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絶望と希望

293ー2 同時襲撃の恐怖(9)ー2

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 建物の中に避難していた人々が、炎の攻撃に驚き慌てて外に飛び出している。
 飛び出してきた人間には興味がないのか、ブラックドラゴンは炎を吐きながら移動し、ただ炎の攻撃を楽しんでいるかのように見える。

 ……この先は初級学校や商業ギルドだ。ここで止める!

「よし、今だランドル」

 俺の合図を聞いたランドルが、ブラックドラゴンの腹や翼に向かって炎の散弾を打ち込んでいく。

 ブラックドラゴンの斜め下にピタリと付けたランドルの炎の散弾は、俺の頭くらいの大きさで、炎は青に近い高温だ。
 一度に10発を同時に放ち、その狙いも完璧だ。

 自分の攻撃に集中していたブラックドラゴンは、ランドルが迫ってきたことに全く気付いていなかたった。
 ランドルの炎の散弾は、ブラックドラゴンの4枚の翼の内2枚に命中し、尻尾を炭にして翼を燃やしていく。

 ギョェー! と耳を塞ぎたくなる不快な叫び声をあげたブラックドラゴンは、何が起こったのかを確認するようバタバタと懸命に翼を動かし、ゆっくり後ろを振り返った。


 ここで相手の様子を窺うような優しさは俺にはない。
 2枚の翼を燃やされ、何とかバランスを取ろうとするブラックドラゴンに向け、俺は巨大なエアーカッターを放つ。

 エアーカッターを放ちながら、俺はランドルに指示を出す。

「ランドル、体を咥えて王都の外に落とせ」
『了解』

 ブラックドラゴンが飛んでいた場所の下には、冒険者ギルドや軍本部の建物があった。
 このまま落下させたら、かなりの被害が出てしまう。

 ギリギリセーフで、ランドルはブラックドラゴンに噛み付いた。
 斬り落とした首はヒューッと音をたてながら落ちていく。
 落下地点は冒険者ギルドの裏庭にある倉庫で、ドカンと派手な音を立て屋根を突き破って落下した。

 ……あちゃー、直撃してしまったか・・・

 あれは確か、売れ残った素材や修理の必要な武具が保管してある倉庫だよな?
 あの首を売れば、新しい倉庫くらい建つだろう?……たぶん。

『アコル、無理、コイツ重い』

ランドルが切羽詰まった声の念話を送ってきた。

「あっ、悪い、それじゃぁ一旦冒険者ギルド前の大通りに降ろしてくれ」

 本当は冒険者ギルドの広い裏庭とか、直ぐ近くにある軍の演習場に落としたいところだけど、両方とも避難用の地下室が作ってあるので、重量のあるブラックドラゴンを落とすと生き埋めにしてしまう可能性がある。

 大通りの下には地下室を作ってないので、ここは道路に犠牲になってもらうしかない。
 できるだけ低い高さから落としたのにも関わらず、ブラックドラゴンが落ちた通りは結構陥没してしまった。

 ……どんだけ重いんだ? ランドルがブラックドラゴンくらいの大きさの時に、一度だけ大通りに降りたことがあるけど、ちょっとへこむくらいだったはず・・・


 このまま放置していると、ドラゴンの血で道路に二次被害が出そうなので、最近作った大型魔獣専用のマジックバッグに収納するため、俺はランドルに取り付けた金色の籠から飛び降りる。

 大きな落下音とランドルが起こした強風に、何事?と不安になった住民たちが、避難していた建物から顔を出したり、外に出て様子を窺い始めた。
 そして俺とランドルの姿を見て、「覇王様と光のドラゴンだー!」と叫んだり、「覇王様が助けに来てくださったぞー!」と声を上げていく。

「ブラックドラゴンは、俺とランドルが討伐した。
 第二級警戒態勢は解除されていないが、手の空いている者は、西地区の火災から逃げてくる人たちを、軍の演習場に避難させてくれ!」

俺は大声で叫んで、南地区の住民に協力を求める。
 ブラックドラゴンの脅威が去った今、使える人材には協力して貰おう。

 現時点での最優先事項は消火活動だが、それは高学院の学生に任せた方が安全だ。
 即戦力となる冒険者に協力して貰うため、避難している冒険者ギルドの地下室の扉を開け、火災という緊急事態に対応するよう指示を出す。


『アコル、大変よ! ティー山脈から魔獣の大氾濫が始まったって、執務室に連絡が来たわ』
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