあったので、綺麗に整えられていたが食事の用意までは頼めなかった。
王宮の様子を見に行った側近のデロルが戻るまで、マジックバッグに収納してある非常食で我慢するしかない。
「王様、申し上げにくいのですが、王宮は全壊しておりました。
執務棟もほぼ全壊しており、逃げ遅れた者多数。王妃様と宰相は行方不明のようです。
おそらく、地下室に避難されているのではないでしょうか」
「なに、全壊? 執務棟までか!」
予想していたとはいえ、まさか全壊していたとは信じられない。
デロルが言うように、王妃や宰相は地下に避難しているのだろう。だが、瓦礫が地下の入り口も塞いでいるため、直ぐに救出するのは困難らしい。
既に日は暮れている。焦っても仕方ない。
義父である宰相は、自分用のマジックバッグを持っているから、2・3日閉じ込められても大丈夫だろう。
……クソ! この損失を補填する財源がない。
翌朝、王都内は混乱しているから危険だと、外出するのを側近のデロルや警備隊長に止められた。確かに王を護衛する者が少な過ぎる。
しかも私が外出していたことは、宰相と王妃しか知らない。
今頃は多くの貴族や役人、住民たちが王を助けようと作業を開始してるだろう。
昼頃戻ってきたデロルが、信じられない報告をした。
「なんだと! 誰も作業をしていないだと!」
「申し訳ありません王様。執務棟で働いていた役人が被災し、瓦礫撤去を行えと命じる役人が行方不明者でして、指揮系統が全く機能しておりません」
王が瓦礫の下に居るかもしれないというのに、何故誰も作業をしない?
民は何をしているのだ!
被災しなかった貴族どもは何をしている!
「それでは、執務棟で働いていた者の多くは死んだというのか?」
「いえ、それはまだ確認できていません」
押さえていた怒りが込み上げるが、デロルにぶつけても仕方ない。
思っていたより被害は大きく、国の中枢で働く人材が失われたかもしれないと思うと溜息もでない。
「住む家を失くした多くの民が役場に押し掛け、中央広場は行き場を失くした者で溢れており危険です。
王宮で働いていた貴族の家族が、心配そうに王宮に集まっていますが、成す術がないようです」
申し訳なさそうに下を向いて報告する警備隊員は、当面の食料を調達してきますと言って、直ぐに部屋を出ていった。
「デロル、私がここに居ることは告げず、生き残っている貴族たちに瓦礫の撤去をするよう命じろ。
被災していない住民を使えば、1日で地下室から救出できるだろう」
デロルに新しい指示を出し、私はこれからのことを考える。
王都をこのままにして、王である私が逃げるわけにはいかない。
よし、瓦礫の撤去作業が半分くらい終わったところで、皆の前に姿を現すことにしよう。
そうだ、私は王都の周辺を視察していて難を逃れたのだ。
王の帰還に、貴族も民も歓喜するだろう。
……この国難を、私は必ず乗り越えてみせる。
……この私が直接指揮を執り王都を復興すれば、真の国王と皆が認めるだろう。
夕方、別邸のメイドが耳を疑う報告をした。
「先程、覇王軍が到着し、王都内に残っていた魔獣の討伐を始めました」
「なに、覇王軍だと?」
救援要請など出した覚えもないのに、何故やって来た?
勝手に復興の指揮を執ろうとするなら、許すわけにはいかない。
夕食後に戻ってきたデロルは、青い顔をして信じられないことを言った。
「トーマス王子が、王宮の敷地を一部占拠しています」と。
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