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天の導き
325ー1 激流(3)ー1
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◇◇ トーマス王子 ◇◇
覇王軍より遅れること半日、私は魔法省の精鋭7人と魔獣討伐専門部隊の3人と側近2人を連れ王都を出発した。
副学院長から大量の薬品を預かり、私は王の命を受けた偽王討伐責任者として赴く。
昨日、学院長である側室フィナンシェ様が王宮に戻られ、私と父上と宰相に覇王様の命令を伝えられた。
学院長によると、今回の覇王軍・王立高学院特別部隊の出動は、覇王様個人の命令なので、コルランドル王国として動いた訳ではないという。
「どうやら覇王様は、この機会に逆賊を始末しろとトーマス王子に命じられたようですな。
国と国との戦争ではなく、混乱に乗じて勝手に領地を乗っ取った逆賊を、王子として捕える、又は成敗するという筋書きでしょう」
宰相であるマリード侯爵は、にやりと笑って覇王様のご命令を解釈をする。
「トーマスの行動は、覇王様や覇王軍の活動とは一切関係なく、魔獣の討伐を怠り、民を苦しめている偽王に鉄槌を下すための行いであり、鉄槌を下せと命じたのは、コルランドル国王でなければならない」
「そうですわ王様。トーマス王子は、自国の民を助けよという覇王様命令と、逆賊を討伐せよという王命に従い向かうのです。
覇王様に頂いたこの機会を逃してしまうと、失いかけている信用を本当に失ってしまうでしょう」
学院長はいつもの厳しい口調で、父上に意見された。
失いかけた信用・・・それは、王が直々に任命した【王宮対策室】の者が、自分の仕事を他人に丸投げし、あろうことか支援物資を横流しし利益を得ていたという、あり得ない不祥事が原因だった。
しかも、その不正を暴いたのは勇者であるラリエス君だ。
国王の信用は失墜し、役人や貴族に対する民の怒りは凄まじいものだった。
ラリエス君の機転のお陰で、冒険者ギルド前で公開裁判を行うことになり、民の怒りは不正を行った役人や関連した商人に直接向けられた。
しかも私が駆け付けた時には、王立高学院特別部隊の才女2人が、これでもかと罪を明らかにし、そこまでやる? っていうくらいに断罪していた。
その流れを外した処罰を与えるなんて、気の弱い……いや、正しい判決を言い渡す役目の私にできるはずもなかった。
正式な刑罰は、法務大臣であるレイム公爵が下すだろうと民に説明したが、主犯の役人は爵位剥奪、関係した役人も罷免のうえ降爵、責任者は免職し罰金刑を言い渡すと宣言してしまった。
真面目に任務を果たしていた者は残留させたが、新たな責任者になったのは、第一側室のユリアーナ様だった。
ユリアーナ様いわく「ここで王族としての責務を果たさなければ、レイトルの婚約者に逃げられてしまうわ」とのこと。
……確かにカイヤさんは、王立高学院特別部隊のリーダーだったな。
今回の任務は、秘密裏に遂行されることが望ましい。
だから王宮の馬車は使わず、全員が馬で現地に向かう。
もちろん、途中でホテルには泊まらず野営する。
魔法省改革の成果を試す良い機会であり、与えられた任務の責任は大きい。
先行する覇王軍が魔獣を討伐しながら進むので、きっと旧ヘイズ領都に到着する頃には、覇王軍に追いつくことができるだろう。
我々の目的は、王命により偽王シーブルと死んだはずのワートン公爵を捕縛することだ。
……この2人さえ押さえれば、あとは有象無象の輩に過ぎない。
シーブルが独立の準備をしていると情報を掴んだ時、勝手な行動を許せないと、実は私も王様も軍を送ろうと考えていた。
だが、今はそんなことをしている時ではないと、激怒した弟のルフナに止められた。
覇王様は、いずれ自滅する者に金と時間を掛け、兵士や民の命を危険に曝そうとするなど、愚か者のすることだと仰った。
