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笑顔と涙

309ー2 マリード領のグレードラゴンー2

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「あれ、マサルーノ先輩の実家なんですか? た、大変だ。既に半壊、いえ、もう全壊しそうです」

 大きな翼で強風を作り出し、グレードラゴンは木造部分から倒壊させ、次いで屋敷の窓ガラスを全て割り、建物まで崩壊させていく。

「ブラックドラゴンの洗脳時間には制限があるか、一定の距離を移動すると洗脳限界がくるのかもしれない。
 マリード領の領主屋敷まで洗脳が持たず、グレードラゴンは目的地だと思っている可能性がある」

 あと少しで到着するというのに、豪奢じゃないけど落ち着いた感じの4階建の屋敷は、残念ながら見る影もない程に倒壊してしまった。
 そして倒壊した建物の瓦礫を、近くの町に向かって飛ばし始める。

「ランドル、素材はいいから完膚なきまでにヤレ。いや、素材は見舞いとして置いていくから、首から上を狙ってくれ!」

『了解アコル。任せて!』と、ランドルは元気よく返事をする。

 グレードラゴンの背後から斜め上に移動して、ランドルは巨大な炎の玉を吐き、グレードラゴンの頭部に命中させる。
 ドゴンと微妙な音がして、グレードラゴンは落下しドーンと地響きを轟かせ絶命した。
 

 一旦地上に降りて、マサルーノ先輩の家族の安否を確かめることにする。
 伯爵屋敷と町の間に落下したグレードラゴンを、俺は予備のマジックバッグに収納し、ルフナ王子と一緒に倒壊した屋敷に向かって走る。

 恐らく屋敷の直ぐ近くに避難用の地下室が作ってあるはずだが、瓦礫が散乱していて見付からない。

「グレードラゴンは討伐したぞ! 誰かいないか」と、ルフナ王子が大声で叫ぶ。

 すると、屋敷をぐるりと囲っていた壁の直ぐ近くから、「助けてくれー!」と声が聞こえてきた。
 どうやら地下室の入り口が、倒れた壁で塞がれてしまったようだ。
 直ぐに魔法を使って瓦礫を撤去する。

「私は覇王軍の第六王子ルフナだ。領主殿はいらっしゃるか?」

瓦礫の下から現れた鉄製の扉を開きながら、ルフナ王子が声を掛ける。

「旦那様は屋敷の地下室にいらっしゃいます。ここに居るのは使用人だけです」

階段を上がりながら答えたのは、見覚えのある50歳くらいの執事殿だった。

「ドラゴンは、ドラゴンはどうなったのですか?」

執事殿の後ろから現れたのは、美味しい食事や客室を用意してくれた侍女長だ。
 侍女長は、昔マサルーノ先輩の乳母をしていたそうで、今だに子ども扱いされるとぼやいていた。

 二人の後ろに見えるのは10人くらいの使用人たちで、全員ケガもなく無事に地下室から出てきた。
 ルフナ王子だと聞き、緊張しながら地上に出てきた使用人の皆さんは、俺の存在に気付くと慌てて最上級の礼をとっていく。

「緊急時だ、覇王にも王子にも礼は要らない。早く伯爵を助け出すぞ」

 俺の号令を聞いて立ち上がった使用人の皆さんは、完全に倒壊している屋敷を見て、呆然と立ち尽くしたり、地面に座り込んで泣き始める。
 それでも執事殿と侍女長は、主の安否を確認するため、涙を堪えて駆け出していく。


 屋敷の地下室は2つあったが、倒壊した屋敷の重みで、片方は完全に崩落してしまっていた。
 半分だけ押し潰されていた方のドアをなんとかこじ開け、中で倒れていた者を安全な場所へと移動させる。

 軽い打撲と軽傷を負い、気を失って運び出されたのはマサルーノ先輩の母上だ。
 一緒に運び出された先輩の妹は、右足と右手が石の下敷きになり重傷を負っていた。

 直ぐに【慈悲の雫】のハイポーションを取り出し、裂傷と骨折部分を治療していく。
 残念だが、一緒にいたメイド2人は死亡が確認された。

 ……どうやらサギル伯爵は、崩落した地下室の方に避難していたようだ。

 治療中、ルフナ王子が指揮を執り、魔法を駆使して崩落している地下室の瓦礫を撤去していく。
 大きな被害が出なかった町の住民たちは、領主屋敷の惨状を見て、作業道具を持ち駆け付けてきた。

 皆は懸命に協力し合い救出作業を行ったが、30分後、伯爵は大事にそうにマジックバッグを抱えたままの姿で、警備隊長は伯爵を庇うような姿で発見された。
 悔しいが、二人は既に亡くなっていた。
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