キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん

文字の大きさ
上 下
606 / 709
笑顔と涙

317ー1 勇者伝説(2)ー1

しおりを挟む
 ◇◇ 勇者ラリエス ◇◇

 久し振りに覇王軍の隊服で下級地区に行く。
 冒険者ギルド王都支部に向かいながら町の様子を観察すると、王都の復興は順調のようだ。

 勇者である私に気付いた子供が「勇者様だ!」と声を上げると、他の者も視線を向け「いつもありがとうございます」とか「お疲れ様です」と次々に声を掛けてくれる。

 冒険者ギルドの直ぐ近くにある一番大きな避難所には、まだ多くの人々が暮らしている。
 長い避難所生活を強いられている西地区住民は、そろそろ疲れが見え始める頃だろう。

 同時に、【王立高学院特別部隊】から救済活動をバトンタッチされた【王宮対策室】の役人たちが、手を抜く頃だとアコル様は懸念されている。
 そこで睨みを利かす役目も兼ね、私は勇者として励ましの言葉を掛けに行く。

 私より覇王様の方が被災者は喜ぶのではと言ったのだが、アコル様いわく、平民出の覇王より、名門公爵家の嫡男が慰問に行く方が、貴族に対する不満が減り、勇者様は平民の味方なんだと思い嬉しくなるんだよって。

 それと【王宮対策室】の役人を指導する姿を皆に見せると、国はちゃんと西地区を復興してくれると信じることができ、もう少し避難生活を頑張ろうと思えるだろうって・・・


 初代覇王様時代に公爵になったワイコリーム家の祖先は、残した指示書の中で、次の覇王様は市井で育つことで多くの民の心を癒すだろうと書かれている。
 そして指示書の最後には、子孫は覇王様を探し出し、【勇者】としてお支えしろと書いてあった。

 あまりにも古い書物で、羊皮紙の文字が擦れており、つい最近まで【勇者】ではなく【従者】だと思われていた。
 ワイコリーム公爵家の文官が年末に全文を調べ直したところ、【勇者】として相応しい働きをせよと書かれた部分を発見した。

 アコル様が不敬罪から私を助けるため、突然私を【勇者】だと発表されたと思っていたので、私はずっと居心地が悪かった。
 側近に選ばれただけで満足だったし、【勇者】なんて大仰な身分が重すぎて、自分に相応しくないと心が苦しかった。

 でも、指示書にも【勇者】という言葉が書いてあったことで、少し自信が持てるようになった。

 父上は、ご先祖様の指示書も大事だが、今代の覇王であるアコル様が【勇者】だと任命されたことに意味があり、アコル様のご期待に応えて【勇者】としての働きをすることが大事なのだと仰った。

 ……確かにそうだ。信じるべきはアコル様だ。

 ついアコル様が身近すぎて思い違いしそうになるが、アコル様は偉大なる【覇王】なのだ。
 だから、今回与えられたミッションを完璧にこなし、【勇者伝説】?をつくらねばならない。



 避難所前に到着すると、なんだか微妙な空気が流れていた。

 この避難所には女性や子供が多く身を寄せており、日中は元々の仕事をしたり復興作業をしいる。
 残っているのは、炊き出しや子守りなどの仕事をしている者と子供で、この時間は人数が少ない。

 どうしたのだろうかと、こっそり建物の陰に隠れるようにして様子を窺っていると、男性の大きな声が聞こえてきた。

「肉を入れたい? はあ? 国の世話になっている厄介者が、毎日肉を食べたいと言うのか!」

本部テントで食事をしていた青シャツの役人が、ガラの悪い態度で、小さな子供を連れた女性に怒鳴っている。

「せめて子供の分だけでも、昼のスープに肉を入れてください。有料の炊き出しには肉を入れると指示があったはずです」

 必死に頼んでいる女性は、どうやら炊き出しの仕事をしている女性のようでエプロン姿だ。
 自分が受けていた指示と違うと女性が言うと、今度は派手なシャツの男が、ドン!と乱暴にテーブルを叩き悪人顔で女性を睨み付けて怒鳴る。

「うるさい! そんなに肉が食べたければ冒険者ギルドで恵んでもらえ!」と。

 ……なんという言い草だ! それが被災者に対して取るべき態度なのか?!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...