本当だろうかと疑念を抱いていた時期もあったが、覇王様の読みに間違いはなかった。
覇王軍より遅れること半日、私は魔法省の精鋭7人と魔獣討伐専門部隊の3人と側近2人を連れ王都を出発した。
副学院長から大量の薬品を預かり、私は王の命を受けた偽王討伐責任者として赴く。
昨日、学院長である側室フィナンシェ様が王宮に戻られ、私と父上と宰相に覇王様の命令を伝えられた。
学院長によると、今回の覇王軍・王立高学院特別部隊の出動は、覇王様個人の命令なので、コルランドル王国として動いた訳ではないという。
「どうやら覇王様は、この機会に逆賊を始末しろとトーマス王子に命じられたようですな。
国と国との戦争ではなく、混乱に乗じて勝手に領地を乗っ取った逆賊を、王子として捕える、又は成敗するという筋書きでしょう」
宰相であるマリード侯爵は、にやりと笑って覇王様のご命令を解釈をする。
「トーマスの行動は、覇王様や覇王軍の活動とは一切関係なく、魔獣の討伐を怠り、民を苦しめている偽王に鉄槌を下すための行いであり、鉄槌を下せと命じたのは、コルランドル国王でなければならない」
「そうですわ王様。トーマス王子は、自国の民を助けよという覇王様命令と、逆賊を討伐せよという王命に従い向かうのです。
覇王様に頂いたこの機会を逃してしまうと、失いかけている信用を本当に失ってしまうでしょう」
学院長はいつもの厳しい口調で、父上に意見された。
失いかけた信用・・・それは、王が直々に任命した【王宮対策室】の者が、自分の仕事を他人に丸投げし、あろうことか支援物資を横流しし利益を得ていたという、あり得ない不祥事が原因だった。
しかも、その不正を暴いたのは勇者であるラリエス君だ。
国王の信用は失墜し、役人や貴族に対する民の怒りは凄まじいものだった。
ラリエス君の機転のお陰で、冒険者ギルド前で公開裁判を行うことになり、民の怒りは不正を行った役人や関連した商人に直接向けられた。
しかも私が駆け付けた時には、王立高学院特別部隊の才女2人が、これでもかと罪を明らかにし、そこまでやる? っていうくらいに断罪していた。
その流れを外した処罰を与えるなんて、気の弱い……いや、正しい判決を言い渡す役目の私にできるはずもなかった。
正式な刑罰は、法務大臣であるレイム公爵が下すだろうと民に説明したが、主犯の役人は爵位剥奪、関係した役人も罷免のうえ降爵、責任者は免職し罰金刑を言い渡すと宣言してしまった。
真面目に任務を果たしていた者は残留させたが、新たな責任者になったのは、第一側室のユリアーナ様だった。
ユリアーナ様いわく「ここで王族としての責務を果たさなければ、レイトルの婚約者に逃げられてしまうわ」とのこと。
……確かにカイヤさんは、王立高学院特別部隊のリーダーだったな。
今回の任務は、秘密裏に遂行されることが望ましい。
だから王宮の馬車は使わず、全員が馬で現地に向かう。
もちろん、途中でホテルには泊まらず野営する。
魔法省改革の成果を試す良い機会であり、与えられた任務の責任は大きい。
先行する覇王軍が魔獣を討伐しながら進むので、きっと旧ヘイズ領都に到着する頃には、覇王軍に追いつくことができるだろう。
我々の目的は、王命により偽王シーブルと死んだはずのワートン公爵を捕縛することだ。
……この2人さえ押さえれば、あとは有象無象の輩に過ぎない。
シーブルが独立の準備をしていると情報を掴んだ時、勝手な行動を許せないと、実は私も王様も軍を送ろうと考えていた。
だが、今はそんなことをしている時ではないと、激怒した弟のルフナに止められた。
覇王様は、いずれ自滅する者に金と時間を掛け、兵士や民の命を危険に曝そうとするなど、愚か者のすることだと仰った。
本当だろうかと疑念を抱いていた時期もあったが、覇王様の読みに間違いはなかった。
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