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絶望と希望
294ー1 同時襲撃の恐怖(10)ー1
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嫌な予感というものは、何故か当たってしまう。
王都の火災を消すのは最優先事項だが、リドミウム領のティー山脈から溢れた魔獣を討伐することも重要事項だ。
「ランドル、エリスにそのままリドミウム領に向かうよう伝えてくれ。
俺は今、王都から離れられない。リドミウム領のブラックドラゴン討伐は、ラリエスたちに任せる。
それが終わったら、ランドルは上空から、俺に避難経路を教えてくれ」
エクレアの報告を聞いた俺は、直ぐに手を打つため相棒の光のドラゴンに指示を出す。
『了解アコル』
ランドルは元気よく返事をして、直ぐに母竜であるエリスに念話を飛ばす。
……ここは、ラリエスとマサルーノ先輩、そしてエリスにリドミウム領を任せるのがベストだ。
1分1秒が惜しい俺は、ティー山脈から溢れた魔獣の詳しい情報をエクレアから聴きながら、西地区の火災現場へと走る。
ティー山脈に現れたブラックドラゴンは1頭だが、魔獣は2か所から溢れ出たらしい。
地下室から連れ出した冒険者たちも、俺の後ろに続いて走る。
Bランク以上の冒険者は、昨日から北地区の消火活動と魔獣討伐で留守だったため、残っていたのはCBランク以下の冒険者と職員だけで、その中でも即座に動けそうな者を30人選んだ。
「なんてことだ、このままでは大惨事になってしまうぞ」
西地区が燃えていると知らなかった冒険者が、幾筋も上がっている灰色の煙を見ながら焦った声を上げる。
「350年前の大火の時は、下級地区の半分を焼失し、死者は1万人を超えていた。
他の地区にまで延焼したら、昔より人口の増えている現在、どれだけの人が犠牲になるか分からんぞ!」
冒険者ギルド本部で働く職員の男が、冒険者たちに檄を飛ばす。
彼は、伯爵家の三男で事務職員だが、40歳という年齢にも拘らず覇王講座の魔法攻撃の試験にパスしていた。
そんな強者の彼でも、予想される被害に顔色を青くする。
王都の下級地区の中でも、西地区は道が入り組んでいる。
南と東地区は過去の大火で建物を焼失し、当時の国王が町を碁盤の目のように整備したと歴史書に書いてあった。
だが、その時に難を逃れた西地区は、今でも古い建物が多く残っている。
火災を鎮火させるため上空から雨を降らせることも可能だが、俺の魔法陣だとやり過ぎて、地下室を水没させる可能性がある。
高学院の学生が消火活動を始めると報告があったから、俺は冒険者と一緒に避難誘導をする方がいいだろう。
「ここから先は3つに分かれる。
高学院の学生が魔法陣で消火活動を開始しているはずだから、皆は住民の避難誘導をしてくれ。
現在燃えていない場所の地下室に避難している者にも声を掛け、煙に巻かれないように逃がせ!
炎の影響で風が起こる可能性もある。各自状況を見て的確に判断してくれ」
西地区の大通りまで来たところで、俺は連れてきた30人に指示を出す。
「承知しました覇王様!」
冒険者の役割の中に消火活動も含まれているので、半数の冒険者は経験があるようだ。
皆は頼もしい返事をして、リーダーが即座に班分けを開始した。
最も激しく燃えていると思われる地点に向かって移動を始めると、多くの住民が恐怖に顔を強張らせ、こちらに向かって逃げてくるのが見えた。
「覇王アコルだ! ブラックドラゴンは俺が討伐した!
子供や年配者を守りながら、落ち着いて南地区の軍演習場に向かえ!」
俺は皆からよく見えるよう土魔法で即座に演台を作り出し、遠くまで、西地区全体に聞こえるようにと願って風魔法で声を飛ばす。
火災とブラックドラゴンの恐怖で混乱し、無我夢中で逃げていた西地区の住民たちは、突然聞こえてきた俺の声に驚きキョロキョロと辺りを見回す。
そして、土の演台の上に立つ俺の姿を見付けると立ち止まり、本当に覇王なのかと目を凝らす。
王都の火災を消すのは最優先事項だが、リドミウム領のティー山脈から溢れた魔獣を討伐することも重要事項だ。
「ランドル、エリスにそのままリドミウム領に向かうよう伝えてくれ。
俺は今、王都から離れられない。リドミウム領のブラックドラゴン討伐は、ラリエスたちに任せる。
それが終わったら、ランドルは上空から、俺に避難経路を教えてくれ」
エクレアの報告を聞いた俺は、直ぐに手を打つため相棒の光のドラゴンに指示を出す。
『了解アコル』
ランドルは元気よく返事をして、直ぐに母竜であるエリスに念話を飛ばす。
……ここは、ラリエスとマサルーノ先輩、そしてエリスにリドミウム領を任せるのがベストだ。
1分1秒が惜しい俺は、ティー山脈から溢れた魔獣の詳しい情報をエクレアから聴きながら、西地区の火災現場へと走る。
ティー山脈に現れたブラックドラゴンは1頭だが、魔獣は2か所から溢れ出たらしい。
地下室から連れ出した冒険者たちも、俺の後ろに続いて走る。
Bランク以上の冒険者は、昨日から北地区の消火活動と魔獣討伐で留守だったため、残っていたのはCBランク以下の冒険者と職員だけで、その中でも即座に動けそうな者を30人選んだ。
「なんてことだ、このままでは大惨事になってしまうぞ」
西地区が燃えていると知らなかった冒険者が、幾筋も上がっている灰色の煙を見ながら焦った声を上げる。
「350年前の大火の時は、下級地区の半分を焼失し、死者は1万人を超えていた。
他の地区にまで延焼したら、昔より人口の増えている現在、どれだけの人が犠牲になるか分からんぞ!」
冒険者ギルド本部で働く職員の男が、冒険者たちに檄を飛ばす。
彼は、伯爵家の三男で事務職員だが、40歳という年齢にも拘らず覇王講座の魔法攻撃の試験にパスしていた。
そんな強者の彼でも、予想される被害に顔色を青くする。
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だが、その時に難を逃れた西地区は、今でも古い建物が多く残っている。
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高学院の学生が消火活動を始めると報告があったから、俺は冒険者と一緒に避難誘導をする方がいいだろう。
「ここから先は3つに分かれる。
高学院の学生が魔法陣で消火活動を開始しているはずだから、皆は住民の避難誘導をしてくれ。
現在燃えていない場所の地下室に避難している者にも声を掛け、煙に巻かれないように逃がせ!
炎の影響で風が起こる可能性もある。各自状況を見て的確に判断してくれ」
西地区の大通りまで来たところで、俺は連れてきた30人に指示を出す。
「承知しました覇王様!」
冒険者の役割の中に消火活動も含まれているので、半数の冒険者は経験があるようだ。
皆は頼もしい返事をして、リーダーが即座に班分けを開始した。
最も激しく燃えていると思われる地点に向かって移動を始めると、多くの住民が恐怖に顔を強張らせ、こちらに向かって逃げてくるのが見えた。
「覇王アコルだ! ブラックドラゴンは俺が討伐した!
子供や年配者を守りながら、落ち着いて南地区の軍演習場に向かえ!」
俺は皆からよく見えるよう土魔法で即座に演台を作り出し、遠くまで、西地区全体に聞こえるようにと願って風魔法で声を飛ばす。
火災とブラックドラゴンの恐怖で混乱し、無我夢中で逃げていた西地区の住民たちは、突然聞こえてきた俺の声に驚きキョロキョロと辺りを見回す。
そして、土の演台の上に立つ俺の姿を見付けると立ち止まり、本当に覇王なのかと目を凝らす。
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